見出し画像

コンパニオンプランツの精神


<コンパニオンプランツの精神>

各植物の才能を活かせる環境を整えてあげると共に、短所を補い長所を生かす組み合わせを考える。自分自身は演奏しないコンダクターであり、自身はプレイしない監督のようにタクトを振るう。

自給のための農は栄養面や食卓のバラエティ、年間を通しての食のニーズを満たすために多様な作物を栽培する。それは不作や病害虫の発生に対しての保険(重要機能のバックアップ)となる。世界中の小作農が高収量の優良品種と同時に、低収量または劣等品種の栽培を続ける理由がここにある。

彼らは高収量で収穫の容易な作物を作る一方で、干ばつへの対応力や病害虫への抵抗力を持つ作物を栽培する。また、観賞用や感情、文化、スピリチュアルなどさまざまな理由で、いろんな種類の植物を育てる。こうして、自ずと自給には多様性が欠かせなくなる。人間には直接の必要性以外に大切なものがあることを表している。

小農で生計を立てるような職人はなるべく少ない面積や水、肥料、手間でなるべく多くの収穫をあげ、栄養価の高い野菜をつくるように心がけて、多様性の誘惑とのバランスを保つ。多種多様が多くなればなるほど豊かになるわけではないことは肝に命じておきたい。何事にもちょうど良いこと(最適さや中庸など)が無理のないデザイン。

コンパニオンプランツのレシピは大きく分けると3種類に分類できる。
お互いの根っこの形が違うから、お互いの成長を邪魔することなく育つことができる「共生関係」。お互いの害虫を忌避しあったり、お互いの成長を助けあうことができる「協栄関係」。風除けや益虫を呼び寄せてくれる「バンカープランツ」である。これら3種類は綺麗に分類できるわけではなく、複数ないしすべての関係性をもつ組み合わせがある。

科学的に解明できているものもあれば、そうでないものもあり、人や本によって紹介されている事例が違う場合もよくある。「すべての真実はすべてウソ」であるように、畑や気候との相性、種まきや定植のタイミング、自立根圏への配慮、ケアの仕方の違いもあることからそういった違いが生まれる。

大切なことは思い込みでデザインするのではなく、畑で起きていることを観察し、いろいろ試してみながら最適なデザインを探ることだ。何がどのように機能するか決めてかからず、白紙の状態で挑めば、誰もが思いもつかなかったオリジナルのデザインにたどり着く。周りに最適なモデルがなかったり、あったとしてもあなたの畑に適切ではないことがある。自然生態系では複雑さや特殊性がつきものであるからだ。

試すということは余裕がないとできない。だから、はじめは手を出しにくいかもしれない。ある程度の収穫物を得られるようになったら、いろいろ思いつきでも良いから試してみよう。すると、この地球生態系がガチガチで余裕のない仕組みではないことがよく分かる。植物自身の個性や才能に幅があり、微生物や大地は広く受けて入れてくれるだろう。そして、周りの環境や生物がお互いに関係性を深めて、ちいさな共進化とも言える現象が起きる。こうした不確実性は必ず存在する。新しい試みには失敗はつきものだが、多くの場合、新しいデザインは失敗から生まれる。科学的な知識から知ることには限界がある。しかし、生物多様性の世界から学ぶことには限界はない。

モノカルチャー栽培の収穫や利益に頼り、副次的な収穫や利益を無視する精神にとって生物多様性は邪魔者でしかない。コンパニオンプランツから得られる収穫物と環境への恩恵をデザインに取り組むことができれば、余計な仕事は減り、余計な汚染への対処が必要なくなる。

たとえば、通路に緑肥を生やしたり雑草を生やしておけば、そこに虫が棲み着いて勝手に害虫を食べてくれる。また、草は流失しやすい養分を茎葉に溜め込んで来年の野菜の養分となる。除草剤を撒き、肥料を与え、殺虫剤を撒く原因は、実はそのモノカルチャー精神が原因なのだ。野菜に必要なものなのではなく、モノカルチャー精神にとって必要なものに過ぎない。

病原菌には種特異性というのがある。ある植物種に寄生し病害を与える菌は、他の種には毒性を発揮しない。つまり、トマトのすぐ隣にトマトを植えれば、病原菌にとってはありがたい。大繁殖するチャンスだ。トマトとのすぐ隣に違う植物種・バジルを植えると病原菌が繁殖してもバジルは育つ。逆にバジルの病原菌が繁殖してもトマトは育つ。

お互いの病原菌が縄張り争いをすることで、大量繁殖を防ぐことができる。これが森林や草地で多様性が生まれる仕組みであり、自然農の畑で病気が発生してもすべての株が全滅しない仕組みだ。生物多様性の世界では何か一つの種だけが繁栄することはあり得ない。ほとんどの植物は自身の根元に病原菌が多く潜むことから、遠くに種子を運んでもらおうとするのだ。

自然農とは「肥料や農薬を使用しない」栽培ではなく「肥料や農薬を必要としない」栽培である。モノカルチャー精神はもともと仲間であり味方だったものを「敵や邪魔者」とみなしてしまう。唯一神を持つ宗教が他の宗教の神様を受け入れられず宗教戦争に発展するように。

しかし生物多様性の世界ではすべてが融合した一つのシステムで、敵も味方もなければ、余剰も無駄もないと考える。だから、生物多様性を尊ぶ人々にはアニミズムや多神教の人が多いのだろう。

植物は超わがままで、超素直だから、こちらから合わせてあげる必要がある。名監督は才能とプライドの高いタレントが集まったクラブで、余計な戦術を教え込むのではなく、選手たちの才能がカチッとはまる組み合わせを考える。そのために選手を知り、彼らの才能を尊重し、信じてピッチに送り出す。つまり、選手をこよなく愛している。だから、名監督は成績以上に選手から愛されるのだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?