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子どもの多様な知性をどう測る? SPACEが目指す「子どもが自分を知って調整する」ためのアセスメント

SPACEは、一人ひとりに合った個別最適な学びを実現するために、子どもの認知特性や興味関心である「個才」を見える化するアセスメントを重視しています。
前回ご紹介した「かまくらULTLAプログラム」でも、事前にアンケートを実施し、アセスメントを活用しながら、最初のプログラムとして「自分学」の時間を設けています。

「自分学」ではアセスメントで子どもたちに「自分自身をどう見たらよいか」というフレームを提供しています。自分にとってよりよい学び方を考えてもらうことを目的にしているからこそ、探究的なプログラムの中から自分に合う視点を見つけやすくなると考えています。

今回のnoteでは、認知特性を把握し生かすことの重要性と、アセスメント活用の注意点をお伝えしていきます。
先生方や、学びに関わる全ての皆様に、参考いただけたらありがたいです。
・SPACEのアセスメントはどのように作られているのか?
・学校教育にアセスメントをどう生かせるか?
というような目線から、読んでいただけたらと思います。

なぜアセスメントが重要なのか

SPACEの前身である「異才発掘プロジェクトROCKET」に代表の福本が携わり、学校という枠の中になじまない子どもたちと関わる中で考えさせられたのが、「知性とは何か」という問いでした。

ROCKETに所属する、異なる認知特性や興味関心を持つ子どもたちの知性は、学校のテストだけで計れるものではありませんでした。もっと広い概念で捉えると、より多様な知性があるはずだと考えたのです。

SPACEがアセスメントを作るのは、ある基準や測定可能な範囲でのみ判定されたり診断されるためではありません。
自分自身の状態を把握し、自らをよりよい状態へ調整できるようになるためです。

例えば、「あきっぽい」という特徴は、ひとつのことを続けるべきという環境では評価されませんが、スピーディーに様々な分野を横断するべき環境であれば、よい評価に転じることもあります。

自分の特性が、どのような環境に置かれたときに生かされるのか、対処の仕方や生かし方を理解することが必要です。
だから、SPACEでは実際に多様な学び方をプログラムの中で体験できるようにしています。トライ&エラーの中でこそ、合う合わないの判断が具体的に実践できて、その中から自分の生かし方が分かってくると考えているのです。

アセスメントを絶対視しない

SPACEはアセスメントを提供する一方で、自分たちが使っているアセスメントを完璧なものという風には信じていません。

知性はそんなに簡単に分かるものではない、と考えているからです。知性はもっと広く、より多様で、その人やその場によっても異なるものです。
ひとつの捉え方を提示することで、それを盲信するのではなく、「そもそも自分の知性とは何か?」と、問い直す機会にアセスメントで見えてきた視点を活用してもらえればよいのではないかと考えています。

「あなたはこういうことが得意です。これをやっていくことで必ず成功します。」と断言されて、それを信じて思考停止で生きられたほうが楽かもしれません。
しかし、自分がどんな特性や知性を持っているのか、そもそも知性とは何なのかを、大人も子どもも考え続けること自体が「生きている」ということであり、そこを試行錯誤しながら自分なりの解に近づけていくことの方が健全だと思うのです。

SPACEのアセスメントの作られ方

SPACEのアセスメントは、学術的知見に基づいて構成されています。「認知的個性」を提唱されている関西大学の松村暢隆先生が日本版として標準化された、心理学の世界的権威であるガードナー(H. Gardner)のマルチプルインテリジェンスと、アメリカの心理学者であるスタンバーグ (R. J. Sternberg)の思考スタイルなどを組み合わせて作成しています。

SPACEのアセスメントの一部

就職の際に仕事や職場環境との適性をみるために取り入れられているところも少なくありませんが、子どもが環境と特性をマッチングできるようにという意図をもって、教育の世界で導入が未だなされていません。教育で学習意欲を高めるに当たって、興味関心は子どもの主体的な学びの根底にあるはずなのですが、把握するツールがそもそもないことに、違和感を覚えます。

アセスメントとして自分を捉える視点を提供するのと同時に、学びのログを記録していくことも目指しています。
意識的に選択していることのほかに、無意識な選択を人間は日々積み重ねています。そうした選択の蓄積から指向性を見出していけるようになると、本人はもとより先生や家族もログを確認することで、一人ひとりの子どもの関心がどう変化したり深まったりしているか把握しやすくなります。

AI解析で、子どもの興味が今どこに向いているのか分析し、オンライン/オフラインの両方から多くの人に出会う機会をつくるシステムの構築も目指していけたらと考えています。
従来のように、大人が決めた全員共通のカリキュラムではなく、子どもたちのもつ無限の興味関心に個別に対応できるようにしていく形です。

アセスメントが導く、新しい学校教育

「機械やデータで子どもの知性や特性を測れるのか?」という批判的なご意見もあるかもしれません。

確かに熟練した先生や保護者は、子どもたちの知性や特性を正確に把握できるかもしれませんが、すべての子どもが熟練した教育者と出会えるわけではありません。
熟練の先生たちの視点をアセスメントに盛り込むことによって、属人的な世界を超えて、全ての子どもたちが主体的に、個別最適化を進めていけると考えています。

かまくらウルトラの海プログラムで、3Dプリンターでシャリ型を作る様子

そして最も重要なことは、ツールが示すデータを元に自己決定するのは、あくまで子ども自身である、ということです。
意思決定のプロセスで大人が手を出してしまいがちですが、子ども本人のオーナーシップを尊重することで、自己調整・チューニングができるようになっていくと考えています。

例えば受験勉強で、目的を自分で発見することなしに成果だけを求められると、主体的な学びではなく義務と感じるようになります。生きているうちに出会う様々な課題も、子どものオーナーシップを尊重できなければ、大人や社会から「課せられたもの」になってしまいます。

一人ひとりの好奇心や情熱の芽を、大人の考える常識で阻害せず、答えのない問いを探究できる力を育むことが、今こそ重要です。
あくまで子どもの意思決定を助けるために、アセスメントのようなツールを活用していきたいと考えています。


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