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ウイスキングは日本で定着するのか

ウイスキングをご存知でしょうか

 空前のサウナブームで、その楽しみ方も多様な中、ウィスキングという言葉を耳にしたことはあっても、まだまだその実態を認識している人は少なく、まして体験した人はそれほど多くはないでしょう。

 ウイスキングは、サウナ室に横になり、マイスター(施術師)が水蒸気を発生させたサウナ室で、
白樺(ウイスク)を使って、水蒸気を仰ぐ、水滴をかける、身体を擦る、揉む、押し付ける、などの施術を行なう主にロシアやバルト三国で行われるサウナの楽しみ方です。

 温浴業界に20年以上携わっていますが、まだ体験をしたことはありませんでした。

 今回、兵庫県で運営を行なっているテントサウナSさんで体験してきました。

森のサウナと清流に癒される

 Sさんには、当日10人用の大型テントサウナと、ウィスキング用の小さなテントサウナがセッテイングされていました。

 まずは、大型サウナでセルフロウリュを行い.身体を温めます。薪の香ばしさと、白樺のオイルのアロマ水の蒸気につつまれること10分、しっかりと汗をかいたら、近くを流れる清流でクールダウンを行います。

 テントサウナの醍醐味です、とにかく気持ち良い!

 川から上がり、約10分、森の中の椅子で休憩、整ったタイミングでウイスキング用サウナの準備も整ったようです。

想像を上回る至極のウイスキング

いよいよ、ウイスキングの始まりです。

 簡単な説明と、怪我や体の痛みなど現在の健康状態を聞かれ、室内に設けられたベッドにうつ伏せになります。

 顔から頭まですっぽりと、少し温めた白樺で覆われます。一挙に森の中に迷い込んだ感じです。

 

      顔はこのようにウイスクで覆われます

まずは、足の裏からふくらはぎ、ウラもも、腰、背中、肩、首筋にかけて温かいお湯を少しずつひしゃくでかけていきます。

 流れる暖かなお湯に、ゾクゾクして、やがてそれはじんわりとした温もりとなり、これが気持ち良くて微睡みを誘います。

 これが終わると、いよいよ、薪ストーブに水をかけ水蒸気を発生させ、その水蒸気を白樺の葉で拡散させてゆきます。

ざわざわとした白樺の揺れる音と共に、室内の温度が徐々に上昇し、湿度をもった熱気が背中へ降りてくるのを感じます。

 森の中で、じわじわと体があたたまって行くような錯覚を覚えます。

 そして今度は水をつけた白樺を体の上から、揺らして、こぼれ落ちる水滴を、足元から徐々に身体全体にかけてゆきます。

 森の木々の合間から、小雨が降ってきたような感じです。パラパラと体に振り注ぐ水滴が、徐々に熱ってきた体にはこれまた心地よく感じます。

森の水浴びが止むと、今度は全身を白樺で叩く、擦る、押さえるという施術を、うつ伏せの状態、仰向けの状態それぞれで行なっていきます。

  押さえる施術は、足の裏、ふくらはぎ、腰、脇の下、お腹と行なってもらいました。温かい白樺の感触は体験したことのない感触です。もちろん気もちよし!

ここまで、時間にして10分強ですが、ゆったりと時間は流れ、実時間より長く感じます。

 ここで、一旦ベッドに座って水分補給を行い、2分ほど休憩タイムです。今まで白樺に覆われていた頭は少しぼんやりとしています。

 休憩を挟んで、後半戦は、先ほどと同じく俯せで2回、仰向けで2回づつ森の雨と白樺で全身にかけての叩きを行います。

 後半戦は、若干蒸気の量を増やし、前半よりもテント内は熱くなりました。また、水に浸けた白樺は、立ちのばる水蒸気で温められており、降りそそぐ水滴も白樺の葉の温度も、先程よリも熱くなっています。

