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「事業を照らし続けるのは、本質的なヒトコト」坂本 和加氏が考えるコピーの定義

2020年9月2日(水)~4日(金)に開催された「第12回 Japan マーケティング Week【夏】」、9月9日(水)~11日(金)に開催された「第1回 Japan マーケティング Week【関西】」。
会期中、広告強化コースの専門セミナーとして開催された『「よくはたらく言葉」のつくりかた』の講師・坂本 和加様に企業が言葉を作る際のコツをお伺いしました。あわせて、セミナーの内容を一部抜粋して掲載します。

合同会社コトリ社
コピーライター 坂本 和加様

ポートレート

貿易商社 総合職を経て、コピーライターへ。一倉 宏氏に師事し2016年独立。代表作に「カラダに、ピース。カルピス」「行くぜ、東北。JR東日本」、ネーミングに「WAON(イオンリテール)」など。独立後は、スローガンやネーミングを多く手がける。ブランディングという視点から丁寧なコピーワークにつとめている。

コピーライターの定義

コピーライターの仕事は「問題や課題に対し、ヒトコト化し解決に導く手伝いをする」こと。ヒトコトにはいくつかの種類があります。まずはネーミング。皆さんに名前がついているのと一緒で、ものの名前を考えます。次にスローガン。これはブランドや会社のロゴについている、企業の理念や姿勢を言い表したもの。そしてキャッチコピーです。どう売ればいいのか、を色んな言い方で表すのがキャッチコピーです。

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アサヒ飲料さんのカルピスウォーターの広告を例にとると、ネーミングは「カルピスウォーター」。キャッチコピーは「今をもっと、好きになる。」。スローガンは「カラダに、ピース。」です。このスローガンは私が2007年にお仕事をさせていただいたコピーで、かれこれ13年使ってくださってます。

スローガンは会社やブランドを抱える言葉

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「ネーミング」「キャッチコピー」「スローガン」を、1本の木に例えて説明すると、キャッチコピーは葉っぱの部分です。葉っぱは毎年新しくなっていきますし、四季を通じて色も変える。同じように、広告も新しいものが次々と出てキャッチコピーも変わっていきます。

ネーミングは木の枝や幹にあたる言葉。さきほど例に挙げたアサヒ飲料さんではカルピスウォーターの他にもカルピスソーダなどの商品もあります。その木の枝や幹(ネーミング)に葉っぱ(キャッチコピー)を付けていくわけです。

そして会社やブランドを表す言葉がスローガン。スローガンが葉っぱの先から木の根っこまでカバーします。会社やブランドだけではなく社員さんも含まれます。

ネーミングとスローガンは変わらない言葉です。人の名前が変わらないのと一緒で、ネーミングもコロコロ変わりません。

スローガンも同じです。
スローガンの仕事の1つは「世の中へのPR効果」。例えば、JR東日本の「行くぜ、東北。」。これは私も関わらせていただいている仕事で「行くぜ、東北。」が生まれたのは2011年。もう9年が経ちましたが、いまだにスローガンとして使ってもらっています。キャンペーンのスローガンであれば、メディアをまたいでも何のキャンペーンか分かります。

会社名やブランドについているスローガンであれば、何を志している会社、ブランドなのかが端的に分かります。「カラダに、ピース。カルピス」もそうですね。自己紹介やファンづくりにも関係してきます。

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スローガンのもう1つの効果は「インナーへの効果」。社員さん、みんなの意識を1つにする効果です。あとは「いつでも立ち返れるモノサシになる」。事業が広がっていくと「あれ? 自分たちは何のためにこの事業をやっているんだっけ?」みたいなことになる。創業者の“熱”が弱くなる。そういうときに、立ち返れるモノサシがあると、ブレなかったり立ち止まったりすることができます。それから、「世の中との約束」。私たちはこういうことをするために会社をやっている、という約束の言葉としての効果です。

ビジネスを加速させる言葉がスローガン

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スローガンは事業コンセプトにもつながっていく言葉です。「私たちはこういう志でお客様にサービスを提供しているんです」ということをヒトコトで表現できたらとても分かりやすい。例えば、「お、ねだん以上。」「ココロを、満タンに」「水と生きる」などは、どの会社のスローガンか皆さん分かると思いますし、事業を照らしていますよね。

