【カレッジスポーツ】カンファレンスエクスパンションから考察するスポーツチームの在り方
いくつかのスポーツチームで構成される組織のことをリーグと呼びますが、アメリカ合衆国のカレッジスポーツにおいては「カンファレンス」と呼びます。大半のカンファレンスは全米大学体育協会(NCAA)に所属しており、各所属校の規模や強さによって3つのディビィジョンに分けられています。同じ大学内でも競技によってチームの強さは異なるため、同じ大学内のチームでも競技によって異なるカンファレンスに所属することがあります。
長い歴史を持つカンファレンスであればあるほど加盟する各大学の強さも変わってきてしまう中で、選手の大学への移籍や、大学のカンファレンス間の移動、カンファレンスの解散などが行われています。
今回は大学のカンファレンス間の移動によって発生する「カンファレンス・エクスパンション」について深掘りしていきます。
カンファレンス構成について
まず、カンファレンスエクスパンションについて考えるためにはカレッジスポーツのカンファレンス構成について理解する必要があります。
NCAAのディビィジョン1の上位カンファレンス群であるフットボールボウルサブディビジョン(FBS)には現在10のカンファレンスが区分されており、その上位の5つのカンファレンスを「Power 5 Conference」、それ以外の5つのカンファレンスを「Group of 5 Conference」と呼びます。
Power 5 Conference
・ Atlantic Coast Conference (ACC)
・ Big Ten Conference (Big Ten)
・ Big 12 Conference (Big 12)
・ Pacific-12 Conference (Pac-12)
・ Southeastern Conference (SEC)
Group of 5 Conference
・ Conference USE (C-USA)
・ Mid-American Conference (MAC)
・ Mountain West Conference (MWC)
・ Sun Belt Conference (SBC)
・ American Athletic Conference (AAC)
※ カンファレンスに属さない有力な独立校(フットボールの場合)
・ ノートルダム大学 (University of Notre Dame)
・ マサチューセッツ大学 (University of Massachusetts)
・ コネチカット大学 (University of Connecticut)
・ 陸軍士官学校 (Army)
基本的に各大学が位置する地域に紐づいたカンファレンスに加盟しており、シーズン中はカンファレンスに加盟しているチーム同士、またノンカンファレンスゲームという他カンファレンスのチームとの試合が行われます。ですが、近年、よりハイレベルなカンファレンスを求めて他のカンファレンスへ大学が移動するケースが多くなっています。
※カンファレンスの移動は移動先のカンファレンスの加盟校の賛同が得られれば可能であり、またカンファレンスの脱退は自由にできます。
”カンファレンスエクスパンション”ってなに?
カンファレンスエクスパンションとは、カンファレンスに所属している大学が何らかの理由により他のカンファレンスに移動する際にカンファレンスがエクスパンション(拡張)するということを指します。
カンファレンスを移籍する理由はほとんどの場合において放映権料の分配金です。カンファレンスはそれぞれがテレビ放映権によって巨額の収益を手にしていますが、それを所属するチームに平等に分配するため、当然収益額が多い方がチームの取り分は高くなります。放送契約額に関して、現在Big Tenでは年間約11.5億ドル (〜2030年) 、SECでは年間約7.1億ドル (〜2034年) という巨額の契約をメディアパートナーと結んでいるため、それらのカンファレンスへの移動を考える大学が少なくありません。
“Pac-12カンファレンスが事実上の崩壊”ってどういうこと?
