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海外のスタジアム・アリーナで進むDXを活用したレジレスストアのトレンド

以前筆者はnoteの中で自身の考えとして、日本国内において「ここでしか体験ができない」ものを作り上げ、顧客に多様な体験価値を提供していくことが、国内のスタジアム・アリーナに求められていることだと述べました。
(興味のある方は、ぜひ過去の記事をご参照ください)

また、前述のnoteの中で、海外のスタジアム・アリーナの特徴のひとつとしてファンエクスペリエンスの重要性について述べたように、チームや運営会社は多くのDX(デジタルトランスフォーメーション※)を推進しています。

※デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、サービスやビジネスモデルをデジタル技術によって変革することを指し、スポーツ業界においても、デジタル技術による新たな顧客体験の提供やビジネスモデルの抜本的な刷新といったイノベーションが期待されています。

日本においても2022年3月に第3期スポーツ基本計画が策定され、取り組む12の施策のうちのひとつとしてスポーツ界におけるDXの推進が掲げられました。「スポーツとデジタル技術を組み合わせて新しいビジネスモデルやスポーツ機会を創出する」とあるなど、スポーツ庁がスポーツのデジタル化、デジタル技術の開発を推進しています。

今回は、海外のスタジアム・アリーナに導入されているDXの事例を紹介しながら、国内で推進していくための筆者の考えを述べていきたいと思います。


飲食購入時の長蛇の列が不満!?

試合会場でのスポーツ観戦の際に欠かせないものと言えば、飲食を想像すると思います。スカパーJSATのが全国の男女1,000を対象に実施した、「スポーツ観戦に関する調査2022」では、「試合会場でのスポーツ観戦に欠かせないと思うもの」の1位が「ソフトドリンク」(42.3%)、2位が「食事(弁当・焼きぞば・ピザなど)」(36.0%)と飲食が上位となっています。

(筆者作成:引用元 スポーツ観戦に関する調査2022


一方で、企業向けのシステムを提供しているオラクル社の調査※によると、スタジアム内の飲食での不満として、最も多かったのが「注文のための長蛇の列」、次いで「サービスの遅さ」、そして「オーダーミス」が挙げられる等、スタジアム・アリーナ内の飲食の提供には課題があります。

※調査は、オーストラリア、ブラジル、中国、フランス、ドイツ、イタリア、メキシコ、スペイン、アラブ首長国連邦、英国、米国などグローバルを対象に実施されましたが、日本は含まれていません。

(筆者作成:引用元 オラクル

スタジアム内に導入されるレジレスサービス

消費者のこうした不満を解決するため、海外のスタジアム・アリーナではレジレスサービスの導入が進んでおり、スタジアム・テクノロジーに関する専門誌「Stadium Tech Report」によると、スタジアムにおけるレジレス店舗はアメリカの4大スポーツのスタジアム・アリーナを中心に2022年8月の44店舗から2023年9月には141店舗に拡大しています。

(筆者作成:引用元 Stadium Tech Report


有名な事例としてAmazonが自社のレジレスチェックアウト技術を活用したAmazon Goがあります。

Amazon Goは、店内に数多く設置したカメラとコンピュータービジョンやAI技術を活用することで利用者が手に取った商品を検知し、入店時に登録したクレジットカードやAmazonアカウントに紐づいた決済方法で決済するシステムです。Amazon本社のあるシアトルのLumen FieldやT-Mobile Park等で導入されているほか、ニューヨークやサンフランシスコでは市内にも店舗があります。

Amazon Goの導入は、利用者がレジで待つことなく購入できることで消費者の不満を解消するだけでなく、消費者の行動や購買データを取得することで、店内のサービス改善することに繋がります。
また、無人店舗となると一見セキュリティ面で心配に感じるかもしれませんが、店内に多数のカメラを設置し、決済をキャッシュレスで行う無人店舗は、むしろ有人店舗と比較しても万引きや強盗などの犯罪リスク減少につながるかもしれません。労働者不足が課題としてある日本においては、その点においても企業のメリットがあると考えられます。

