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一週遅れの映画評:『哀れなるものたち』幼い頃の思い出を。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『哀れなるものたち』です。

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 この映画はですね、こうやって口頭とかテキストベースで話すのがめちゃくちゃ難しいんですよ。というのも、悪いところは簡単に文章化できるけど、良いところはテキストで説明するのがめちゃくちゃ困難なタイプの作品
 
 主人公の女の子は、肉体的には成人女性なんだけど脳が赤ちゃんなのね。これ、そういう障害とかじゃなくて。主人公は自殺したんだけどお腹に胎児がいた。
その死体を拾った超天才だけどそれ以上に変わり者の外科医師が、胎児の脳を取り出して主人公に移し替え、あとは電気ショックを与えたら息を吹き返したっていう。だから「体は大人、頭脳は子ども!」みたいになってるのさ。で、その外科医は主人公の成長を実験として観察している。
 実験を記録する助手として教え子の青年を雇うんだけど、主人公ははちゃめちゃ美人なのもあって青年は惚れてしまう。主人公も青年に好意を抱いて、婚約するんだけど……肉体は成熟してるから、性の快感は普通に受け止めれる。でも脳は子どもだから社会性とかが育ってないわけ。結果めちゃくちゃオナニーしまくるっていうw「こんな気持ちいいことをどうしてみんなやらないの? あ、ちょっとそこのキュウリ取って」みたいな感じで、人の目なんか気にせず自慰に没頭していく。
 青年はちょっとまともなので、「ちゃんと結婚するまでは」つって手は出さないんだけど、そこにプレイボーイのおっさんが登場。寝取った上で駆け落ちまでブチかますんですねぇ。主人公は「私はもっと冒険したいの、帰ってきたら結婚しましょ」とか言って。
 
 そしてそのおっさんとSEX、SEX、SEX&SEXみたいな旅をしてる(まぁ、そのファックシーンが全然エロくないんだけどさw)。だけどそれにも飽きてきて、なんやかんやで旅先の船で出会ったおばあさんと仲良くなる。このおばあさんがちょっとアバンギャルド風味の入ったインテリで、主人公はそこで「本を読むこと」つまり知識と哲学ってめっちゃ楽しいじゃん! となり性の快感から離れていく。
 で多少は知恵をつけたところで、船が寄った港でスラム街を目にする。そこで無惨に死んでいく赤ちゃんとかを見て「超かわいそうなんですけど!」となり、勝手にプレイボーイのおっさんが持っていた全財産を寄付してしまう。船代が無くなったたおっさんと主人公は次の港で強制下船。パリで無一文のまま放り出される。
 
 まぁお金がなくちゃ死んじゃうから、と職を探していた主人公はパリで娼婦になる。「へぇ、これでお金が稼げるのかー、ふっしぎー」ぐらいのテンションで。プレイボーイのおっさんは嫉妬で大激怒するけど、そのころには完全に主人公からは相手にされていない。
 娼館で働きながら学校にも行って、友達もできた主人公は充実した生活をしてるんだけど。そこに「チチ(例の外科医ね)キトク スグ カエレ」みたいな手紙が届く。故郷? に帰ってきた主人公は父の最後を看取ろうとする……。
 
 ってのがまぁすごくザックリとしたストーリーなんだけど。この父である外科医の名前が「ゴッド」なのw
神の手で作られた無垢なる生き物が、性の悦びに翻弄され。それでも旅先で知識と哲学を学び、ヒューマニズムの暴走をへて、性の商品化と向き合いながら、”生活”というものを知っていく。そして最後には「ゴッド(神)」の死を見届ける。
 いやぁ西洋哲学とか、キリスト教を背景に置きつつも進歩主義的思想を、ひとりの女性を通じて再現していく的な? そういうやつですわ。最後はフランス経由で実在主義に至るところも含めて、まぁわかりやすいちゃあわかりやすい話。はっきり言うと、そこに見どころなんてないわけですよ。性と思想の兼ね合いや共存ってことをやりたいんだろうなぁ、と思うけどそれってぶっちゃけ日本のアニメがもっとアクチュアルにやってることよねー。って思ってしまう。
 
 ただ映像がめちゃくちゃ良いのよ! ギリギリ地に足がついてるシュールさ、つまり不可解で奇妙な風景やガジェットで彩られているんだけど、そこには間違いなく「生活している人がいる」と感じさせる気配があるんですよね。変わったことをやってるシュールSFとかだと、デザインの虚飾さに「そうはならんやろ」という感覚が先行してしまうんだけど。
それを「なっとるやないかい」って押し通すことができるまで、余分な部分を取り除いて。その結果「めちゃくちゃ変だけど、まったく無いものじゃない」ぐらいの存在感を醸し出しているんですよ。そこがすごく私の好みで、なんだろうな感覚的に一番近いのは『時計仕掛けのオレンジ』のコロバ・ミルクバーみたいな。でもそれよりもっとギラギラしてる、映像面ではかなり好き。

 あとすごく良いシーンがひとつだけあって、娼婦として働いてる主人公が仕事にも慣れてきて。それで「なんかセックスするだけとか、面白くないな」って考えて客に提案するのが「あなたは子どものときの思い出を話して。私はジョークを言うから」ってやつなんだけど。
いやね、これすごい感動しちゃうのよ。主人公が知性を得ていく初期段階に「性の悦び」があったように、性的な快楽って規制だなんだで「大人の遊び」ってことになってるけど、実際はもっと幼いものなわけですよ。幼児だって自分の性器をオモチャにして遊んだり、第二次性徴と性の快楽を発見していく過程は同調しているわけだから、それって実はずっと幼い楽しみなわけさ。
 それを提供する場で「子どものときの思い出を話して」って、たぶん最高に近いサービスの形で。性の快感は後ろめたさや言い訳なんて必要ないでしょ? って誘導してる
それに「ジョークで応える」のは、少し上の立場から「おちょくってあげる」ということなわけ。サービスを提供する方/される方という関係で「あなたが100%幼くいられるように、ちゃんと見ててあげる」という関係を提供している。この場所では、安心して子どもに返っていいって許している。
 これが面白いのは、「買う/買われる」という力関係が「幼児/保護者」という力関係で逆転していることなんですよね。自ら安心して負けにいける場所、というのが男性にとっては癒しである。性風俗のそういう側面を、ほんと数分のシーンで掬い上げていて。この場面はねぇ、めちゃくちゃ良かったですよ。
 
 これがね、「万人に勧められるか?」と聞かれれば「No」だし、「面白かった?」と聞かれれば「面白くは無い」って答える。だけど私は見て良かったと間違いなく思ってます。なんだろうな、「深夜テレビでたまたま見てタイトルも内容も覚えてないのに、なんでか脳裏から映像が離れず、年に1~2回”あの映画なんだったんだろうなぁ”って思い出してしまう作品」みたいな位置にいます……でもこれR18だから、一生地上波では流れないのよねw。
 そういった意味でものすごく記憶に残る作品。たぶん見たら「これには映画代を払う価値はあったな」とは間違いなく思えるはず。

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 次回は『仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド』評を予定しております。Open Your Eyes For The ReGained Faiz

 この話をした配信はこちらの16分ぐらいからです。


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