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3つのチェーンストアで学んだこと:外食編

独立前に店舗開発として、美容・外食・小売(輸入食材)の3つのチェーンストアで働き学んだことを纏めてみる。今回は外食編。

美容の会社に在職時、千葉県内のSCの2階で新店オープンの準備をしていた際、1階のレストラン街から怒号と共にスタッフに発破を掛ける声が聞こえた。2階から覗き込むと黒いTシャツを着たおじさんが仁王立ちになっていた。1年後その会社に転職、黒いTシャツのおじさんは、社長だった。

働き続けた先にある「ありたい自分の姿を作る」と決めて転職した。

外食の会社で学んだこと

企業には第2創業期に例えられる時期がある。私が入社した頃の会社はまさにそんな時期だった。それはありたい自分の姿を作る、と転職した私に最善の会社だったといえる。

ありたい自分の姿 ➡ 店舗開発職として経験を積み重ねた時の自分はどんな能力を有しているだろう?

店舗出店をひとつのプロジェクトと捉えると、店舗開発担当者はプロジェクトリーダー(マネージャー:PM)である。初期投資が数億円を超える場合、投資に対する工事費割合が大きいため、内装工事費を適正価格に管理するコンストラクション・マネジメントは必須であり、コンストラクション・マネジャー(CM)を店舗開発担当者が務める(企業による)。
CM=PM として家賃(経済条件)交渉から設計・工事監修、予算管理、スケジュール管理まで一貫して行う。
店舗開発として働き続けた先にあるありたい自分の姿を描くために、まずは店舗開発者として、究極の店づくり職人(PM/CM)を目指すことにした。

入社時、既存店が70店舗ほど、路面出店から全国の商業施設への店舗展開が拡大していた時期であった。全国のデベロッパーから出店要請が届き、大型プロジェクト案件が持ち込まれ、店舗数は加速度的に増加していた。

一般に国内のデベロッパー(D)物件の出店の流れは、①Dからの出店要請➡②物件立地(市場)確認➡③経済条件の交渉➡④出店申込み➡⑤重要事項確認書(MOU)合意➡⑥設計説明会:設計開始➡⑦工事説明会:工事乗込み➡⑧工事完了➡⑨開業準備期間:各種検査➡⑩開業 の順番で進む。   時間軸では、⑥から⑩までの期間で半年ほどの時間がかかる。国内のデベロッパーの場合、重要事項確認書(MOU)の合意を重要視し、MOU調印時点でテナント側は出店向けて設計を開始する。
無論、デベロッパーから開業前に賃貸借契約書(案文)が送られ、条文チェックを行うが、最終締結は店舗開業と同時ということもザラにある。
 余談だが、法的拘束力の無いMOUよりも、 tenancy agreement で細部に渡り合意形成を行う海外の契約と比べて、国内の出店契約は本当に性善説に基づいている、と思う。

当時、店舗開発担当者として、1年ほど前から①~⑤に該当数する案件を数十件を抱え、⑥~⑩の案件を数十件抱えて働いていた。1ヶ月に13店舗新規開業した月があり、創業社長の元、立上げ部隊も含め、全社一丸になって働いていた、本当に第二創業期だった。

時に、四半期90日間で75日出張しながら出店調査や打合せを行い、都内で数億の投資物件や合弁事業のCMをしていた。大阪出張中に連絡がありCMとして帰京しなくては行けなくなったが翌日の大坂打合せのリスケができない。そのため時間のみ変更し、始発の新幹線で帰京し打合せ終了後大坂に戻り、2件の打合せ後、最終便で帰京するくらいの勢いで働き、鍛えられた。

嵐のような生活の中、記憶に残る大型案件のCMを数件担当させて頂き成長させて貰った。また、優先順位をつけて仕事をこなす、動きながら意思決定する、少ない稼働で最大成果を出す、この3つが身に付いた。

上り調子の会社では出店交渉において好条件が引き出せる、が、年間70店舗(1店舗数億案件も有った)近い出店費用(物件取得費/工事費/諸経費)は数十億に及ぶはずだ。入社した頃は年商100億に満たなかった企業になぜここまでの費用が調達できたのだろう? と後年、考えた。

飲食業は本来、経営の仕組み化ができれば、CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)がマイナスになる。急速な店舗展開による売上アップで、CCCのマイナスから短期的に大きな余剰資金を生みだし、ROIC(投下資本利益率)=税引前利益+支払利息/投下資本(借入金+株主資本)が10%を超えていたのではないか、四半期決算の1Q,2QのROICが10%を超えれば与信評価は高く、銀行融資を引き出し易かったのでは、と推測した。➡いつか確認してみたい。

