【INSIDE-SPARKLE LEGAL】大城章顕 弁護士
本インタビューシリーズは、スパークル法律事務所に所属する弁護士の「ありのままの姿」を紹介する企画となります。各弁護士が普段何を考えているのか、どのようなキャラクターなのか、そして事務所の雰囲気をお伝えします。
今回、登場するのは、大城章顕弁護士です。大城弁護士は、慶應義塾大学法学部を卒業後、2004年に弁護士登録を行いました。多くの国内・外資系法律事務所での勤務経験に加え、University of Southern Californiaロースクールへの留学の経験を持ち、カリフォルニア州弁護士資格も保有しています。国際取引を含む取引法務・人事労務やスタートアップ法務等を中心に企業法務を幅広く取り扱っており、さらに、農業法務をはじめとした一次産業に関する法務にも取り組まれています。
「農業法務」とは
Q1:農業法務を始めたきっかけを教えてください。
特に、実家が農家をしていたとか、米国留学で西海岸の広大な農場を見て目覚めたとかではなく、10年以上前に、東北の農家の方から事件を依頼されたことがきっかけです。代金を支払ってくれず、連絡も取れなくなってしまったという案件で、売掛金を回収したいというようなご依頼でした。
事件をきっかけにいろいろ農業の話を聞いていくと、当時、農業界では、そもそもあまり契約書や注文書等を作らず、電話一本でやることがほとんどという話を聞きました。また、その当時、表立って農業法務を取り扱っていると言っている弁護士はほぼいなかったんですね。もちろん、農地法についての書籍や著名な方はいたのですが、どちらかというと、役所や農業委員会の人向けの書籍が中心であり、農業者に向けた法律の本はほとんどありませんでした。
あまり誰もやっていないのであれば、面白そうだな、挑戦してみようと思って自分で農業のことを勉強し始めました。
Q2:農業法務の特色・魅力を教えてください。
農業法務は、一般的な企業法務の分野とは全然違う分野であるというイメージを持たれることが多いのですが、実際に業務として取り組んでみると、実際には根幹の部分では共通していることが分かってきました。
つまり、誰も「企業」法務だと思ってないだけで、外部との取引のための契約書を作るとか、人を雇う労務、(当時は、案件数も少なかったですが、)M&Aや事業承継等、他産業とと同様の法務が求められているのです。
ただ、例えば、通常の契約書の雛形や法学理論は、ほぼ工業製品を念頭に考えられていると思うんですよ。工業製品は、(劣化とかありますけど、)一般的にはすぐに腐ったりするものではないですし、基本的に同じスペックのものを2個3個と作れるというのが前提です。他方で、農産物は、劣化が早いうえに、全く同一のものを作ることも難しいし、秋までに作ろうと思っても思い通りのものができるとは限らないです。このような農産物の性質を踏まえて契約書を作る必要がありますし、非定型的な部分にやりがいや魅力があるかもしれません。
Q3:農業法務の「今後」について教えてください。
日本の農業は、少しずつ売上額の大きい農業者も増えているものの、まだまだ規模の小さな経営体が多いのが実情です。また、私は東京を中心に活動しており、今までであれば、農業が盛んな地域から遠くの弁護士にわざわざ頼むことは少なかったと思います。
ところが、近年は、農業人口の平均年齢が60代後半で、高齢化しており、人手不足と事業承継が大きな課題となっています。その対応策の一つとして、別事業をやっている会社が農業に新規参入したいという相談が増えています。また、人手不足対策としても国が支援していることもあり、農業ベンチャー企業などが、自動で農産物を生産・収穫したり、データを活用して効率化を進めたりといったスマート農業の推進も盛んになってきました。私自身は、そのような中で、各地の農業ベンチャー企業からの依頼も増えています。
徐々に農業者や農業ベンチャーでも法務への取り組みが必要という意識が高まってきていると感じていますが、それでもまだまだ十分とは言えません。私自身も、クライアントや学会・研究会などから学びながら、ブログを開設したり、各地の農業団体等でのセミナーをやったり、書籍の執筆活動などにより、農業法務についての発信活動を継続的にしています。今後も日本の農業の現状を変えて、より良くするためのお手伝いができればと考えています。
