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梅雨の野良仕事 中耕とマルチ


<梅雨の野良仕事 中耕とマルチ>

自然界の営みは複雑で奥が深い。まだ科学技術で解明できていないことがたくさんある。コンパニオンプランツはもっぱら畝の上だけの狭い世界で相性やものごと見てしまう。
しかし、畝も通路も隣の畑も、森林もすべてが同じ大地でつながっていること、同じ大気で包まれていること、同じ天から太陽光を受け取っていることを忘れてはならない。
だから、全体を常に観察し、ときに手を入れ、ケアをしてデザインし直す必要がある。

本格的な夏がはじまると夏野菜とはいえ野菜たちの元気が無くなってくる。まるで夏バテしているようだ。
それもそのはずで夏野菜の多くの育成適温の最大値は25~30℃くらい。35℃以上となると成長を止めてしまうものも多い。

この時期に追肥や潅水などを施して成長を促してやることができるが、自然農だからといって何もしないと弱って病気になり、虫食いがひどくなって最悪死んでしまう。はじめて自然農をした年はその思い込みのせいでミニトマト以外収穫がなくなってしまった。しかし自然農の職人たちはこの時期にひと工夫することで弱らせることなく秋の終わりころまで収穫を続ける。その工夫こそが対話である。

その工夫とは通路への中打ち(中耕もしくは空気れ)、土寄せ、草マルチの三つだ。

まず、通路への中打ちは乾燥が好きな野菜や湿気がたまりやすい畑にぜひともしてもらいたいテクニックだ。江戸時代の農書にも登場する伝統的なテクニック。方法は簡単で通路に剣先スコップを深さ20~25cm(スコップの部分が長さ25cm)ほど足で差し込み、テコの原理を利用して手前に柄を倒す。それを5~10cm間隔で下がりながら繰り返していく。

もし、通路に緑肥を育てている場合は10cm間隔でよい。中打ちしたところは踏まないようにすることと、数日間は歩かないようにするのが良い。強い雨が降る直前もしくは直後に行うことで水捌けを良くすることができる。5月号に書いたように通路は普段から歩いて踏み固めてしまいやすく、梅雨や台風、夕立の強い雨でどんどん硬くなってしまう。

通路の水捌けが悪くなれば、畝も水捌けが悪くなってしまうので夏バテした野菜が病気になってしまう。実際に中打ちをすると空気が流れ始めて、驚いたミミズが出てくることがある。畝と通路がつながっていることが良くわかる現象である。土の中に空気の層が多くなると根が伸びやすくなって成長が促進される。乾燥が好きな野菜にとって、最高の肥料は「空気」である。特に乾燥が好きなトマトやサツマイモ、カボチャなどのウリ科に最適なテクニックだ。

病気や害虫という問題が現れたとき、起こっている現象に手を出す対処療法ではなく、根本を問い直しデザインし直す根本療法をしていく。根本をデザインし直せば、自ずと現象は治っていく。

自然農の技術はあくまでも根本療法であり、ときにする技術は植物たちのストレスと減らしてあげることで、免疫力と自然治癒力を引き出すことを目的としている。

二つ目のテクニックは水が好きなナスなどに最適な土寄せである。土寄せというとイモ類にするイメージが強いが、ナスにも最適である。
これもやり方は簡単で通路の土を剣先スコップで掘り起こして、ナスの自立根圏内に置くだけ。土寄せする深さはナスの根元の木質化している高さまで。高くても5cmほど。できれば、梅雨明け直後や雨が降った後に行って、土中水分を逃さないようにする。このときナスの根元に敷いていた草マルチはどかさずに、その上に土をかぶせて良い。ただし、枯れた草だけになるように、青い草は刈って土寄せの後のマルチに使おう。草マルチの上に土を被せることでミミズや土壌生物たちが分解し、良質な土に変えてくれる。それが追肥効果を生む。

これをすれば真夏でもナスの収穫が期待できるが、次に話す草マルチの工夫も同時に行うほうが確実だ。ナスは「太陽と水」で育てる。せっかく降った雨をしっかり閉じ込めて十分に活用したい。

(この土寄せはこの時期に水がほしいキュウリやゴーヤ、根が浅いピーマンにもオススメなのだが、あまり土を寄せすぎると過湿で病気になりやすいから注意が必要だ。必ず土は根元の木質化したところまでにすること。また、土寄せ後に通路への中打ちも行ないたい。これらの野菜は土寄せよりも草マルチの工夫の方が失敗が少ないので、砂質の畑の人だけが土寄せをするほうが良い。)

最後に草マルチの工夫である。自然農では刈った雑草や藁などでマルチをするのだが、ここでも一工夫がある。
まず乾燥が好きなトマトなどの野菜のマルチは畝に対して直角に置く。このとき緑肥などで栽培しているイネ科植物を長めに刈って敷く。このように敷けば、雨が降った後に畝の上にたまらず通路に水を逃がしてくれる。特に強い雨が降りやすい夏場は泥はねで病気になりやすいので、土が見えないくらいのマルチの厚さが必要だ。

次に水分が好きなナスなどの野菜のマルチは苗を囲むようにマルチを敷く。このときは短めに草を刈って敷くと円形にしやすい。このように敷けば、水を流すことなく留めてくれる。こちらも泥はねを防ぐために土が見えなくなるくらい厚く敷く。

これら3つのテクニックを使い分け、最適なタイミングで最適なケアを施せば夏野菜は夏バテすることもなく実をつけ、11月頭まで収穫ができる。
しかし毎年必ずしもするわけではない。その年の天気や野菜の成長具合を見て行う。雨が多い年は中打ちの回数が多くなるし、マルチも最低限に抑える。雨が少なければ土寄せをし、マルチを厚くする。もちろん、乾燥が好きな野菜、水が好きな野菜に応じて使い分ける。さらに成長具合を見て多くしたり、少なくしたり微調整をする。やればやるだけ良いわけでもないし、やらなくても構わないわけではない。その野菜にとって、最適なタイミングで最適なケアをする。スケジュール通りではなく、野菜の気持ちに寄り添う。

つまり「必要なことはするが、余計なことはしない」だ。そのために日々の野菜の観察を怠ってはならない。野菜を観察し、彼らがいま何を欲しているのか、何をしてもらいたいのかを見極める必要がある。もちろん、そのなかで何もしないという選択肢もありうる。彼らの声を素直な心で聴きとれたら小さなケアをするだけで、彼らはのびのびと成長を続けるだろう。あなたのケアに対して必ず彼らからフィードバックがある。それに応じてまたこちらもケアの仕方を変える。この、その野菜との対話が自然農の面白いところである。


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