〈Chef's choice〉 〝手づくり〟にしかできない仕上がりを魅せつける。
文・撮影/長尾謙一
何を選び、どう使うか。
〝これはいいね〟とシェフが選ぶ素材を
料理にどう展開するのか……。
素材を軸にしたシェフの読みをひも解きます。
〈今回の素材〉
ラ ローズ ノワール(1回目)
・タルトシェル ラウンド(丸)ミニ セイボリー
・タルトシェル スクエア(四角)ミニ セイボリー
・バスケット 黒ゴマ
・バスケット ビートルート
・ホワイトユニバース グローブ 小
・ホワイトユニバース ギャラクシー 小
(素材のちから第40号より)
「デザイン、味、香り、食感、原料のよさ、テクニック、使ってみると丁寧な手づくりのよさがすぐに分かります。」
「ラ ローズ ノワール社」の「タルトシェル」、「バスケット」、「チョコレートシェル」。シェフは、この小さなペストリーとチョコレートをどう使うのだろう。
レストラン ラフィナージュ(東京・銀座)
オーナーシェフ 高良 康之 さん
「ラ ローズ ノワール」がハンドメイドにこだわる理由は、ハンドメイドでしかできないから
──「ラ ローズ ノワール」を最初に見た時の感想を伺えますか?
実は、これはちょっと小さすぎるかもと正直思ったんですよ。でも、「タルトシェル」をそのまま食べてみて、食感もいいしバターの香りもする、練り込んであるスパイスもいい感じで、ずいぶん丁寧につくってあるなと思いました。
実際にメニューにしてみると、小さすぎると思った大きさが一口で食べるにはとてもいいサイズ感で、調理の現場がよく分かっているなと感心しました。
これをレストランでつくろうとすると、とても手間がかかります。生地を寝かせて伸ばして、型にフォンサージュして焼きますが、こんなに小さな丸や四角のタルトシェルはそう綺麗には仕上がりません。
この生地を垂直にフォンサージュするのは結構難しいし、型も販売されていないでしょう。「バスケット」、「チョコレートシェル」のクオリティにも感心しました。
「ラ ローズ ノワール」は、1991年にスイス人パティシエ、ジェラール・デュボワ氏が香港に開いたブーランジェリー・パティスリーで、昔ながらの製法ですべてを手づくりで製造していると聞きました。「ラ ローズ ノワール」のコンセプトは〝世界の料理人やパティシエの手助けをするために、かゆい所に手が届くハイクオリティの商品をラインナップすること〟だそうです。
その手づくりの様子が分かる動画がありますのでご覧ください。スタッフの人数や手さばきに感心させられます。
──どのような料理にお使いになりますか?
アミューズやパーティーメニュー、デセールにいいですね。アミューズはお客様が一番最初に口にされるものですから、その一品でお店の印象が決まってしまう重要なものです。
そうした意味からも、「ラ ローズ ノワール」は「気が利いてるな。」とインパクトを与えると思います。パティーメニューについては言わずもがなです。
「ラ ローズ ノワール」のアイテムは驚くほどたくさんあります。〝タルトシェル〟や〝バスケット〟には甘いタイプもありますから、〝チョコレートシェル〟のようにデセールにも使えます。
料理の視野を広げるためにも積極的に取り入れたいですね。
「ラ ローズ ノワール」をこう使う①
タルトシェルのヴァリエ
かわいく食べやすいタルトシェルで、プティタルトのパーティープレートをつくる。
──「ラ ローズ ノワールのタルトシェル」の使い方を教えていただけますか?
それでは「ラ ローズ ノワールのタルトシェル」を使って、〝タルトシェルのヴァリエ〟をつくってみましょう。
まず、プレート左の〝チーズとそら豆のタルトシェル〟は「タルトシェル ラウンド」にキッシュの生地とグリュイエールチーズ、ピマンデスペレットを入れて、120℃のオーブンで8分焼き、焼いた空豆とトリュフを添えました。
2つ目は「タルトシェル スクエア」に炒めたポロ葱とポロ葱のフラン生地を入れ、同じようにオーブンで焼き、温かな生地の上にズワイ蟹を盛り、芽葱を飾り〝ズワイ蟹とポロ葱のフラン〟に仕上げました。
3つ目の〝ウニのキッシュ〟は「タルトシェル ラウンド」にキッシュの生地と炒めたほうれん草、ベーコンを入れオーブンで焼き、キッシュをよく冷ましてウニをあしらいます。
今度は「タルトシェル スクエア」にマッシュルームのデュクセルとフラン生地を入れオーブンで焼き、充分に冷ましてからキャビアとシブレットをあしらい〝マッシュルームのフランとキャビア〟をつくりました。
最後の〝仔羊とロックフォールのタルトシェル〟は、仔羊のミンチを赤ワインとクミン、フォン・ド・ヴォーで炊き上げ、「タルトシェル ラウンド」にキッシュの生地と共に加え、オーブンで焼きます。これにロックフォールチーズとカシューナッツ、はちみつをのせ、パセリのみじん切りを添えました。
「ラ ローズ ノワールのタルトシェル」は最初は生地が厚いなと思いましたが、中にアパレイユを流し込んで焼くと、これくらいの厚みがあった方がいいと思います。薄いものは水分を吸ってクチャッとなって、焼成が終わって中には火が入っているのにまわりは湿っている。かと言って焼き直すと中にすが入ってしまう。そんなタルトシェルが凄く多いです。機械でつくるものはこの厚さが出せないのでしょう。
「ラ ローズ ノワールのタルトシェル」は厚さがあるので崩れる感じがまったくありません。サクッとしているし、しっとり感もあってとても口当たりがいいです。実はこの生地の厚さがちょうどよかったのですね。
火の抜けがよくサクッと焼けたタルト生地は香りと歯ごたえがとてもよく、それぞれのアパレイユの特徴も現れていて、トッピングした具材との組み合わせが楽しめます。一つ一つが個性的に仕上がって、「ラ ローズ ノワール」はここまで計算しているのでしょう。
「ラ ローズ ノワール」をこう使う②
ミニバスケットのカクテルプレート
ドレッシングで和えた具材やソースを流し、サラダ感覚のアミューズに仕立てる。
──「ラ ローズ ノワールのバスケット」はどんなメニューに使いますか?
