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「2020年は選手を活用したインフルエンサーマーケティングに取組む」Jリーグのデジタルマーケティングを聞いた

Jリーグは2019年のシーズンで年間総入場者数1,100万人超えを記録。明治安田生命J1リーグの平均入場者数も、Jリーグ誕生以来最多の動員となりました。今や発足時のJリーグバブルと呼ばれた頃を超える人気となったJリーグ。この成功にはデジタルマーケティングが深く関わっていました。

今記事では、Jリーグが取り組んでいるデジタルマーケティングについて、また、2020年の展開について公益社団法人日本プロサッカーリーグの出井宏明さんにお伺いしました。


公益社団法人 日本プロサッカーリーグ
事業統括本部 本部長 出井宏明様

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1988年、(株)リクルート入社。2013年7月に(公社)日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に入社、事業マーケティング本部長として事業、マーケティング、海外事業を担当。2018年4月に(株)Jリーグデジタル代表取締役社長に就任、2019年1月より(株)Jリーグメディアプロモーションの代表取締役社長を兼任した後、2020年1月より(公社)日本プロサッカーリーグ 事業統括本部 本部長に就任。

今のJリーグはJリーグバブル時を超える人気

ーー 2019シーズンは年間総入場者数や、平均入場者数などの記録を更新された1年だったと思います。とくに印象深いトピックはありますか?

出井さん(以下、敬称略):年間総入場者数1,100万人を超えることができたのは印象深いトピックでした。また平均入場者数は、J1では初めてJリーグ発足時のJリーグバブルと呼ばれていた時期のピークだった19,598人を超え、20,751人となりました。J2では7,126人。この数字も、世界中の2部リーグの中で第5位の入場者数です。J2の数字も侮れないと思います。

ーー 歴史的な1年だったんですね。このような結果が残せた要素は何だったんでしょうか?

出井:このような結果を残せた要素はいくつかあります。まず、J1はイニエスタ選手をはじめとしたビッグタレントが来てくれたこと。これは間違いなく大きいです。

デジタルマーケティングの観点から見ると、データを可視化したことです。可視化したことで、細やかなPRやサービス提供が可能になりました。

ーー デジタルマーケティングに注力し始めたのはいつからなのでしょうか?

出井:2014年からです。2014年に4ヵ年計画を立て、デジタルにしっかり投資するプロジェクトをスタートしました。フロントサービスの充実から取り組みはじめ、次にSNS、それからデータの格納、データの有効活用という形で進めています。

デジタルマーケティングを進めるうえで重要な役割を担ったのは、今年3年目を迎えるデジタル人材育成講座です。この講座は、各クラブの担当者さんに向けたもので、デジタルコンテンツを使ったプロモーションやマーケティングに関する講義を行っており、基本的に月1回、アドバンスとベーシック、ビギナーの3つのコースに分けて実施しています。

現状、Jリーグの各クラブにデジタルコンテンツについて詳しい専任の担当者さんがいることは稀なんです。ほかの業務と兼任している担当者さんが多く、クラブ内に同じ仕事に取り組んでいる仲間も少ない。それに、Jリーグには大きいクラブもあれば小さいクラブもあるので、各クラブごとのデジタルコンテンツへの取り組みには差がありますし、成果に繋がらなければ止めてしまいます。

そこで、デジタルに関して少しでもお役に立てるようにつくったプログラムがデジタル人材育成講座です。

ーー なるほど。まずは人材の育成に取り組まれたと。担当者同士の横の繋がりなどもできそうですね。

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出井:そうですね。各クラブの横の交流が増えました。1つのクラブの成功事例を共有し、それをもとに、ほかのクラブがトライする流れができてきているので、デジタルコンテンツに対する取り組みは広がっています。

ーー さきほどデータの可視化を成功の要素としてあげられていました。具体的にどのようなデータが可視化されたのでしょうか。

例えば、「3回の壁」の可視化です。3回の壁というのは、3回目の来場をしてもらうことが難しい、ということ。実はどのクラブでも何となく言われていたことなんです。この壁がデータの可視化により明確になりました。

可視化されたことで、まずは3回来てもらうための施策を考えようとなりますし、何が問題かがわかれば俄然ドライブもかかります。もともとクラブの方々は、観客の皆さまに喜んでもらいたいという想いは強く持っていますしね。

そういったデータの可視化が本格的に広がってきたのが2019年です。2020年はPDCAを回すこと、更には来場いただいたお客様の推奨意向の可視化を強化したいと思っています。1年経つと、きっとパターンが出てくると思うので、見えてきたパターンを2021年以降に展開できたらと思っています。

選手を活用したインフルエンサーマーケティング


ーー Jリーグでは、デジタルマーケティングの中でもとくに動画に力を入れられていると伺いました。具体的にどういった活用をされているのでしょうか?

