欲望の街のオアシス『シアター・ミラクル』(第0回空間タンブラー)
「タンブラー=ぶらりと探索する人」
タンブラー片手に颯爽と歩くスマートな女性になりたい私が、
自分の好奇心だけはしっかりと握りしめ
面白い「場所」「空間」をぶらり探索します。
私は新宿に行くとクラクラする感覚になります。
人の多さに加えて、
高級ブランド店の前にホームレスがいたり、
その横で動物愛護の募金活動をしていたり、
露骨に風俗っぽい看板や、金貸しの店があったり……
そこにあるもの全て、それぞれが放つ意味が強すぎて
混沌としているように感じるのです。
だから正直、新宿の街を歩くのは苦手です。
(匂いが強烈なスポットがあるのと、怖い人が多いのも理由ですが)
しかし、とても興味深い街でもあります。
こんなに混沌とした場所は他になく、その混沌さは観察しがいがあって面白いからです。
空間タンブラー第0回目は、そんな混沌の街 新宿にある劇場
シアター・ミラクルさんを訪ねました。
1:混沌と秩序の狭間
シアター・ミラクルがあるのは、混沌の街 新宿のなかでも特に欲望のエネルギー渦巻く歌舞伎町。しかも、西武新宿線新宿駅が建つ欧風で落ち着いた雰囲気の界隈と歌舞伎町のちょうど間にあります。
(西武新宿線新宿駅界隈)
(歌舞伎町界隈)
シアター・ミラクルを初めて訪れたとき、まずその立地に「これは面白い!」と思いました。
”混沌”と”秩序”の狭間に立つ劇場なんて、それだけで劇的です。
(シアター・ミラクル周辺地図)
それに、観劇のときも、劇場までの道のりをどちらから行こう?という楽しみ方ができそうです。
あえてガヤガヤした劇場通りを通って
お兄さんたちの渇いた視線のなかを掻い潜り
、欲望のエネルギーを浴びてからいざ観劇!
でもいいし、
一面レンガ造りの壁でおしゃれな街灯も光る、
レトロチックな西武新宿駅の道沿いを歩き、
落ち着いた気分で劇場へ。
というのもいいですね。
もしかすると、少し観劇の感じ方も変わるかもしれません。
(ちなみに私は西武新宿駅側の道沿いから行きました。)
どちらから行っても、美味しそうなケバブの匂いが劇場の目印です。
ケバブ屋さんの隣にある、黄緑と黒のロゴがシアター・ミラクル。
(雑居ビルの小劇場ってだけで、なんとなく新宿っぽい。)
2:なかは黒色
ビルの中に入り、エレベーターでシアター・ミラクルのある4階へ昇ります。
(初めての取材ということで、エレベーターが閉まって外界と遮断されると急に緊張感が迫ってくるようでしたが、扉が開くとちょっぴりまたケバブの匂いが漂ってきてなぜか少し安心しました。)
エレベーターを降りて正面には小さな受付スペースがあり、左手にすぐ劇場スペースが。
中に入ると、
……黒い!
黒いぞ!
平台の上にパイプ椅子が並ぶ座席
低い天井に吊り下がる照明
舞台と客席の距離の近さ
そしてこの真っ黒さ
これぞ小劇場!!