今話題になっているのが、カレッジスポーツにおける有力なカンファレンスの一つであるPac-12カンファレンスから加盟校が次々に離脱を表明していることです。
2022年6月: 南カリフォルニア大学・カリフォルニア大学ロサンゼルス校、2024年よりBig Tenへ移籍
2023年7月: コロラド大学、2024年よりBig12へ移籍表明
2023年8月: オレゴン大学・ワシントン大学、2024年よりBig Tenへ移籍表明
2023年8月: アリゾナ大学・アリゾナ州立大学・ユタ大学、2024年よりBig12へ移籍表明
2023年9月: スタンフォード大学・カリフォルニア大学バークレー校、2024年よりACCへ移籍表明
これらの脱退からPac-12は事実上の崩壊へ向かっていると言われています。
Pac-12から10校が2024年シーズンに脱退してしまい、2校 (オレゴン州立大学・ワシントン州立大学) が残されることが決定しました。
先月行われたオレゴン州立大学 vs ワシントン州立大学のゲームでは10校が脱退を決めたことによりPac-12ではなくPac-2のゲームと言われ、ESPNの解説者からは“no one watches bowl.” (誰も見ない試合) と解説されていました。ですが、その試合の開催校であったワシントン州立大学のブラスバンドがオレゴン州立大学のファイトソングを演奏し、両校のマスコットが相手校の旗を持ってスタジアムへ登場したりと、前代未聞のライバル校の演奏を行い、”Pac-12の孤児”と呼ばれた仲として両校は硬い絆で結ばれていることを証明していました。
今後Pac-12は加盟校を増やせるのか、他のカンファレンスと合併するのか、2校が他のカンファレンスに移動するのか、など様々な報道は出ていますが、どうなるのかはまだ放映権の契約もあり、23-24シーズン中ということもありまだ決まっていません。
カンファレンスエクスパンションのメリット・デメリットとは
カンファレンスを移動するにあたってのメリット・デメリットは何なのでしょうか。大学・選手・ファンの3つに分けて考えてみたいと思います。
大学のメリット・デメリット
[メリット]
・ 放映権の高いカンファレンスに移動することで、収益にあたる分配金が高くなる。
・ 人気の高いカンファレンスに移動すると、観客数が多く、テレビ放映の視聴者数も多いため、学校ブランディングやリクルーティングに効果がある。
[デメリット]
・ レベルの高いカンファレンスに加盟することで、周りのチームのレベルが上がり、チームとしての成績不振につながる可能性が高い。
選手のメリット・デメリット
[メリット]
・ 大学側の収益増加に伴い、練習環境が充実する。
・ レベルの高いカンファレンスには注目度の高い選手が多くおり、スカウトの目も集まるため、スカウティングされる可能性が上がる。
・ また、競争力が高いため、チームおよび選手の競技力が上がる。
[デメリット]
・ 今までは地域によってカンファレンスが分れており、周辺地域での試合が多かったが、カンファレンスを移動することによって遠方での試合が増えるため選手への身体的な負担が増加する。
・ カンファレンスごとのレベルの差が広がってしまうことによって、人気のあるカンファレンスと人気の少ないカンファレンスに分かれてしまい、実力差が広がり続けてしまう可能性がある。
ファンのメリット・デメリット
[メリット]
・ 強豪校が多く集まるカンファレンスに移動することによってよりエキサイティングなゲームが観戦可能になる。
[デメリット]
・ ライバルチームが加盟しているカンファレンスとは別のカンファレンスに移動してしまうことで、伝統的なライバリーゲームが行われなくなり、伝統が損なわれてしまう。
・ 遠方のチームとの試合が多いため、アウェイチームへ出向いて試合観戦をするハードルが高くなってしまう。
大学としては、有力カンファレンスに移動することで収益が上がり、学校ブランディングに関しても満足の行く結果につながると思います。選手およびファンに関しても練習環境の充実や競技力が上がり、強豪校との試合が観戦できるなどのメリットがありますが、それ以上に移動距離の増加による体への負担の増加や伝統的なライバリーゲームの消滅などデメリットの影響が大きいと思われます。
現在もカンファレンスの移動を視野に入れている大学が多く存在しています。スポーツを通してお金を稼げることは非常に良いことであり、スポーツやカンファレンスがそこまでの成長を遂げたという成果であると思いますが、このメリット・デメリットがある中で、大学は実際にプレーをしている選手やそのチームを応援してくれているファンの気持ちを疎かにしてしまっているようにも思います。
最後に
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回はカレッジスポーツにおけるカンファレンスの「カンファレンスエクスパンション」から、Pac-12がPac-2にまでチーム数が減少しており、消滅に向かっているのではないかという話について深掘りをしました。その中でスポーツチームはどういう存在でいるべきなのかについても考察しています。
皆様は、スポーツチームにどうあって欲しいでしょうか。
今回深掘りした内容や私が考察した内容では語りきれない部分があったかと思いますが、ただ競技として存在しているのではなく、スポーツを通してお金を稼ぐことができるほど、人々にとってスポーツというものの価値が高く、人の心を動かすことができるものであるということがお伝えできていれば良いなと思っています。また、私自身もスポーツ業界で働く一人として、スポーツチームの在り方について考えなおす機会になりました。
このカンファレンスエクスパンションの問題は複数のカンファレンスが存在する中では永遠に浮上してくるものであると思いますので、今後の動向も引き続き追いかけていきたいと思います。
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