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W. A. モーツァルト:歌劇「後宮からの誘拐」K.384

演奏:エンシェント室内管弦楽団
指揮:クリストファー・ホグウッド 演奏時間:1時間53分24秒

上記は全曲盤です。お時間を見つけられて是非、お聴きくださいませ。

上記は映画「アマデウス」からカットされたものです。
とても"歌劇"とは思えぬ雰囲気と、得意絶頂のモーツァルトの様子を窺い知ることができるでしょう。

さて、ようやくザルツブルグ大司教の束縛から逃れえて、晴れて音楽の都
ウィーンに住み始めた解放感と、音楽家としての将来を切り開こうとする
高揚感は如何ばかりであったことでしょう!

しかも幸運なことに、時の皇帝ヨーゼフ2世は(イタリア語ではなく)ドイツ語オペラを積極的に導入しようとする「ドイツ国民劇場」構想に力を入れておりました。
( ヨーゼフ2世は、女帝マリア・テレジアの息子で、マリー・アントワネットのお兄様。)

皇帝その人からの直々のお声がかりで、ドイツ語オペラの作曲を依頼されたのです。モーツァルトの鼻はこれ以上ない程に伸びきっていたことでしょう。

実は、歌劇「後宮からの誘拐」の筋立ては大したことはありません。

キリスト教徒の貴族ベルモンテは、トルコの太守の宮殿に奴隷として囚われている恋人コンスタンツェを救出にやってきます。
彼は、従僕や恋人コンスタンツェの侍女ブロンデの助けを借りて、彼女を連れて逃げようとしますが、宮廷の番人オスミーンに妨害されて捕まり、処刑されそうになる。
が、太守の英断により放免されるのでーす!・・・ それだけ。

ですが、神話や、古代の聖人を讃える、辛気臭い音楽だけを聴かされていた聴衆からすれば、実に画期的な、魅惑の音の洪水に思えるものでありました。

作曲に着手した1781年8月から10ヶ月、年が明けて1782年5月29日に全曲を完成します。

ン? 高速作曲の、天才モーツァルトにしては時間が掛かり過ぎていませんか?

それは、ヨーゼフ2世の宮廷の国立劇場監督やら宮廷楽長やら宮廷作曲家(サリエリ)やら主要役職は皆、イタリア人達に抑えられており、彼ら全員が、イタリア語でないオペラなどありえない、と上演を阻もうとし、さまざまの障害にあって延期されたからです。

ようやく1782年7月 皇帝ヨーゼフ2世の命令により、ウィーン劇場で行われました。
が、残念ながらとても、ハプスブルグ家の当主で神聖ローマ皇帝である方がいつも見るレベルの、神聖で、清らかな歌劇、というものではありませんでした。
舞台狭しと芸人男女たちが飛び跳ね、踊りまわり、おごそかさも何も・・。

モーツァルトを応援した高官も、名だたる貴族たちも顔をしかめ、上演に反対したイタリアンの高官たちは「それ見たことか!」と祝盃を上げたと伝えられています。

いえ、音楽そのものは素晴らしいのです。躍動感にあふれ、しかめつらしい歌劇を笑い飛ばしてしまう程に、画期的で、踊りだしたくなる、素晴らしい出来上がりでありました。

しかし悲しい哉、モーツァルトは、自分の作品が、同時代の貴族の方々向きではない事にも、この宮廷の人脈や政治の難しさについても、全く理解できていませんでした。

悲劇は、しかるべくして始まったのです。

⇒ W. A. モーツァルト:ピアノ協奏曲第18番 変ロ長調 K.456 へ
  続きます。


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