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マルチの工夫 適期適作


<マルチの工夫 適期適作>

ただ単にマルチといっても、それはテクニックであり、適期適作の野良仕事である。マルチは雑草防除の役割のほか、泥はねによる病気予防、土中内の保温・保湿、微生物や昆虫類を紫外線から守り、雨によって土が固くしまるのを防いでくれる。マルチ一つで野菜の生育を進めることもできれば、病気にさせてしまうこともある。

黒いビニールマルチを使用する時、あまり難しく考える必要がないのは調整のしようがないからである。だから、その年の天候に応じて調整ができずに、農薬や肥料に頼りきってしまう。

初夏に行われる夏野菜の定植では、その野菜と天候に応じてマルチの厚みと資材を選びたい。まだこの季節は寒い日も続くので、しっかり太陽光が当たるように薄くする。しかし薄くしすぎれば放射冷却で地温が下がってしまうので、こまめに調整するのも良いだろう。また5月は本州のどこも乾燥しやすいので、定植直後の水切れ対策のために厚くしても良い。梅雨にかけて雑草の勢いも増していくのでうまくマルチを活用して、活着と自立を促したい。その点、籾殻薫炭は万能で扱いやすい。

ただし、梅雨入り以降は草マルチを厚くしすぎると病原菌(カビ菌)が発生しやすいので、天気に応じてマルチの量を調整することを忘れてはならない。梅雨といえども、地域によって、その年によって雨の振り方や量が変わる。もちろん、畑によって水が溜まりやすいところとそうではないところも分かれるので、野菜をしっかり観察し、歩いて畑全体を観察してマルチも調整しよう。野菜の成長も、雑草の勢いも、虫の活動も、カビ菌も一番勢いを増す季節だからこそ、こまめに畑に通うようにしたい。またササの葉には抗菌作用があるので、利用するもの良いだろう。稲藁と籾殻は水分を多く含んでしまうので、特に要注意だ。

梅雨が明ければ、状況は一気に変わる。夏野菜を楽しみたい農家にとっては真夏にたくさん実をつけてほしいものだが、ほとんど夏野菜は日本の夏を苦手としている。

植物自体は雨があまり降らず乾燥し、気温が上がりすぎると光合成を減らし仮眠状態になる。これは気孔を閉じて、葉からの蒸散を極力防ごうとする副作用で、光合成へ水分を回すことを節約するためだと考えられている。しかし、光エネルギーは吸収してしまうので、難儀なことになる。葉緑素を分解したり、遺伝子変異が起きたり、細胞を殺したりする。その結果、葉が部分的に変色したり死んでしまう葉焼けが起きる。

夏野菜は本来25~30度くらいが適温で、35度になると成長を辞めて生き残ることに集中する。というのも40度ともなればそれは砂漠とほとんど同じで植物の多くは枯れて死んでしまうからだ。

暑くなりすぎると植物が枯れてしまうのは、植物は普段蒸散によって葉温をコントロールしているにも関わらず、大地の水が少なくなってしまい、蒸散ができなくなるからである。そのため、梅雨明け以降は梅雨の間に大地に注がれた命の水を保持することを考える。特に土中水分が少なくなるのは梅雨明け2週間後以降だ。マルチは土が全く見えなくなるまでするのはもちろん、水が特に欲しい野菜に対しては厚めにしたい。もちろん、その年によって雨が多い年もあれば全く降らない年もあるので、実際の天候に合わせる。

野菜からの水を欲しているメッセージを参考にするのはもちろんのこと、虫たちの様子も参考になる。またついつい雨の日数で判断しがちだが、土を直に触って判断することを忘れてはいけない。植物は土の中から水を吸い取っているのだから、記録よりも触覚のほうが重要な情報を集めることができる。

また植物自体に水を自給する能力が備わっていてることも忘れてはならない。夏の朝や晩に自然農の畑に向かうと自然とズボンの裾や腕が濡れる経験をしたことがあるだろう。またキャンプや登山などでも同様のことがある。植物は夜間に空気中の水分を葉や茎にある細かい産毛でキャッチして吸い込んだり、風によって大地に落としたりして水を自給している。トマトはこれに特化した植物である。そのため、畑には雑草などが多少ある方が乾きにくくなる。

また溢泌(いつび)現象とはゴーヤなどのつる植物やいちご、サトイモ、竹などでよく見られるもの。余分な水分を葉の水孔と呼ばれる排水組織から出す。この水分からは貴重なさまざまな栄養分が含まれていて、水孔付近の細胞には必要な栄養素を植物体内に取り戻す仕組みがある。地下深くから集めたこの水分もそよ風によって大地に落とされ、自身の根に潤いを与える。それは土中生物や虫たちも一緒に潤いを与えてくれる。



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