外食業界では時折スポットが当たり急成長する企業(ブランド)が現れる。まるで大きな高波に乗るように。しかし、その後消滅して行く企業(ブランド)も多い。

多店舗事業者が100億の壁を超える時「波を捕まえる」ことが必要だということを学んだ。そして、波を捕まえた後には繰り返しPDCAを回し事業の地固めが必要な時期がくる。出店の加速は消費者の認知が進むのと同時に”飽き”を生む。一方で店舗/従業員は驚くほどに増えている。その時期の事業軸の地固めには①業態構築(改善)力 ②会計(管理/財務)とコーポレートファイナンス③運営力(店舗/人材の管理力)の3つの強化が必須だ。地固めができた企業だけが生き残れる。

在職中だけでなく、退職後も本当に色んな意味で学びを与えて頂いたことに感謝しかない。そして、千葉のSCで仁王立ちになって発破を掛けていた社長は今も先頭に立って会社を引っ張っている。

外食業界の市場と概要

食品の流通図

上記図は平成30年5月22日に公表された、農林水産省の平成29年度食料・農業・農村白書からの抜粋である。一般社団法人日本フードサービス協会が令和元年7月に発表した平成30年外食産業市場規模推計では、25兆7,692億円と推計しており、平成7年(1997年)に外食業界最大の29兆円を計上してから、この20年ほどは市場規模25兆円前後で推移している。また、前回の経済センサス基礎調査では国内に67万店の飲食店があり、外食・宿泊業は、全産業中12位の市場規模、就労者数4位の産業である。以下の農水省のデータによると、外食の個人経営が総店舗数の5分の3を占め、法人形態でも4分の3が資本金1,000万未満の、中小零細な事業者が多い。

一方、業界のリーディングカンパニーである㈱ゼンショーホールディングス最新の有価証券報告書によると2019年3月期(第37期)の売上は、6,076憶7900万円、時価総額は3524億6700万円(業界2位)、時価総額1位の日本マクドナルドホールディングス㈱の時価総額は7751億5600万円(49期売上高:2817億6300万円)であり、25兆円の市場規模ながら売上/時価総額共に1兆円企業は存在しない。*時価総額は日経バリューサーチ(2020.6.5)による。

廃業率

そして、平成29年4月に中小企業庁調査室が発表した2017年版小規模企業白書概要で示されている通り、飲食サービス業は全産業の中で最も、高開業率/高廃業率の業種である。家業として料理の世界を選択した優秀なオーナーシェフがいる一方で、1年廃業率30%、3年廃業率70%ともいわれる理由のひとつに、参入障壁の低さから安易な独立開業や「美味しいものを出せば良い」と経営を理解しない、個人オーナーの多さが指摘される。
しかし、事業としてみると、前出の通りCCCのマイナスからROIC経営に繋がり易い業種であるため、しっかりとした業態開発(構築)、経営(会計・運営管理)を行えば、多店舗事業者として成功を掴み易い業界であるといえる。

➡外食業界はコロナ前から過渡期にある。昨年からの「働き方改革関連法」の順次施行で2020年4月「パートタイム・有期雇用労働法」が施行され「同一労働、同一賃金」が原則となった。同じく2020年4月からの「受動喫煙防止条例の施行」や2021年6月からの「HACCPに基づく衛生管理の制度化」などで運営事業者の負担は今後も大きくなる。経営資源の中で人的資源の優位度は今以上に高くなり、人的資源の維持のためには生産性の向上しかない。

コロナ禍は外食事業者の経営問題の改善を加速させ、乗り切れない企業においては、M&Aなどが進むと考える。これらの問題は事業ポートフォリオの視点などで、また別の機会に書きたい。

外食の会社で考えたキャリアデザイン

真摯に働けば「ありたい自分の姿」が見えてくる、と信じてヘドがでるほど働いた。しかし、それはどこまでも自分のありたい未来のためで、仕事の手ごたえを感じる一方で「プロサラリーマンになれない自分」を感じるようになった。プロサラリーマンに必要なモノは?自問した先の答えは「長いモノに巻かれる能力」だった。

この頃、プロサラリーマンとしての自分をSWOT分析してみた。清々しい程に「weakness:長いモノに巻かれる能力の欠如」が明示された。プロサラリーマンに成れないなら独立? とも考えたが、職種がニッチ過ぎ、swot分析ではThreat:店舗仲介の物件紹介と混同され、差別化まで時間が掛かる(マイナス)となった。

独立の踏ん切りがつかない私は、最後の転職をした。

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スパイカ株式会社は店舗事業構築支援を行う会社です。

代表田上の会社員時代の経験と現在スパイカ株式会社の業務について、
『店舗開発のお仕事』としてマガジンに纏めています。


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