〔憲法コラム11〕外国人の地方参政権

 一時的に日本に在留するにすぎない外国人に選挙権が保障されないことについては争いがない。
 これに対して、定住外国人も同様に選挙権が保障されないかについては争いがある。
 国政レベルにおける参政権と、地方レベルにおける参政権の両者について、説の対立がある。

〈論点1〉定住外国人にも国政選挙の選挙権が保障されるか。
 A説(否定説 判例・通説)
 結論:外国人に国政選挙の選挙権は保障されない。
 理由:国民主権原理からみて、国民が国政に対して直接ないし間接に参加する権利である参政権を日本国民に限ることは、権利の性質上認められる合理的な制約である。
 B説(肯定説 浦部)
 結論:定住外国人については、国政選挙の選挙権も保障されてしかるべきである。
 理由:①日本に生活の本拠を置き日本で生活している外国人は、日本国民と全く同じように、日本に政治の在り方に関心をもっている。
    ②民主主義の観念と結び付いた国民主権原理の根底にあるのは、一国の政治の在り方はそれに関心をもたざるを得ない全ての人の意思に基づいて決定されるべきだとする考え方である。
    ③人権の問題を考える際に重要なのは、その人の国籍ではなく、生活の実態である。

〈論点2〉定住外国人に地方選挙の選挙権が保障されるか。また、憲法上の保障は及ばなくとも、法律により地方選挙の選挙権を定住外国人に与えることは許されないか。
 A説(禁止説)
 結論:外国人に地方選挙の選挙権は保障されておらず、また、これを法律で付与することも憲法上禁止されている。
 理由:公務員の選定・罷免権は、国民主権原理の帰結であり、その保障が専ら日本国民に対してなされるべきことは、事の性質上、極めて当然である。
 B説(要請説)
 結論:生活の実態という点で日本国民一般と変わらないような外国人に対しては地方選挙の選挙権も保障されてしかるべきである。
 理由:〈論点1〉B説と同じ
 C説(許容説)
  C①説(市町村レベルのみの許容説 佐藤(幸)、芦部等)
  結論:定住外国人に市町村レベルの選挙権を付与することを憲法は立法裁量の範囲内で許容している。
  理由:市町村レベルは住民の日常生活に密着している。
  C②説(都道府県レベルも含めての許容説)
  結論:定住外国人に地方自治体レベルの選挙権を付与することを憲法は立法裁量の範囲内で許容している。
  理由:外交、国防、幣制等を担当する国政と、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務を担当する地方政治とでは、国民主権原理とのかかわりの程度に差異がある。

[重要判例]
 最判平7.2.28百選Ⅰ(第7版)[3] 定住外国人地方参政権事件

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