直播のコツ
<直播のコツ>
農業の世界には、育苗農家(約9%)・栽培農家(約90%)・採取農家(約1%以下)の3種類がそれぞれ専門に特化して分業していて、すべて行う農家さんは数が少ない。難易度が高いのは採取、育苗、栽培の順である。だから、はじめのうちは育苗が失敗してしまうかもしれない。しかしやらないことには学ぶことができないから、もし失敗したら直播きや苗を購入して次のステップに移ろう。
育苗とは違う難しさと世話があるが、自然農の先駆者たちが直播きにこだわるように、直播の良さもたくさんある。直播きのデメリットは雑草管理が大変で、畑次第だが、虫害に遭いやすい。しかし、移植時の活着までの空白期間がなく、根を傷つけないのでたくましく成長する可能性も高い。
タネを蒔く前にはしっかり除草し、土の表面を軽く耕して根張りが良くなるようにアシストしてあげる。虫害のリスクを考えて、タネは多めに蒔き、適宜間引いていこう。苗床とは違い、強い雨や風にさらされるので、草マルチの工夫や行灯の設置はもちろんのこと、こまめに会いに行って様子を伺おう。とくに雑草の成長のほうが早いので草取りはこまめに行うこと。
土ができ、畑ができ、季節を読み解き、草取りが上手くなれば直播きでも十分な収穫が得られる。自然農に慣れてきたら積極的に取り入れていくのがオススメだ。特にイネ科、マメ科、ウリ科、シソ科、アガサ科、オクラなど移植に向いていない植物や根菜類は直播きの方がよく育つ。
直播の覆土は育苗の時と同じようにタネの厚さと同じから3倍ほどになる。しかし育苗用土とは違って畑の土質によって厚さは変わるし、季節や天候によっても変わる。基本的な考えとしては、発芽までの間に土が乾いてしまわない厚さとなる。そのため日照りが続けば厚くなるし、雨が多ければ浅くなる。
夏野菜は雑草との戦いになるが、秋冬野菜は季節の流れとの戦いになる。秋冬野菜のタネ蒔き(と定植)のシルバーウィークはヒガンバナが咲いてから、金木犀が散るまでの間となる。はじめりの目安の気温は最高気温が25度以下・最低気温15度以下で、終わりの目安は最高気温が15度以下・最低気温が10度以下である。地域やその年の天候によって変わるので、他の樹木や草花も観察して自分の畑にあったタイミングを見極めたい。
秋冬野菜は早く蒔いてしまうと虫害にも遭いやすく、雑草の勢いにも負けてしまいやすい。逆に遅く蒔いてしまうと生育期間が短いために十分に大きくならずに冬を迎えてしまう。そのため、このタイミングを見極めるのが難しい場合は防虫ネット、寒冷紗、小型のビニールトンネルなどを利用するのもオススメだ。いずれはそういったものがなくてもできるようにしたい。数日おきにタネを蒔きつづけ、虫害に遭うたびに撒き直すことでそのタイミングを見つけることができるだろう。
団粒構造の土がまだできていない畝では自家製堆肥を元肥として表面に補うのもオススメだ。ほとんどの秋冬野菜(とくに葉物野菜・結球野菜)は土が肥沃な方が冬の間もよく育つ。栽培期間が寒くなる一方なので、菌根菌やチッソ固定菌の活動も弱くなってしまうからだ。ただし養分過多になれば春先に大量の虫がついてしまうので、表面を覆う程度に抑えること。
菌根菌と共生しないアブラナ科、タデ科(ソバなど)、アガサ科(チャードやほうれん草)は自身の根から酸を積極的に出して、土中内のミネラル分を溶かして吸う。そのため土中内の酸性度が増してしまい、来年の夏野菜の生育に影響を与えてしまう。その対策に炭や灰の補いもマルチとして行いたい。炭は特に地温の蓄温保温にも役に立つ。秋冬野菜には中性からアルカリ性を好むものが多いので、籾殻薫炭のように細かい炭は使い勝手が良い。
根菜類は直根を食べる野菜なので、土が柔らかいほどよく育つ。そのため砂質の方が生育がよく、味がよくなる。しかし表面5cm程度は肥沃で水分があることが喜ぶ。本来なら大きな葉を広げることで根元の水分を確保し、周りの雑草を抑えるが、まだ幼い時はそれが十分に働かない。そのためマルチの工夫やこまめな草刈りをしたい。
タネを蒔いたところの近くに生きている根があると発芽しないか、してもすぐに枯れてしまうことがある。そのためタネ蒔きの前の草削りと中耕(根切り)をオススメしたい。根菜類のコンパニオンプランツには根菜類がお互いの根張りを邪魔せずに済む。そして同時にタネを蒔くことで直根の成長を競わせて、下へ下へ促したい。
直播には点蒔き、すじ蒔き、ばら蒔きとあるが、それぞれにメリットとデメリットがある。栽培の仕方や目的、畑の規模や使用する資材、職人の好みなどで変わっていくる。はじめはいろいろ試してみるのも良いだろう。実践を繰り返せば、いずれ自分の適正技術が分かる。
自然界では微生物がタネの発芽をコントロールしているが、栽培種ではその影響を受けない代わりに、新芽が重なりあってしまい徒長してしまいやすい。職人たちはタネ蒔きの段階で絶妙な感覚で蒔いていく。これもまた実践あるのみだ。いずれ手がその感覚を掴んで絶妙な間合いを生み出していく。
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