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雨の前後の野良仕事


<雨の前後の野良仕事>

世界的にも日本気象予報が最も難しい地域の一つだと言われている。
逆に言えば、さまざまな雲の形や気象を見ることができ、思いがけない空との出会いもある。江戸時代は異常気象の時代だったため、農書には気象予測の項が多かった。

日本の天気予報は明治17年に発表されて以来、現在で100年以上の歴史を持っているが、それよりも前はその土地に伝わることわざだったり、知恵だった。天気は地形などの地理的な要因で変化するので、その地方でしか通用しないものが多いが、全国共通のことわざもある。農家たちによって受け継がれてきた天気のことわざや言い伝えの多くは天気の急変(雨)を伝えるものが多い。

日本語には雨を表情を表す言葉が400語もあり、雨にまつわる言葉は1000を超えるという。日本人にとって雨は多彩な表情と多様な現象につながる象徴だったのだろう。

昔の人は雲の形や動き、動植物の動きを観察し、または過去の状態と同じかどうかといった記憶をたどりながら予想していた。これは現在の天気予報で用いられる観測と統計の解析となんら変わらない。

雨による災いはヒトだけではなくすべての生物の共通事項だ。そのため動物が好きな人は小鳥や虫などの声や様子を観察しただけで、今後の天気を判断できる。空が好きな人は雲や風などの気象現象を見ただけで、数時間後の天気を知ることができるだろう。自然を細やかに観察する人なら誰でも、この国の雨を自らの肌でしっかりと感じ取っている。

「風の知らせ」
天気の急変や台風接近などの災害級の天気について、百姓たちはその地域に独特の風が吹くことを知っていた。日本は山々が複雑に連なり、四方を海や河川などに囲まれているおかげで、その地域によって風の吹き方が違う。ある特定の方角から吹く強い風は「おろし」や「だし」などと名付けられて、風神様が操っていると考えていた。「おろし」とは高いところから吹き下ろしてくる強い風のことで、たいていは山の名前が前につく。「だし」とはある特定の狭い地域だけに特有の強風のこと。専門用語では局地風ともいう。

方向の他に季節や風の温もり・冷たさ、強さや吹き方などさまざまだが、地域性が強い。単に晴れや雨の予報だけではなく、梅雨前線や雷雨台風、大雪など予報するものもさまざまである。百姓が風を感じて生きていたことがよく分かるので、ぜひとも地元の方から話を聞いてもらいたい。

「観望天気」
山によく行く人は雲の動きや形に敏感になる。「山の天気は変わりやすい」とよく言われる言葉だが、天気は標高の高いところから変化し始め、回復は逆に山が最後になるのは気象界では常識だ。
一般的に天気予報は人が住んでいる平野部を対象となっているので、山間部に住んでいる人は平野部の天気の移り変わりよりも早く移り変わっていく。

全国各地に~~富士のように代表的で特徴的な山があり、その山がどう見えるか、その山にどう雲がかかっているかで天気を予報していた。

「遠くの山がはっきり見えると晴れる」
「山が白く見えると雨が降る」
「山が笠をかぶると雨が降る」
「山に三度雪が降ると麓でも雪が降る」
「山が近くに見えると雨が降る」など

「すじ雲やいわじ雲、ひつじ雲などが出ると雨が降る」
「入り雲出雲は雨」
「月や太陽が笠をかぶると雨が降る」
「飛行機雲が出ると雨が降る」
「星が瞬いて見えると雨が降る」
「月が赤く見えると雨」
「電光北西、雨が降る」
「朝虹は雨、夕虹は晴れ」
「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ」
「夕焼けが赤すぎると雨」
「朝焼けが白く消えると晴れ、黒く消えると雨」

天候の変化によって動きを変えるのは周りの植物や動物たちだけとは限らない。あなた自身の体も影響を受けて、変化している。一般的に天気痛とか頭がぼぉっとするなど不調に通じることが多いが、逆のことだってありうる。毎日の天候と自身の身体の観察を続けていると、次第に天候予測も可能になってくる。

意外かもしれないが天気予報とはあくまでも天気を予報しているのではなく、晴れや雨などの「天候の確率」を予報している。完全な予報は未来永劫に渡って不可能だと言われている。あくまでも自身の判断の参考にすることしかできない。

基本的に農家は雨の日は仕事をしない。しかし勘違いしないで欲しいのは、様子を見に行く人は多いということだ。毎年大雨の日に田んぼの様子を見に行った方が、災害に巻き込まれる事故がたびたび報道される。我が子を心配するように、田畑を心配する気持ちは痛いほど分かるが決して一人では行かずに数人で行くか、危ないと思ったらすぐに引き返すか仲間を呼んで到着するまで安全な場所に退避することを心がけたい。

雨の日に田畑の様子を見に行くと、水の流れが悪いところがよく分かる。団粒構造の土ができ、畑の地下水がうまく流れていれば、雨が強くても水溜りにはなりづらい。また普段は気づかなかったフィールドの高低差や斜面もよく観察できる。もし水溜りができ留まっているところがあれば、後日に改善したい。

昆虫の様子を観察することで、畑が住みやすいかどうかも分かる。風通しが悪いと雨風をしのぐのに都合が良いため、遠くに移動しない害虫の温床となる、益虫は比較的遠くに移動できるため、彼らの避難先となる森林や背丈の高い草があると良い。

雨が降る前日や直前には支柱にくくりつけたり、泥跳ねを防ぐためのマルチをし、イモや根菜類の収穫を行う。逆にハサミを使った芽かきや剪定、収穫などの作業は控える。切断面から水と病原菌やウィルスが侵入するリスクがあるからだ。また、定植直後は野菜はストレスフルで雨に対して弱い状態になるので、定植は避けること。種まきは弱い雨なら構わないが強い雨ではタネが地表面に飛び出してしまうので避けること。

野菜の病気のほとんどはカビ菌であり水を得ると活性化する。またウィルスも含め病原菌は水を通して野菜の体内に侵入する。雨の日はもちろんのこと前日には作業を選び、晴れている日の作業に集中できるように天候を呼んで野良仕事の計画をすることが暮らしのデザインである。


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