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【ネオワイズ彗星】水星研究者が彗星を全力で解説!

どうも、YouTubeチャンネル「宇宙冒険隊」のÜdaiです!

今回はネオワイズ彗星の接近にちなんで、彗星の特徴的な構造についてお話しします。もう1つ、彗星に関するnoteを公開しております。もう1つのnoteでは彗星の研究って何が面白いの?というお話や、現在計画が進んでいる彗星の探査計画についてのご紹介をしています。是非両方読んで、色々な方面から彗星について詳しくなってください!動画版はこちら

今回は天体感測室さんという方が提供してくださったこちらの図を使って、彗星の特徴的な構造を順番にご説明します。
私は普段スイセイはスイセイでも、惑星の「水星」の研究をしています。彗星と水星、似ているのは名前だけではない!?彗星と水星を比較しながらお話ししていきます。

note図1


ガスのコマ

彗星の本体は、イトカワやリュウグウ等の小惑星と同じく、単なる「大きな石ころ」に過ぎません。その「石ころ」中に大量の揮発性物質(水、二酸化炭素など)が含まれており、噴出された大量のガスを本体(核)の周りにまとっている小天体が彗星、このようなガスをまとっていない小天体が小惑星です。このように彗星の核の周りに存在するガスを「コマ」(ラテン語で髪の毛のこと)と呼びます。しかし、コマったことに、最近では小惑星と思われていた小天体の中にも突然ガスやチリを大量に放出し始め、もはや彗星か小惑星かよく分からないもの(活動小惑星)も見つかっています。

note図2

イオンの尾

上のコマの話にも書いたように、彗星の核からは常にガスがブワーッと出ています。そのガスは、太陽から飛んでくる紫外線や荷電粒子(太陽風)によりイオン化することがあります。そうすると、太陽の磁力や太陽風の影響により、太陽と反対方向に飛ばされるようになります。こうして彗星の本体を離れたイオンの集合体がイオンの尾(プラズマテイル)です。
ここまでで太陽という言葉が何度も登場したことからも分かるように、イオンの尾の明るさは太陽の活動の激しさによって大きく左右されます。天文学では、イオンの尾は太陽の活動を映し出すモニターとしてとても興味深い対象とされています。実は、太陽風が初めて発見されたのも彗星のイオンの尾の観測がきっかけでした。尾と言えば彗星だけの特殊な現象のような感じがしますが、実は水星も尾のような構造を持ちます。ただ、彗星の方が本体から尾に流れるガスの量が多いため、とても明るくはっきりとした尾が見られるのです。

note図3

ダストの尾

彗星の核が高温にさらされると核に含まれる氷やドライアイスが昇華して、大量の気体が発生します。このとき、一緒に表面の砂(ダストも巻き上げられます。彗星は重力がとても小さいため、巻き上げられたダストは彗星の重力にはほとんど引っ張られず、彗星の公転軌道上に取り残されます。そして、太陽の重力や太陽光の影響を受けて運動するようになります。この様子を見ているのがダストの尾です。ちなみに、水星の場合は重力が大きいため、ダストはほとんど舞い上がらず、ダストの尾も形成されません。

note図4

ナトリウムの尾

イオンの尾が「第1の尾」、ダストの尾が「第2の尾」と呼ばれるのに対し、「第3の尾」と呼ばれるのがこのナトリウムの尾です。ナトリウム原子自体は中性(イオン化していない)なので、イオンの尾ではなくダストの尾と同じ原理で運動しています。
では、なぜナトリウムの尾はダストの尾は異なる場所にできるのでしょうか。それは、ナトリウムが特に太陽光の影響を受けやすいからです。ナトリウム原子は光をとても吸収しやすく放出しやすいという性質があるので、太陽光を吸っては吐いて、吸っては吐いてを繰り返し、太陽と逆向きにどんどん飛んでいきます。吐き出す太陽の光の量が多いということは、ナトリウム自身が明るく光ることを意味しています。おかげでナトリウムの尾はかなり明るく見えます。とはいってもイオンの尾やダストの尾には敵わないので、レアキャラではありますが、それでも他の原子に比べたら圧倒的に明るいです。

note図5

実は私は水星のナトリウムの研究をしているのですが、なぜナトリウムを選んだかと言うと、太陽の光を受けて沢山運動してくれる、とても明るく観測しやすいからです。水星もナトリウムの尾が広い範囲まで広がっていることが分かっています。水星の半径は2,500km程度ですが、その1,400倍、すなわち何百万kmも先までナトリウムの尾が広がる様子が観測されたこともあります。
今回のネオワイズ彗星の写真を見てみるとナトリウムの尾が見られたり見られなかったりするのですが、これがイオンの尾やダストの尾に埋もれて見えていないのか、それとも本当にナトリウムの尾が薄い時期があるのかは分かりませんが、いずれにしても「ナトリウムは彗星や水星がどのような環境に晒されているのかを見るのにうってつけの原子だ!」ということはここで強調させていただきます。

さて、改めて先ほどの画像をよく見てみると「ダストの尾の中にナトリウムが含まれている可能性」と書いてありますね。ナトリウムも他のガスと同じように、彗星の核から昇華して噴き出しているのですが、ダストの尾の中の砂粒たちの中にもナトリウムはまだ含まれています。そこからさらにナトリウムがブワッと噴き出して新たにナトリウムの尾ができることがあります。しかし、そこはダストの尾の中。ダストの尾の明るさが邪魔になるので、このタイプのナトリウムの尾を検出するのは至難の技です。

シンクロニックバンド

この言葉は聞き慣れない方も多いのではないでしょうか?シンクロニックバンドとは、ダストの尾の中に見える筋状の構造のことです。シンクロニックバンドを持つ彗星と持たない彗星があることが知られていますが、これらの彗星の違いが何なのかは分かっていません。ダストの尾の中のダストが崩壊することにより形成されると考えられていますが、細かい形成メカニズムは分かっていないのです。観測例が足りないというのが現状です。

note図6

以上、彗星の構造についてのお話でした。
最後に大事なことを1つ。彗星は天文学の中でも特に「アマチュア天文家」の力が重要な分野です!今回もTwitter等で沢山の彗星の写真が見られましたが、このような写真1枚1枚が彗星の謎の解明に重要なのです。
というわけで皆さん、是非彗星の写真を沢山撮ってください

最後までお読みいただきありがとうございました!是非、もう1つの彗星のお話もご覧ください。

画像クレジット:
天体感測室(https://twitter.com/starfeelroom)様



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