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〈読書メモ〉夜行秘密/カツセマサヒコ

〈あらすじ〉

ーーそれは、彼女と僕だけの秘密です。
映像作家のトップランナーとして孤高に生きる宮部あきら。ファンの域を超えて宮部に執着する富永早苗。SNSから突如ブレイクしたバンド・ブルーガール。脚本家を夢見て小さな劇団に所属する岩崎凛。居場所を失った高校生・松田英治。秘密を抱えながら暮らすナツメとメイーー。それぞれが迷い、悩み、嫉妬し、決断をしては、傷つき合う。恋の輝きと世界に隠された理不尽を描いた、鮮烈なラブストーリー。

〈感想〉

最後の文字を確認し、物語の結末を理解した私は一気に焦燥感に駆られた。そしてつよく同情した。誰に?それは私自身もわからない。
この物語に出て来る登場人物全てが加害者であり、被害者でもあるから。そして私も無意識的に誰かの被害者であり誰かの加害者である。

タイトルに惹かれて購入し、少し置いておいた本の一つだった。
時間位余裕ができたので次はこれにしようと手に取り、目次をみたらなんだか曲のタイトルみたいだなと感じた。

その通り、これは音楽の天才川谷絵音率いるバンドの1つであるindigo la Endの同名のアルバムを元に紡がれた14の短編集だ。短編集によく見られる点と点が線になって……という構成になっており、先週の水曜から朝に1話ずつ読もうと決め読み進めていた。

そして今日、休みなので読めるところまで読んでしまおうと軽い気持ちで4話目を読み始めた。5話、6話と続き気がついたら最後のページに辿り着いた。
同名の楽曲を聞いてから感想を書こうと思っていたがそれをしては今この気持が薄らいでしまうのでキーボードを叩いている。

居場所のない男子高校生の心の叫びから始まり、話題の映像作家に心を奪われてしまった女性、売れないバンドマンと同棲をする売れない劇団員の女性、、、と物語のバトンが繋がれていく。
主人公のキャラクターはもちろん置かれた環境、年齢に価値観、何もかも異なるが、どの話も全て「居場所を求める現代の若者」を描いているのだと思った。

SNSが生活の中心となっている20代〜30代周辺の若い世代の恋愛模様や日常を切り取ったオムニバスストーリーで「エモく」終わらせるのだろうと考えていた3日前の私に忠告する。

SNSと生活している時点で「エモい」幻想には浸れない。むしろ自身の背後に刃物が常に翳されてる前提で過ごした方が安全だ。

色んな流言飛語が行き交う世に生きることとなる私達だからこそ刺さり、目を覆たくなる物がそこにあった。
毎日顔を合わせているからこそ自分を知られたくない人がいるのに対して、顔も名前も知らない人たちが作り上げた機器を通して接続された電子の海で、偶然繋がった顔も名前も素性も知らない人と、人生や愛や欲の哲学について毎日のように語らう世代の人々へ送られる物語を。
どうか1人でも多くの人へ渡ってほしいと電子の中から発信してみる。

そういえば無意識に設けている他人と関わる上での基準の中に「価値観が合う」「無言でいても苦痛じゃない」「ノリが合う」の後に「2人だけの秘密」が追加されたのはいつからだろう

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