良いですね。良い。
小劇場に来たのが久しぶりで、感慨深く感じてしまいました。
コロナ禍で無くなってしまった劇場も少なくないので、ただ在るだけでなんだか有難い気持ちになります。
ちなみに、私が訪れたときは、
真ん中の舞台を客席で囲む コの字形のレイアウトでしたが
、固定座席ではないので、それ以外の形にも自由に変えられるようです。
来るたびにいろんな形の舞台が観れるのは観客としても嬉しいし、
劇団側も演出の自由さが増すので、こういうフレキシブルに変えられる空間って良いなあと思います。
3:「バー」する劇場
さて、劇場に入ってすぐ手前の右側にバーカウンターがあります。
このバーカウンター、ただあるだけでなく、本当にバー営業に使われているんです。
私がこのシアター・ミラクルに興味を持ったのも 「劇場でバー」という 、ありそうでなかったことをしていて 面白いと思ったからでした。
公演とは別に、バーとして営業する日があり、この劇場スペース一体をバー用にセッティングして、お酒を提供しているんだそうです。
(※コロナ禍で現在はノンアルコールドリンクのみの営業になっています)
大きな劇場だと、フロアにバーカウンターがあって上演前や幕間にお酒🍸なんて優雅な楽しみ方ができるところもありますが、
小劇場で、しかも上演スペースの外ではなく中にバーカウンターがあるなんて、(自然と馴染んでますが)よく考えると珍しいですよね。ライブハウスに似てるとも言えます。
劇場自体が、もともと人が集まる場所であればいいなっていう理念っていうか考え方があって、公演以外にも劇場に足を運んでいただけるタイミングはないかと思ったとき、バー営業してみよう、というところからはじまってます
(シアター・ミラクル支配人 池田さん)
そうして始まったバー営業ですが、俳優同士、観劇ファン同士、そして俳優と観劇ファンとの新しい出会いの場になっているようで、
なかには、バー営業の日に劇場というものに初めて来て、それがきっかけで公演を観に来ることになったという方もいたそうです。
それってまさに演劇ファンを増やす現場にもなっているということですよね。すごい。
私自身、1日店長のできるバーで何度かイベントを開いたことがあって、「バー」という響きには馴染みがありました。
そこでは、お酒を飲むという目的で来た人もいれば、イベントに興味を持ってきてくれた人や、前からその店に興味がありたまたま都合がついて来てみたという人もいて、いろんなきっかけで来たいろんな属性をもつ人たちが集まっていました。
そのなかで、たまにみんなで同じ話をして楽しむときもあり、こうやって偶然性を持った空間でゆる〜く人とつながれるって素敵だなと思っていました。
バーだけでなく、劇場の機能を思い切って拡張すると、そんな素敵な空間ができるし、なにより劇場が開かれた場所になります。
演劇人の語らいの場も必要だし、そうじゃない人と演劇人が関われる場所があった方が絶対に良い。
そして、街の中にそんな開かれた劇場があって、そこに人が集っていると、その街も魅力的になる。と、私は思います。
4:演劇人のオアシス
もうひとつ、シアター・ミラクルの面白い試みに
「プレイヤーズオアシス」があります。
これは劇場スペースではなく、シアター・ミラクルの事務所のスペースを使ってやっているもので、主に劇団の制作さんに向けて、台本の印刷/コピーやDVDのコピーが格安で出来たり、小道具の貸し出し、充電、さらに公演の相談にも乗ってくれるという、まさに演劇人にとってのオアシスとなるサービスです。
もともと私自身が制作のおしごとをしてて、今もやってるんですけど、困ることというか「あって便利なもの・なくて不便なもの」というのがわかるので、それがほしいなと思ったときに便利な場所にあったらいいな、よく考えたらうちの事務所便利な場所にあるな、と
(池田さん)
さらに池田さんが劇場の支配人になったのを機に、事務所にあったコピー機などが好きに使えるようになり、周りにもリソースをわけようと始まった試みがプレイヤーズオアシスです。
そしてこのプレイヤーズオアシスも、演劇人にとって便利な場所であるだけでなく、池田さんが出会ったことのない劇団の方との新しい出会いのきっかけにもなっているそうです。
バーとはまた違った出会いが生まれているんですね。
ただ、このサービス、一つだけ大きな欠点(?)が。
他のコピーサービスよりも安くしていて、ここだけの話最近わかったんですけど、やればやるほど赤字だって(笑)
ちょっとコストの計算の仕方間違ってたんですけど(笑)
ただただ演劇の人に優しいサービス
(池田さん)
オアシスが枯れてしまったら元も子もないです!!!!
さらに、池田さんに話を聞いていくと、ほかにもこんなエピソードがありました。
コロナ禍で行ったシアター・ミラクルのクラウドファンディングで、支援に対するリターンとして観劇クーポンを発行したそうなのですが、なんとそれが支援額よりも多い金額だったそうなんです。
これはいろんな人に「本末転倒なのでは」と言われたそうです。
でも、
支援した人が周りの人にクーポンを配って、劇場に足を運ぶきっかけを作ってくれるなど、結果的にとても前向きなものになっているようでした。
欲望の街 新宿歌舞伎町のど真ん中で、もっぱら演劇のためにあれこれ挑戦している池田さん。
自分が「あったら便利だな」と思うことを他の人も使えるようにと実装していくそのバイタリティ。すごい。
演劇人のみなさんは、ぜひプレイヤーズオアシス、利用してみてください。モノの便利さもさることながら、演劇歴の長い池田さんと直接演劇に関しての相談ができるので、困りごとがあったら訪れてみると何か良き方向にむかうかもしれません。
きっと親身になってこたえてくれます!