スローガンを持っていなくても、ビジネスは進みます。ただ、スローガンがあったほうがビジネスは加速します。なぜかというと、世の中に対して「よそとうちは違うぞ」ということが言えば、プレゼンスがあがるからです。

では、ずっと事業を照らし続けるスローガンにふさわしい言葉はどういったものがいいのか。ぱっと見て誰もが分かって、記憶に残る、短いヒトコトが良いと思います。さらに長く使うためには、本質的であることです。


(セミナーではこの後、本質をとらえるためのアドバイスや、スローガンを作るためのヒントについて話がありました。次章からはセミナー後に実施をしたインタビューをお届けします)


スローガンは対話から生まれる


ーー スローガンを作るときに、参考にされたり連想されるものはありますか?

そのほとんどは対話の中から生まれます。会話ではなく、対話です。

「何が悩みなのか?」「どうしたいのか?」「何が一番うれしい、好きなのか?」など、色々なことを話します。社員さん個人個人のちょっとした話などを聞いていくと「こういったものが好き」「こういうのは自分たちらしい」ということが出てくるんです。
例えば電子マネーのWAON(ワオン)のスローガンを作ったときは、対話の中から「高齢者の方に電子マネーを使ってもらいたいけど、皆さん怖いと思っているみたいなんです」という悩みが聞けたことが糸口となりました。

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また、対話を通して社員さんに選ぶモノサシを持ってもらう。私は言葉を提案しますが、選ぶのは社員さんたちです。ただ、たくさん言葉を並べても、なぜこれがいいのか、というモノサシがないと選べないですよね。ですので、相手を尊重して相手がしたいことを理解しながらキャッチボールのように対話をしながら、私は言葉を見つけて、モノサシを作る、ということをやっています。

ーー スタートアップやベンチャー企業では、スローガンとは別にミッションやビジョン、そしてバリューという言葉をよく聞きます。これらと、スローガンの違いは何でしょうか?

ミッション・ビジョン・バリューは、3つあるから作りやすいかもしれないのですが、ゆえにことで分かりにくくなっていると思います。なので職業柄、ミッション・ビジョン・バリューを満たすような言葉を、ひとつにまとめられたらもっと楽ちんと思う。私、3つも覚えられないです。(笑)

ーー 「カラダに、ピース。」は3つがうまくまとまっているなと思いました。対話がひとつのきっかけだとは思いますが、どのようにスローガンを発想したのでしょうか。

「カラダに、ピース。」の前は、かなりお行儀のいいスローガンが使われていました。でもこのスローガンは、真面目で堅い感じがありつつ誠意があって「カルピスそのものの人柄だよね」という話もあったんです。

例えば、「結婚する人がカルピスに勤めている人だとしたらきっと良い人だなって思う」という話があったり、「カルピスは子どもと一緒につくるから子どもの匂いがする」といったイメージがあったり。こういうところがカルピスの強みではないか、という前提がまずありました。ただ、いろいろと抱えている現代人に心の健康とか、からだの健康という言葉は「堅くなりすぎていて勿体ない」という話もあって。

「カラダに、ピース。」はカルピスという音からも着想しましたし、「みんなにとって健康、って、ハッピーって何だろう?」みたいなことを考えてピースという言葉が出てきたと思います。ある意味、頭では書いていないところがあります。頭で書くな、というのは師匠にずっと言われ続けてきたことで、難しいことではあるんですけど。感覚で書いて、腹落ち感を重視している感じです。

ーー 坂本さんから見て、いいスローガンはありますか?

サントリーさんの「水と生きる」というスローガンはよく例に挙がります。この言葉は社内から生まれた言葉だと聞いていますが、ローンチ当時は「何を言っているんだろう?」という空気もあったと思います。でも、「水と生きることに決めた!」という宣言をしたことで「サントリーって水の会社だよね」「水を育てているよね」っていうのがじんわりボディブローのように効いてきて、今はみんなが「良いね」と指示されています。社内外で知られているスローガンで、その約束もしっかり果たしていて、素晴らしいなと思います。

ーーありがとうございました。


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