Amazon Go店舗の天井には多くのカメラが設置されています(筆者撮影)

さらにAmazonはAmazon Oneという生体認証決済サービスも導入しています。Amazon Oneは、手のひらの隆起や静脈パターンを読み取ることによってパーム・シグニチャー(手のひら署名)と呼ばれる認証データを作成、そこにクレジットカード情報やアカウント情報をひも付け、顧客は手のひらを店舗のリーダーにかざすだけで決済が行えるサービスです。
初回の登録時にはクレジットカードを端末に差し込む必要がありますが、一度ひも付けが完了すれば手ぶらで利用でき、Amazon Goの入店時にクレジットカードを挿すわずらわしささえも解消してくれます。

シアトルのClimate Pledge Arenaにて(筆者撮影)

このサービスは、Amazon Goの決済に使われる以外にも、Amazon One単体で売店やチケットの認証に採用されています。

レジレスストアの実現に取り組むスタートアップ

店内に設置したカメラの映像解析や商品棚のセンサーなどを活用したレジレスサービスはスタートアップによっても提供されています。

その1つであるZippinは、天井で設置するカメラと商品棚の重量センターを利用してレジレスストアの実現に取り組んでおり、Allegiant StadiumやNRG Stadium、Nissan Stadium、Levi’s Stadiumなど多くのNFLのスタジアムに導入されています。


Zippinのサービスの特徴は、導入が比較的容易であること
です。
Amazon Goは導入が進む一方で天井や棚に設置されたカメラや重量センサー、関連設備等のハードウェアの設置だけでも、店舗面積が約167㎡の第1号店では100万ドル(1.4億円)以上かかったといわれます。また、一般的にこれらのサービスは導入までに3ヶ月かかると言われているところ、Zippinのサービスは1〜2日で導入ができます。これは、小売業者にとっては、店舗運営へのほとんど影響なく導入できることを意味しています。また、既存のハードウェアを使用しているため手ごろな価格でシンプルに構築することができ、既存の店舗に簡単にインストールできます。

日本においてZippinは富士通との協業を開始しており、ローソンに実験導入した店舗運営の実証を行っています。導入コストは、40㎡ほどの店舗で約1,000万円〜1,500万円ほどとのこと。単純計算にはなりますが、Amazon Goと比較すると、半額以下で導入できることになります。

筆者は、Zippinのサービスは国内の既存のスタジアム・アリーナに向いているサービスだと考えます。国内のスタジアム・アリーナの大きさを考えたとき、待機列のスペースの確保が難しい点、国内のスタジアム・アリーナの稼働率や労働者不足の問題、そして、既存店舗に1~2日で導入できる事を鑑みると、むしろ国内のスタジアム・アリーナにこそ必要なサービスであると思います。
一方で、現在もしくはこれから建設を進めていくスタジアム・アリーナについてはAmazon Goも検討すべきサービスであると考えています。国内のAmazonの普及率と国民からの信頼性を考えると、導入後の受け入れられ方や稼働率については、期待ができると思います。

最後に

今回は、海外のスタジアム・アリーナにおけるDXのトレンドについて、主に小売店でのレジレスサービスの事例を中心に述べさせていただきました。今回、紹介したサービスは、利用者の不満を改善したサービスとなっておりますが、こうしたサービスの多くは「利用者が何を求めているか」を具現化したサービスであると考えます。そういう意味では、今後の国内のスタジアム・アリーナの発展を考えたときに、Zippinのようなサービスはすぐにでも取り組めるようなサービスではないでしょうか。

スタジアム・アリーナにおけるDXの活用には、他にも映像解析やビジョンの技術を活用したより試合を楽しんでもらうサービスなど、まだまだファンエクスペリエンスの強化のための参考となる事例はあります。
次回のスタジアム・アリーナの回も、引き続きスタジアム・アリーナに導入されているDXの事例を紹介していきたいと思います

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