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人間界のダークヒーローは自然界のヒーロー  黄砂


<人間界のダークヒーローは自然界のヒーロー  黄砂>

春にはもう一つ、人間界の嫌われ者、ダークヒーローがいる。それが中国大陸から海を越えてやってくる「黄砂」である。大陸内部のゴビ砂漠、タクラマカン砂漠、黄土高原などから偏西風に乗って、青空が霞むほど大量に舞いながらやってくる。

近年になってから黄砂の存在と被害について多数報告されるようになったことで、黄砂もまた現代人にとって嫌われる存在となった。車や窓ガラスを汚したり、洗濯物に付着したり、近年では黄砂アレルギー症状も報告されている。

黄砂の歴史は古い。実は最終氷期がはじまった約7万年前から日本列島には黄砂が到来していたことが地層調査によって確認されている。しかも当時は10cm3あたり12gで、1万年前から現在までの完新世の10cm3あたり3~4gの3倍近くも多い。

それもそのはずだ。地球寒冷期は森林が縮小し、乾燥したサバンナが広がるため、黄砂が空中に舞う割合が高まる。逆に温暖期には森林が拡大し、湿潤な大地が広がるため黄砂は発生しにくい。実はこのまま地球温暖化が進めば黄砂の飛来は減ると考えられるのだが、ヒトの開発によって森林が伐採され、大地むき出しの畑や土地が増えれば黄砂の量は変わらないか、増えるばかりだろう。

黄砂もまた自然界ではヒーローである。近年では邪魔者扱いされるが、昔から黄砂は飛んできており、実は栄養分に富むため農業者にとってはありがたい存在だ。

江戸時代の農書のひとつ「百姓伝記」のなかでは。最上級(上の上)の土を「黄真土」と呼び、黄色の土と青黒い土が混じり合っているものと説明している。この黄色い土こそ黄砂のこと。そして農書にはこの土「甘い」という。
逆に最下級(下の下)の土を「徒土(すつち)」と呼び、赤黒く味は「酸い」という。

黄砂はその名の通り黄色く、その色は鉄の色なのだ。
鉄の色というと赤っぽい色を思い浮かべるかもしれない。鉄分が豊富な温泉や赤土と呼ばれる土壌に見られる赤色は確かに鉄分なのだが、その鉄は酸素と結合した酸化鉄の色である。我々の血液が皮膚の下では青緑色なのに、酸素と触れると赤くなるのは血液内の鉄分が空気中の酸素を結合するためである。

鉄の色というと赤っぽい色を思い浮かべるかもしれない。鉄分が豊富な温泉や赤土と呼ばれる土壌に見られる赤色は確かに鉄分なのだが、その鉄は酸素と結合した酸化鉄の色である。我々の血液が皮膚の下では青緑色なのに、酸素と触れると赤くなるのは血液内の鉄分が空気中の酸素を結合するためである。

鉄は生命にとって欠かせない栄養素の一つである。鉄は地球の表面ならどこにでもあるにも関わらず、酸素とくっつくと簡単に剥がれなくなってしまうばかりか、酸化鉄の状態では生命には利用できなくなってしまう。

そのため地球の循環サイクルの最終地点である海洋は常に鉄分不足状態である。その海洋に鉄分を運んでくる経路には河川がある。地中に含まれている鉄が雨に溶け出し、地下水を通り、河川に流れ込む。その過程で酸化鉄になることが多い。もちろん、酸化鉄にならずに海洋まで運ぶ仕組みもあるのだが、それはまた今度の機会に。

鉄を直接海洋まで運ぶもう一つの経路が黄砂のように大気中を旅する砂である。砂は水分に溶けなければ、酸化鉄になることはない。これは包丁や鎌などの刃物類の表面についた水分を取らないでおくと、赤く錆びる現象と同じで、サビ菌の仕業である。実は酸化鉄になるのは水分が好きなサビ菌の生命活動が関わっている。

黄砂は太平洋まで運ばれるとプランクトンなどの底辺生物の栄養となり、最終的にはマグロやサケなどの回遊魚やクジラなどに捕食され、海洋生物群の豊かさに貢献する。そのため「黄砂が海を育てる」と海洋生物学では謳われている。

砂が育てるのは海洋生物だけではない。陸の生物もまた砂が育んでいる。生命の進化論で有名なチャールズ・ダーウィンはサハラ砂漠の砂が砂嵐によって巻き上げられた後、上空の風に乗って海を渡り、南米アマゾンの熱帯雨林まで運ばれている様子を記録している。生命ばかりではなく無機物まで研究している好奇心の広さには尊敬するばかりか驚きも大きい。

また、サハラ砂漠から運ばれてきた砂は三日月地帯に堆積し、メソポタミア文明を生み出した。インドやエチオピアの玄武岩台地は適度な隆起と侵食が起きることで、土壌が若返る。削られた肥沃な土は大河に運ばれて、三日月地帯のもう一つの文明であるエジプト文明を支えた。これがナイルの賜物と呼ばれているもの。肥沃な土である団粒構造の土もまた、細かくなった砂が核となって腐食複合体を構成する。

また黄砂はアルカリ性の源である。通常土壌は微生物の活動や植物の根から出る有機酸によって、どうしても酸性に偏ってしまう。また雨が多いとアルカリ性の養分は水に溶けやすので、地下水へと流れていってしまうため、さらに酸性によりやすい。

そのため土壌学の常識では雨が多く、植物が多い地帯(熱帯地帯など)の土壌は酸性によりがちだと考えられている。そのため焼畑などによってアルカリ性の灰を大地に還元することで中性を好む野菜や穀物の栽培が可能となる。

日本でも焼畑のような栽培方法はあるが、それでもあまり多くは行われてこなかった。なぜなら、日本には毎年黄砂が降り注ぐからである。少し前までどうして日本ほど雨が多く森林が発達している地帯の土壌が酸性に偏っていないのかは土壌学界のパラドックスの一つだった。

黄砂は国境を容易に越える。黄砂は偏西風に乗って主に北半球を旅する。ゴビ砂漠から旅を始め、約13日間で世界一周を果たす。黄砂は海上ににやってくると水蒸気を吸い込んで雨粒となる。雨が降るには核となるチリが必要だが、黄砂はこれにうってつけだ。これが乾燥しやすい春先に豊富な雨を降らす。

そう、春の催花雨の正体は黄砂なのだ。植物は花を咲かせ、種子をつけるまでの間、養分はもちろんのこと水分も豊富に必要である。そのため、花を咲かせても水分が少なければ受粉を諦め、花を早々に落とし、種子の数を減らす選択を取る。

黄砂無くして日本の春を彩るサクラや菜の花などの景色はあり得ない。そして四季を通じての豊富な食材と世界中の人々が羨む緑豊かな景色もあり得ない。

ヒト以外の生物にとって黄砂が舞う青空は、ヒトにとっての桜吹雪と同じくらい美しいことだろう。人間界の物語で描かれるヒーローはいつだって遅れてやってくるように、彼らのありがたさに気がつくのはいつだって遅いようだ。

花粉にしろ黄砂にしろ、人間界のダークヒーローとは土がないからこそ、嫌われるのである。土さえあれば、花粉も黄砂も生き物たちを育むヒーローでしかない。都会に生物多様性が育まれないのは、土がないからだ。土こそ生物多様性の要である。なぜなら、土は全てを受け入れて、全てを生命に還るからである。

~今後のスケジュール~

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・沖縄県本部町 2月11日~12月1日
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