5:若い才能を発掘する場所
バーやプレイヤーズオアシスなどの試みをされているシアター・ミラクルですが、劇場としての大きな特色はなんと言っても若手発掘の場であること!
実際、この劇場では第2回公演、3回公演など、演劇を初めて間もない劇団が公演をすることが多く、
劇団を始めたばかりの頃にここで公演し、その後有名になった劇団としてアガリスクエンターテイメントや第27班などがあります。
シアター・ミラクルには、劇場公演に毎回来てくれる常連さんがたくさんいるそうなのですが、その常連さんたちも、今後飛躍しそうな劇団や俳優をいち早く発掘出来る場所として魅力を感じている人が多いのかもしれませんね。
そして、劇場としても若い人や演劇を始めてすぐの人に使ってもらえる劇場を目指しているそうで、劇場スタッフの方も、
支配人や劇場スタッフの協力度合いが高くて、結果自由度の高い劇場になっている(劇場スタッフ 目崎さん)
と、おっしゃっていました。
座席や舞台のレイアウトの自由さや、プレイヤーズオアシスという演劇制作に便利なサービス、そして劇場側への相談のしやすさなど
劇場全体がとことん作り手に寄り添った環境になっているから、若手劇団に重宝されるんだろうなと感じます。
6:ミラクルの魅力と野望
最後に、支配人池田さんの思うシアター・ミラクルの一番の魅力と、劇場としてのこれからの野望をお聞きしました。
ーーーシアター・ミラクルの一番の魅力は?
駅から近い。物理的な近さもそうなんですけど、来るのにハードルが低い。
お客さんの気持ち的にも近い劇場になりたいな。うちの劇場の常連さんって結構いるんですよね。〔......〕劇場のことを好きになってくださる方がある程度いるので、そういう距離の近い劇場だなっていうのは思います。
たしかに、新宿駅から歩いて5分程で、西武新宿駅はすぐ隣。
物理的に近いと観客としても嬉しいし、劇団としても公演が打ちやすいですよね。
そして、公演以外にも気軽に来れる機会があって、開かれた場になっていることも、お客さんとの距離を近くしている理由の一つなんじゃないかなと思います。
ーーーこれからの野望は?
劇場の主催企画でおっきいことがやりたいなというのはずっとありますね。
〔......〕劇場自体がただ貸し劇場として機能するだけじゃなくて、人が行き来する場所というか、出会う場所になればいいなというのは常に思ってますね。
今回取材させていただいて、何度も「出会い」というキーワードが出てきました。バー営業、プレイヤーズオアシス、クラウドファンディング、劇場公演、フェス。
シアター・ミラクルさんは、そんなさまざまな場面での出会いを大切にしている劇場です。
そしてなにより、劇場を守るため、見てくれて応援してくれるお客様のため、若い演劇人のため、演劇界のため、……と、たくさんのものを背負いながら必死に劇場を引っ張っていく池田さんの熱さと人柄に支えられた劇場だと私は感じました。
(シアター・ミラクル支配人の池田智哉さん。撮影時、「お疲れですね」と言うと、「多分疲れてないときがないかも」とおっしゃってました。)
(池田さん主宰の劇団 24/7lavo 劇団員の皆さん。取材時は、ちょうど旗揚げ公演期間中でした。)
というわけで、空間タンブラー第0回【シアター・ミラクル】 いかがでしたでしょうか……!?
シアター・ミラクルの良さが少しでも伝われば嬉しいです。
改めまして、ご協力してくださったシアター・ミラクルの池田さん、劇場スタッフや劇団員のみなさま、本当にありがとうございました!!!
次回はまた違った「空間」をぶらり探索します。お楽しみに!