それでは2種類の「バスケット」を使って〝ミニバスケットのカクテルプレート〟をつくってみましょう。「バスケット」は生地の味自体がとてもしっかりしていて、内側がコーティングしてありますから、ドレッシングで和えた葉物を入れても泣きません。ですから盆栽みたいに葉っぱを挿したくなるんですよね。
まず、1つ目は「バスケット 黒ゴマ」に茹でた2種類のアスパラガスをシードルビネガーでマリネし、トレビスと共に黒ゴマのバスケットに盛り、金柑とペンタスを飾りました。これが〝黒ゴマのバスケット、2色のアスパラと金柑のパルテノン〟です。
同じく「バスケット 黒ゴマ」にレタスを敷き、マヨネーズソースを少量流し、茹でた才巻海老と枝豆を盛り、ブロッコリースプラウトと海老パウダーを飾ります。これが〝黒ゴマのバスケット、才巻海老と枝豆、レタスのマヨネーズソース〟です。
3つ目は「バスケット ビートルート」にスモークサーモンとピンクロッサー、スプラウトを盛り、塩漬けのレモンピールとケッパーを飾りました。これが〝ビートルートのバスケット、スモークサーモンのレモン風味〟です。
4つ目は「バスケット ビートルート」にアンディーブと生ハムスライスを盛り、イタリアンパセリとコルニッションを飾り、〝ビートルートのバスケット、生ハムとアンディーブのサラダ〟をつくりました。
時間が経っても生地に水分が移らずサクサクしていて、パーティーメニューにはとてもいいですね。この手の込んだ手づくり感が出るのが「バスケット」の魅力です。
──「バスケット」の下に敷いたシルバーのパーチメントも一緒に提供するのですか?
はい、一緒に提供します。
こうした商品には、普通はもっと薄いペラペラの紙が申し訳程度に敷いてありますから、メニューとして提供する時には捨ててしまいます。
しかし、「ラ ローズ ノワールのバスケット」のパーチメントはとてもしっかりしています。立食パーティーでもお客様が手を汚さないで持ってこられるし簡単に取り分けられます。使い手がどんなシーンで使うというのがよく分かっているのですね。こんなところにまで〝かゆい所に手が届く〟というコンセプトが反映しています。
それにしても形が綺麗ですね。1枚のワッフル生地を焼いてからバスケット型に寄せているのだと思いますが、普通は寄せる時に生地が重なって生地溜まりができます。これがシワが寄ったようになって見た目が悪くなりがちなのですが、これは美しく均等化されています。もう職人技ですね。
「ラ ローズ ノワール」をこう使う③
フリュイルージュとパプリカのソルベのドームショコラ
デザインのよさとチョコレートのおいしさで、デセールに独自の世界観を表現する。
──「ラ ローズ ノワールのチョコレートシェル」を使うと、どんなデセールができますか?
デセールは、「ホワイトユニバース ギャラクシー 小」と「ホワイトユニバース グローブ 小」の2つのチョコレートシェルで〝ギャラクシー〟、つまり自分の〝小惑星〟を1人でつくり上げました。大袈裟なテーマはさておいて、この中には何を入れてもいいのです。
今回はクレームレジェール、アーモンドのサクサクしたクランブルの生地、フレッシュのフランボワーズ、塩漬けのオリーブの実をシロップで漬け直したものを入れて、そこにフランボワーズとパプリカのソルベをのせました。
フランボワーズだけを使ったソルベだとチョコレートの中に入れたものすべてが甘さで一体化してしまいますから、フランボワーズにパプリカを加えてソルベにアクセントをつけました。クレームレジェールのふんわりとした甘さ、フランボワーズのさわやかさ、オリーブの実の甘酸っぱさ、パプリカのアクセントがきいたソルベがホワイトチョコレートの中に隠れています。フランボワーズソースをまわりに添えると、私の〝小惑星〟の完成です。
こうしたチョコレートシェルはその形よりも、まずチョコレート自体がおいしいかどうかが重要です。デザインがいいから、楽しそうだからということで使うとおかしなことになってしまいます。甘さがベタッとしただるさを感じるチョコレートは使いづらいし、いくら中身を頑張ってつくっても自分のものではなくなってしまいます。
その点、「ラ ローズ ノワールのチョコレートシェル」は基本のチョコレートがおいしく、さらにデザインもいい。たとえば、記念日のお客様への特別なデセールとしてご用意すれば、目先が変わってとても喜んでいただけると思います。
(2021年3月31日発行「素材のちから」第40号掲載記事)
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