「法教育」について
Q4:法教育とはどのような活動をしているのですか。
仕事以外では、第一東京弁護士会の法教育委員会の活動にも力を入れています。具体的には、小学校や中学校に行って、出張授業を行っています。
イメージしやすい刑事模擬裁判だけでなく、児童や生徒にルール作りをしてもらうような授業も行います。例えば、「災害の避難所に100人の避難者がいます。そこに60個のシュークリームが届けられました。どのように対応したらよいでしょうか。」というようなケースを考えてもらったりします。小学生であっても、何が正しいのか、話し合って考える力を持っており、人気の授業の一つです。
一般的には、法教育というと、社会の道徳を教えるという方向性か、社会に出るにあたって法律の知識を教えるという方向性でとらえられることが多いと感じています。もちろんそれらも重要だし、共通する部分もあるとは思うのですが、正解のないお題に対して、議論をしながら、ルールに基づいて解決していく営みを経験してもらうことが重要だと考えています。
数年前に、学習指導要領の中に法教育に関する内容が盛り込まれて、小学校・中学校等で法教育を実施する流れにはなっているのです。学校の先生が自分たちで法教育をできる状況にすることが必要なのですが、学校の先生は、まだまだ経験もなく、実施が難しかったりします。そのため、法教育の授業を行えていない学校も多いのが現状のようです。まずは、すべての子供が、高校卒業までに法教育を受けたことがあるという状態にするということを目標として取り組んでいます。
Q5:なぜ、法教育を始めようと思ったのですか。
元々、教えたりするのも嫌いじゃなかったというのはあります。ただ、米国留学中に仕事の捉え方や人生観が大きく変わったかもしれません。留学前は、色々なことを私は仕事に繋げなければいけないと意気込んでいて、弁護士会でも業務に直接関わりそうな活動をしていました。
米国留学では、ロサンゼルスにあるロースクールに通い、興味のある分野を積極的に勉強することができました。と同時に、長期の休みの時には飛行機や車で色々な場所に行けたのが貴重な経験でした。そして、ヨセミテ国立公園やグランドキャニオン国立公園など色々と行ったのですが、何より一番の経験はイエローストーン国立公園です。
写真で伝わるか分かりませんが、山脈や谷、草原、もう本当にすごい景色だったんですよ。風や雨といった自然の力だけで、この景色ができたのかと。どんなに重機がすごかろうが、こんなもの人間には作れないと思える景色が無数にあるのです。その上、自動車に乗っていると巨大な熊がのしのしと歩いてきて、遠くからだんだんこっちに歩いてくるわけです。誰かが「Bear!」と叫んで、近くの観光客も皆、車に逃げ込んだのです。このような体験から、物事を仕事に繋がるか・繋がらないかだけで捉えるなんて視野が狭すぎるなとふと思ったんです。
そんなわけで、業務に直接は関係がなくとも、社会に役立つ楽しそうなことを始めてみようと、法教育にかかわり始めました。宣伝になってしまいますが、学生だけでなく、社会人向けの法教育という意味で、書籍を執筆する機会もありました(笑)一般の方向けに、読みやすくするために条文の引用などを省略しており、法的な思考方法の一端を知っていただければと考えています。
プライベートについて
Q6:業務以外には、普段、どのようなことをしているのですか。
趣味らしい趣味がなく、「趣味は何ですか?」と言われると、いつも答えに困ってしまいます。映画も好きですが、極めているとまでは言えませんし…
強いて言えば、サッカーのJリーグ観戦が趣味です。東京の江戸川区に住んでいて千葉県に比較的近かったこともあって、Jリーグの発足当初からジェフ千葉を応援しています。当時、リトバルスキーという名選手がいて、好きだったんです。今もDAZNで全試合見ていますし、年に数回は、フクダ電子アリーナで現地観戦もしています。現在、J2に所属しているのですが、早くJ1に復帰できることを期待して応援しています。(了)