 熱いといっても、耐えられない熱さではなく、この温度のメリハリが熱さになれてきた体には、やはり気持ち良いと感じるのです。

そして、後半の方が圧倒的に発汗が進んだように思います。

 時間にして、10分弱でテント内でのウイスキングは終了です。正直思っていた上をいく心地よさで、良い意味で期待を裏切られた感じです。

ウイスキング後の更なる心地よい演出

 ウイスキングが終わっても、森の中から生還できず、ぼんやりしている状態からマイスターの誘導でテントの外に出ると、水風呂をすすめられます。

  氷を入れた、一人用の水風呂で15秒クールダウン、さらにその横には常温の川の水を汲んできた大きめの水風呂があり、そちらに移るように誘導されます。

 すると、その大きめの水風呂にはマイスターも一緒に入ってきて、水中浮遊をさせてくれます。

 マイスターが背中と後ろの太ももを持ってくれるので、身を委ねます。頭を耳まで浸けるよう指示されると、完全に体は水中に浮かびます。

 その状態で、マイスターがゆっくりと水中で身体を漂わせ始めます。なんとまあ!未体験ゾーンに突入です!森の中からいきなりの水中浮遊体験、はっきり申し上げて、ヤバイです!!

 意表を突く水中浮遊が終わると、水風呂の横に置かれたリクライニングチェアーに案内され水分補給、その後リクライングを倒しますよと声をかけられます。一瞬で整いタイムに陥りますが、しばらくすると、風が来るようになります。

 薪サウナの薪の香ばしい香りと共にながれる微風、なんと、マイスターがタオルを踊るようにくるくるまわしながら、正面から風を送ってくれています。

 ぼんやりとマイスターの華麗なる舞と、風を感じながら、堕ちてゆくのでした!!

ウイスキングは日本で定着するか

価値を理解できる人が対象である

 期待値以上の体験をした時,人は満足を覚えます。
マイスターのKさんから受けたサービスは上記でレポートした通り、期待のはるか上をいくものでした。

 今回のウイスキングサービスは1回3,000円で体験させてもらったのですが、価格を上回るサービスだと思います。

 マイスターのKさんとお会いするのはこの日が初めてだったのですが、仕事の関係で過去にzoomやメールでのやりとりをさせていただいていたことがあります。

 今後価格の見直しを考えておられるようでしたが、個人的には胸をはって値段を上げても価値は損われないと思います。

 今回の体験は、連れ合いと一緒に参加しました、私が先にウイスキングを受けて、無理をお願いして連れ合いがウイスキングされるところを、テント内で復習するように見学させてもらいました。

 首から上を、すっぽりと白樺の葉で覆われて、俯せになっている状態で、何が行われているのかを詳細にレポートできるのは、現場の復習をさせてもらったからなのです。

客観的に見学して思うことは、マイスターの労働環境が過酷であること。

ウイスキングを受ける方は横になり、とても心地よいのですが、室内は上の方ほど熱い訳で、蒸気を発生させ、立ってその蒸気をまともに浴びながら、20分近くの作業は、普通の状態ではありません。

 連続して行うことも、1日の施術回数にも限界があるでしょう。体力的にも量産できないサービスだと思います。

 ましてや、マイスターというぐらいですから、熟練した技術が必要となります。人様の身体をサウナという特殊な状況で施術をする訳ですから、一定の知識を持った上で、多くの訓練を積む必要があります。

  ウイスキングが,サービスとして定着するには、サービすに対する価格がある程度高額であっても、それを許容できる人がターゲットとなるということになります。安売りするのではなく、価値のわかる人に適正価格でサービスを提供しなくてはならないでしょう。

価値を上げ満足度を高める

 期待した以上のサービスを受けた時に感じた満足を体験した場合、次回以降の基準は変わります。

 期待値は,前回と同等かそれ以上が基準となるはずです。提供側はそのための環境を作り、準備をし、期待値の上がったお客様の期待に応えなればなりません。

実際、連れ合いに今回のサービスで、金銭の許容価格を尋ねたところ、5,000円までという答えでした。

  但し条件のハードルもやや上がります。テントサウナや、キャンプの体験のない彼女にとっては、キャンプの面白さでもある不便さが、趣向感覚を上回ります。リピータとなるには、その辺りの改善点が要望として出てきまず。

 ウィスキング体験としては5,000円は出せるが、そのためには物理的な事で不可能なことは別にして、改善すべき点を徹底的に洗い出し、来店から退店までの流れを徹底してブラッシュアップすれば、その金額でもリピーターは増える可能性はあると判断できます。

