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名前のない木 14章


母視点3

ミッシングリンク

険しい表情になってるお父さんに「大丈夫?」って私が質問しても、お父さんは私に目を合わせようともせず答えない。
あなたは「順番が大事」を連呼してるから、気味が悪くて。

お父さんはしばらくおし黙った後、あなたに向かって、

「そうだな、しっかりやるよ」

って返答したの。

そしたら、あなたは見開いた目をゆっくり閉じて、起き上がっていた上半身を下して横になって静かに寝たのよ。

それを見て、私は改めてあなたの体に外傷がないかどうかチェックしたけど、腕に小さいかすり傷があったぐらいだった。でも、念のために救急車を呼んで「念入りなチェックをしてもらった方が良い」と提案したの。頭を打っている可能性があるなら、脳内出血とか時間差で取り返しがつかなくなることがあるって言うでしょ?

でも、ハキハキ喋った後にスヤスヤと寝ているあなたを見て、

「とりあえず明日まで様子を見よう」

とおじいちゃんが言い出して。おばあちゃんまでそれに同意をしたのよ。
お父さんは無言だったから、黙認ってことなのよね。

私だけはその場で猛反対したんだけど、私が荒げた声を聞いて、寝ているあなたが寝返りを打って、嫌がる動きをしたのが決め手になっちゃって。

「明日の朝、様子がおかしかったらすぐに病院に連れていく。」
ってことでその場は押し切られちゃったのよ。

それで布団で熟睡するあなたをお父さんが背負って、母屋からあなたの二階の部屋まで運んで、ベットに寝かせたのよ。

その後、リビングで私とお父さんはソファーに座って話す流れになったわ。
私は、お父さんに『順番は大事』ってどういう意味なの?
ってしつこく詰めても答えないどころか、今でいうところの「逆ギレみたいな反応」をしたのよ。

・あなたが外に出て行ったときの素っ気ない対応をしたこと
・救急車をすぐに呼ぶことに賛成しなかったこと
・質問に答えないどころか逆ギレしたこと

これで数か月ぐらい、まともに口を利かない冷戦状態になったわ。

(数十年前の話だが、当時の感情を思い出し「思い出し怒り」が湧いてきたのだろうか、ここで一旦話を区切って母はゆっくりとコーヒーを飲む。)

でもね、、

あなたが朝起きたら何事もなかったように元気だったことは、本当に良かったわ。深夜も1,2時間おきぐらいに寝ているあなたを確認しにいってたから、私はほとんど寝てなかったのよ?

元気に学校に向かう様子を見てホッとしたのよ。
なのに、その後あなたの部屋の掃除に入ったら、登校したはずのあなたが部屋にいたんで驚いて。
そのとき、ものすごい怒ったはずよ。覚えてる?

それは覚えてるよ、すごい剣幕で怒られたからね、と私は即答する。

すると母は、安心したように話を続ける。

そこは覚えてるのね・・・。

後日、何気なくあの台風の日のことをあなたに聞いたら、あなたが外に出たこと自体、一切覚えていないみたいだから、ほんとに心配したのよ。
脳神経の先生とか、心療内科の先生とかに聞いてみたこともあったんだけど。
”何か強い心理的要因による一時的な記憶障害だとするなら、無理に思い出させない方が良いこともあります”
みたいなことを言われてたのもあって。

結局、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、私の4人で口裏を合わせて、あなたの前では『なかったこと』にしてたのよ。

ここまでがあなたに「秘密」にしてた理由。



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