出井:SNSを活用した動画の配信に力を入れたいと思っています。ですが、正直にお話しすると試行錯誤を重ねている最中です。動画といっても、例えば、尺はどのくらいがいいか、ゴールシーンか確認シーンかなど、内容だけでも様々なことを考えないといけません。


最近のヒットはレフェリーの判定に対する疑問を議論、解説する「Jリーグジャッジ リプレイ」という番組です。もともとJリーグの公式YouTubeチャンネルのコンテンツとして配信していましたが、DAZNさんに番組として取り上げていただいてDAZNで先行視聴できるようになっています。

ーー 2020年に新しく始められる動画の活用などはありますか?

出井:今年から、「AIによる機械学習を活用したクリップ映像の自動生成機能(AIクリップ機能)」のクラブへのサービスの提供を本格化します。これにより様々なクリップ映像が簡単に生成・提供できるようになります。また、まだスタートの時期などはお伝えできない状態なのですが「選手を活用したSNS施策」のチャレンジを考えていきたいと思っています。ベタな言い方をすると、選手を活用したインフルエンサーマーケティングになります。

「選手を活用したSNS施策」については、現在鋭意準備中で、まずは静止画からスタートとなりますが、国内のスポーツ団体系では新しい取り組みになると思います。

ーー どのようにして選手に素材を提供するのでしょうか?

FUROSHIKI_概念図_記事提供用

出井:我々はクラウド上に様々な静止画や映像データ、各種競技データをアーカイブする仕組みにマネジメント・プロダクション機能を加えた「Jリーグ FUROSHIKI」というコンセプトを去年からスタートしています。

Jリーグで撮影された静止画素材を「Jリーグ FUROSHIKI」に集約して、クラブや選手に渡します。また、選手がどの画像を選んで投稿したかなどが確認できる、SNSの入稿ツールも提供予定です。選手は提供された素材からいくつか好きなものを選んで投稿できますし、クラブサイドもツールを使ってマネジメントができるので面白い取り組みになると思います。
将来的には、課題はありますが、先ほどのAIクリップ機能を活用した、クリップ映像素材の提供なども視野に入れていけたらと考えています。

スポーツテックとしての取り組み


ーー 最近は「SPORTS TECH」が注目されています。今お話いただいた取り組み以外にもSPORTS TECH領域で取り組まれていることはありますか?

出井:実は色々やっています。

知らない方もいらっしゃると思いますが、Jリーグでは大きく3つのデータを取得しています。1つ目は「公式記録」と言われている、選手が誰で、誰が得点したかという試合の記録そのものです。

2つ目は「公認データ」と言われている、試合の映像をもとにパス成功率やボール支配率などを取ったデータになります。これは試合映像をもとにオペレーターが全てタグ付けをしています。3つ目はカメラにより測定対象を自動追尾するシステムを使用した、位置情報をもとにした「トラッキングデータ」です。

これらのデータを取ることは、分析においてとても役に立ちます。例えば、戦術分析や、自分たちの失点パターンなど、すでに各クラブで活用されています。ほかにも、得点期待値を予測するなど、データを活用した取り組みは行っているのですが、まだエンターテインメントとしてデータを充分に面白く伝えきれていないのではないか、という課題があります。ここは、いいアイディアがあったら教えていただきたいです。

それから、我々はJリーグだけでなく、卓球のTリーグさんやバスケットボールのBリーグさんなど、サッカー以外のスポーツの映像データも預かっています。預かっている映像データは要望に合わせてカスタマイズすることができ、Jリーグではパブリックビューイングや、YouTube配信、SNS投稿などに活用しています。
そのほかに、Jリーグの映像は各キー局さんを含めた全国100局以上にデリバリーしています。

「Jリーグ FUROSHIK」を利用することで、Jリーグ以外のスポーツも、素材を載せるだけで流通させることも可能です。スポーツ業界全体としてもスポーツ映像が流通しやすくなるため、ぜひ業界全体で取り組めればと考えています。

ーー ありがとうございました。


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