大衆化の難しさ

 僅か20数分ですが、ウイスキングの記憶に残る心地よさ。しかし、サービスの提供にマイスターは、過酷な環境で高い技術を提供しなければなりません。

 マイスターは、サウナが好きであっても、プロフェッショナルとしてサービスを提供するには、楽しむだけでは務まらないでしょう。

 温浴業界での位置付けは「垢すり」に近いかもしれません。

 
「垢すり」は、自分の身体をプロの垢すりさんに擦って貰うとても贅沢で、そして気持ち良いエステです。しかし、湿度の高い浴室で、運動量の高い施術を行うスタッフにとっては過酷な環境です。

 スーパー銭湯の創世記には、割と多くの施設で
サービスの提供をしていましたが、どの施設もスタッフさんが続かないのが課題でした。

 良いサービスを提供し、それが可能なスタッフを確保して継続するには価格転嫁は止む得ないことで、価格設定は徐々に高くなってゆきました。

 施設の過当競争が始まり、施設数が増えるとサービスの提供を維持できる施設とそうでない施設は明確になりました。

 客単価の低い大衆的な施設は、入浴料金とかけ離れた「垢すり」の利用者を行うお客様は少なく、サービス提供を維持できなくなったのです。

  一方で、高級路線の施設では、価格は高くとも、それに見合うサービスや接客が求められるようになりました。スタッフの教育とホスピタリテイーのある接客を行い、同時にスタッフへの待遇の改善が必要となったのです。

 サウナブームの高まりで、既存施設のサウナや
ミストサウナなどを改装、或いはテントサウナを使いサービスを始めているところもあるようです。

 熟練マイスターを使った、ウィスキングを知ってもらうイベントとしては面白いと思います。

 とはいえ、継続的に期待値を上回るサービスの提供を行い、定着をさせるためには、仮設スペースでお祭り的な内容から、いくつかのハードルを越える必要があるでしょう。

カリスママイスターが仕切るサウナ

 
 髪を切ることの意味合いや、時間、コストは人によって異なります。千円カットで十分な人は、単に髪を切るという機能的なことが目的です。

 気分を変えたい、優雅な時間を過ごしたい、カリスマ美容師の手により生まれ変わりたい。数ヶ月待ちの予約で、1回数万円を惜しまない人も高い比率で存在します。

 銭湯に付属したサウナで汗を流し、激安リラクゼー ションで身体を揉んでもらい、王将で餃子で生ビールを呷る・・・とても最高です

自分だけのサウナ空間で、カリスママイスターによるウィスキングによって、森の中を漂いながら、心地よく発汗をする・・・これも最高です

ウィスキングが認知され、定着するには、サウナで過ごす価値観や意味合いを、後者に近い感覚を持った多くの人が認知し、満足感の得られるシチュエーションで、期待を上回る価値を感じて貰う機会を増やす必要があるでしょう。

 そのための施設作りや、マイスターの存在は欠かせません。

どこで体験するかではなく、誰から体験するか

 空前のサウナブームの中で、まだこの取り組みは緒についてはいません。

 これを解決するには、人ありきのサウナを多く作ることがではないでしょうか。

 独自の哲学と技術を持ったマイスターが、従来の温浴施設やサウナのような、型にはまった重設備ではなく、ポリシーを反映したサロンのようなサウナ施設を持って、そこでウイスキングを取り入れた価値ある時間を提供することです。

 研鑽を積んだ美容師が、自分の世界観を実現するお店づくりと、運営方法でお客様の満足を引き出すサロンを持つことは日本中で行われています。

 
アイデア次第ではコストも抑えることもできます。

 例えば、カリスマ美容師に、森の中で椅子と全身鏡を置き、森の匂いの中、木々の擦れ合う音をBGMにカットをして貰う体験はどうでしょう、実際に行われているサービスです。

 テントサウナであっても、十分同じ価値を生み出すことはできます。

 日本でウイスキングを定着させるには、サウナ施設運営業者が、設計事務所に丸投げで施設を作るのではなく、世界観を持ったマイスターが、その世界を表現できる場所を持って、そのような場がいくつも存在している、そういう状態になることではないかと思います。


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