〈Chef's choice〉 この完成度の高さは スーパープロフェッショナル。
文・撮影/長尾謙一
何を選び、どう使うか。
〝これはいいね〟とシェフが選ぶ素材を
料理にどう展開するのか……。
素材を軸にしたシェフの読みをひも解きます。
〈今回の素材〉
ラ ローズ ノワール(2回目)
・ミディアムコーン(6タイプ)
・AOPミルフィーユシート 小
・チョコレートシェル プレーン ラウンド(丸)φ70mm
(素材のちから第41号より)
「丁寧な手づくりによってつくられる品質は、使い手の作業と提供されるシーンをよく理解している。」
前回に続き、「ラ ローズ ノワール社」の商品をご紹介したい。「ミディアムコーン」、「AOPミルフィーユシート」、「チョコレートシェル」をシェフはどう使うだろう。
レストラン ラフィナージュ(東京・銀座)
オーナーシェフ 高良 康之 さん
「ラ ローズ ノワール」の商品からは製造メーカーの誇りが伝わってくる
──びっくりされたとおっしゃっていましたが、何に驚かれたのでしょうか?
前回に続き「ラ ローズ ノワール」の商品をご紹介することになりますが、前にも増して、「この商品をつくっている人達って偉いなあ!」と感激しました。素晴らしいです。
「ミディアムコーン」のパッケージを見てください。コーンが一本一本立ててあって、パッケージを開けたらそのまま仕事ができます。メニューをつくったら、ふんわりとラップをかけておけばそのまま冷蔵庫で取っておけますし、そのまま運べます。
普通は輸送中の破損のことだけしか考えず、使うシーンのことは考えないでしょう。壊れないし、このままネタ仕込みしておけるし、こんなにいいものはないですよ。
このままケータリングにも行けます。コーンのお客様が持つ位置に銀のスリーブも付いていて、どんな場面に使われるかをしっかりと想定しています。
「ラ ローズ ノワール」の商品コンセプトは、〝世界の料理人やパティシエの手助けをするために、かゆいところに手が届くハイクオリティの商品をラインナップすること〟と伺いましたが、それにしてもかゆいところに手が届き過ぎです。
「AOPミルフィーユシート 小」は薄く伸ばしやすいし、パイケースをつくるにはそのまま使うとちょうどいい厚さです。
生地の間に一枚一枚シートが挟んであって使いやすいし、さらにこのサイズ感がいいですね。冷凍庫が小さくても収まって、私どものような20席くらいのレストランの冷凍庫には最適のサイズです。
「ラ ローズ ノワール」の「チョコレートシェル」には、今回の「チョコレートシェル プレーン ラウンド(丸)φ70mm」だけでなく形も大きさもいろいろあって、その一つ一つが手づくりされています。
これは熟練されたパティシエでもこれだけクオリティの高いものを均一につくるのはなかなか難しいでしょう。プティフールでもデセールでも皿の中を楽しく演出できると思います。
ここまで考えてつくられているものなら、品質はいいに決まっています。商品全体から製造メーカーの誇りを感じますね。
それでは料理をつくってみましょう。
「ラ ローズ ノワール」をこう使う①
「ミディアムコーン」の軽い崩壊感と、風味と色のバリエーションをいかす。
──「ミディアムコーン」はレストランのどのようなシーンで使えますか?
ケータリングにはぴったりですし、ウェルカムメニューとしてシャンパンと一緒に楽しんだり、立食パーティーなどの〝フィンガーアミューズ〟にもいいですね。
「ラ ローズ ノワール」のコーンには3タイプの大きさがありますが、今回使ったミディアムサイズにはオニオンやバジルなど6種類の味わいがあり、それぞれコーンの味がしっかりとしています。生地の薄さがとてもよく、パリッと軽い崩壊感が凄くいいですね。
中に詰めるものはこれじゃなきゃダメといった方程式はありませんが、複雑にするよりもメインになる素材をドンと入れて比較的シンプルにしておくと、コーンの風味や食感と一緒になる味の変化を楽しめます。コーンの内側がしっかりとコーティングされているので、ソースなどの液体を流しても漏れません。
──では、どのような〝フィンガーアミューズ〟ができるのでしょうか?
赤や緑など色合いにもバリエーションがありますし、それぞれのコーンに味の個性がありますから、その組み合わせを楽しみながらつくってみました。
上段左から、「ミディアムコーン オニオン」には、鮑を詰めました。蒸した鮑の食感と肝ソースが「ミディアムコーン オニオン」の風味とサクッとした食感が重なり合います。赤い「ミディアムコーン ビートルート」には、スパイスで香りのアクセントをつけた赤いズワイ蟹を合わせました。
中段の緑の「ミディアムコーン バジル」には、やわらかなフォアグラのムースにアンディーブとフィグです。オレンジ色の「ミディアムコーン 赤パプリカ」には、さわやかなヴェルガモット風味に仕立てた燻製ホタテを詰めました。
下段の「ミディアムコーン チーズ」には、マスタードをきかせたチキンをチーズの味わいにのせてみました。「ミディアムコーン シーウィード」には、オコゼのマリネにフルムダンベールソースをアクセントに添えました。
盛り付け用にわざわざ器を揃えようとしなくても、深めのお皿やコーヒーカップなどで十分です。
こうして手元にある食材を思いつくままに詰めるだけで、ちょっとした〝フィンガーアミューズ〟ができるのも、「ミディアムコーン」が最終のメニューイメージやお客様が楽しまれるシーンをしっかりと想定して、色、風味、生地の薄さ、食感、大きさなどがつくられているからです。
「ラ ローズ ノワール」をこう使う②
香ばしく焼けたパイ生地のおいしさで、溢れる仔鳩の肉汁を包み込む。
──「AOPミルフィーユシート」の特徴が分かる料理をお願いします。
それでは、仔鳩の料理をつくってみましょう。
仔鳩を4枚におろして皮を取り除き、モモ肉は脛部分の骨を残してモモの骨も取り除き、これに塩をして、1cm角に切ったフォアグラとマッシュルームのデュクセルを挟みます。「AOPミルフィーユシート」を厚さ2mmに伸ばして仔鳩を包み、全体に卵黄を塗って飾りをつけ、さらに卵黄を塗ります。これを250℃のコンベクションオーブンで6分間加熱し、4分休ませ、半分にカットして仔鳩のガラとマデラ酒で仕立てたソースに黒トリュフのみじん切りを加えて添えました。
「AOPミルフィーユシート」はバターの香りが凄くいいのはもちろんですが、そのあとにくる粉のおいしさがいいですね。パイ生地の料理ですから、粉のおいしさが料理の中にいないと意味がありません。浮きもよく、焼き切った香りとパイの歯切れが凄くいいです。仔鳩の旨みのあるジューシーな肉汁をパイ生地が閉じ込めて、そこに焼けたパイの油分と香ばしい風味が一体化する。そこにトリュフのソースを寄り添わせます。パイ生地のおいしさと繊細な仔鳩の味がとてもマッチします。
「ラ ローズ ノワール」をこう使う③
思いっきりやわらかなムースを「チョコレートシェル」に流し込んでみる。
──「チョコレートシェル プレーン ラウンド(丸)φ70mm」のよさは、どんなところにあるのでしょうか?
こうしたチョコレートを成形したものを使う時に、一番気になるのがショコラ自体の品質ですね。形ばかりを優先して味のレベルは二の次というものがたくさんありますが、この「チョコレートシェル」は味わいがシャープで凄くおいしいです。
さらにチョコレートの厚さが、厚すぎず薄すぎずちょうどいい。ですからとても使い勝手がいいです。
「チョコレートシェル」にグリオットチェリーを入れ、上からエスプレッソコーヒーの風味をつけたショコラのムースを入れてすりきり、冷蔵庫で冷やします。表面に粉糖とカカオパウダーをふり、上にグリオットチェリーを一つ飾り、バニラアイスの下にアーモンドのクランブルを敷いて添えました。
「チョコレートシェル」は、薄く見えますがしっかりした強度を持っているので、凄くやわらかなムースを中に入れることができます。
チョコレートが厚すぎると、口溶けが悪くバランスが取れずにしらけてしまいますが、この「チョコレートシェル」の絶妙な厚さは素晴らしい。口の中でチョコレートがやわらかなムースと一緒にタイミングよく崩れてくれます。
口溶けと香り立ちもよく、エスプレッソショコラのムースの味が綺麗に出てきてとてもおいしいです。サイズ感もちょうどいいですね。
──「ラ ローズ ノワール」の商品とは?
ちょっと前までこうした手間を省く商品は、調理の現場を楽にするためのものでした。ですから楽になるならこの程度でも仕方ないと料理のつくり手も品質に妥協していたのです。
でも、「ラ ローズ ノワール」の商品は違います。
この完成度の高さは調理の効率のために使うのではなく、おいしさを極めるために使うのだと商品が胸を張っているように見えます。
(2021年6月30日発行「素材のちから」第41号掲載記事)
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