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〈レストランデセール組み立てのヒント〉 皿の中で要素のバランスをどうとるか

文・撮影/長尾謙一 

お客様を魅了するデセールは
思いつきでは組み立てられない。
頭の中に浮かぶ複雑な要素を整理して、
それをシンプルに表現していく。
そんなトップシェフの極意をヒントとして学びたい。

〈今回の素材〉
クーべルチュール ピストールエヴォカオ(カカオバリー)
フルッタデコール(ディーエルエーナチュラルズ)
  ストロベリー/ココナッツ/パッションフルーツ
マイクリオ(カカオバリー)
ヴェルジョワーズ ブリュン(茶)(サンルイシュクル)
オランネージュ28 〜リキュールパウダー〜
ハチミツ フルールプランタ二エール/春の花々(アピディス)
(素材のちから第44号より)

主役にとっての名脇役を登場させることで、絶妙な掛け合いが生まれる。

レストラン ラフィナージュ(東京・銀座)
オーナーシェフ 高良 康之 さん

皿の中で強いもの同士を組み合わせる

デセールに取り組むにあたってまず何を考えるかと言うと、やはり季節感ですね。これはもう絶対です。季節を意識して主役を決め、それに関連する要素を頭の中に並べながら味や食感、香り、色合いなど、どこに重点をおいて組み立てるかを考えていきます。

ただ料理とちょっと違うのは、デセールの場合は〝主役の素材感を出す〟というテーマを少しだけ後においてもいいのではないかなと思っています。料理で真鯛を主役で使うのなら、飾られた菜園の中で鯛を見つけるような料理ではなく、真鯛の素材感をどんと出して真鯛を食べたという満足感をお客様に提供しなくてはなりません。しかし、デセールでは主役の主張をちょっと控えめにしてあげて、皿の中で他の要素とのバランスを楽しむように表現していいと思います。

では、どのようにそのバランスをつくるのか。私のやり方は、デセールの主役はもちろん決めますが、主役に対してもう一人名脇役を登場させます。ただの脇役ではなくて名脇役です。つまり強いもの同士を組み合わせるということです。

たとえば、一生懸命にこだわってガトーショコラをつくったとしましょう。そこに泡立てた生クリームを添えるのなら、私はコニャックやラム酒を入れて結構強いクリームをつくるでしょう。こうすれば強いもの同士がぶつかる一皿になって、その絶妙な掛け合いによってガトーショコラがいきてくると思うのです。

お客様がコースで料理を5皿召し上がって、最後にデセールを一皿召し上がるとしましょう。あくまでも考え方ですが、この5皿と一皿は対等でなくてはおもしろくありません。「コースを締めくくる最後の瞬間をお召し上がりください。」そんな心地よい緊張感を与えるのがレストランデセールだと思っています。

まだ知らない材料との出会い

こうしてデザートの組み立てを考える時に、今まで知らなかった材料に出会うととてもワクワクします。

今回は、本来捨てられてしまうカカオの果肉を使ったホールフルーツチョコレートや、オレンジリキュールのコアントローが粉末になったものなど、おもしろい材料がたくさん揃いました。それではデセールをつくってみましょう。

主役のチョコレートに「ヴェルジョワーズ ブリュン」の強さをあてる

【組み立てのヒント】
肉料理を召し上がった後の最終段階で出るデセールは、口直しではなく存在感のあるもの同士がガツンとぶつかる濃厚感が欲しい。

まず最初は〝パヴェ ド ショコラ オゥ フレーズ〟です。主役は「クーベルチュール エヴォカオ」にしました。

このチョコレートは本来なら捨てられるはずのカカオの果肉も活用してつくられたホールフルーツチョコレートです。普通のチョコレートでは感じないカカオの果肉の甘みと酸味を持っていて、とてもフルーティーです。

私が虜になったのは、この酸味です。凄く綺麗な酸味なのです。自然に育まれたカカオの香りをそのまま感じられ、もともとカカオは赤いフルーツだったのだと再認識させてくれます。

また、捨てられるはずの果肉も使うというコンセプトは、フードロスをなくそうとしている今の世の中に合ったチョコレートです。大切なことですね。

湯煎で戻した「クーベルチュール エヴォカオ」とバター。別のボウルに卵黄とグラニュー糖、もう一つ別のボウルに卵白とグラニュー糖を入れ、それぞれを泡立てないように混ぜて、これを合わせます。

半量を型の中に流し込んで、そこに「フルッタデコール」のストロベリーを加え、残りの生地をさらに流し蓋をして焼きます。「クーベルチュール エヴォカオ」の香りを出すためには熱のダメージを与えたくありませんし、フィリングした「フルッタデコール」のストロベリーのフレッシュ感も失くしたくありません。

そこで焼成は160℃のオーブンで大体15分間くらい、それぞれを泡立てずに合わせて生地をつくったのは、早く火の入る生地をつくりたかったからです。45分間焼くようなお菓子では香りは出ませんから。

目が詰まって口溶けよく焼き上がった生地からはフルーティーなカカオが香り、ストロベリーのフィリングと凄く合います。この上には口溶けのいいソースをのせたくなります。そこで、ホワイトチョコレートに牛乳を沸かして加え、細かくちぎったバターを入れて合わせます。

ここで本来はゼラチンを加えるのですが、ゼラチンで寄せたブリッとした食感ではなくソースとしてのイメージが欲しかったので、ココアバターの「マイクリオ」を使いました。狙い通り溶けるような食感がチョコレートの生地ととてもマッチします。

さて、ここに名脇役を登場させます。「ヴェルジョワーズ ブリュン」でつくったアイスクリームです。これだけ味がぎゅっと詰まったもので構築されているデザートですから、ここに合わせるアイスクリームが普通のバニラアイスでは水っぽさを感じます。「ヴェルジョワーズ ブリュン」は普通のカソナードとは違い、黒糖のような強いコクと香りを持っていてアイスクリームに深みのある個性を出してくれます。

主役のチョコレートには名脇役として「ヴェルジョワーズ ブリュン」の強さをあてる。こうして、強いもの同士がいてこそ成り立つバランスが、他の脇役たちの個性までも皿の上に際立たせるのです。

コアントローにパウダーがあるなんて知らなかった

【組み立てのヒント】
圧倒的なコアントローの香りに合わせるアイスクリームは、沸かしたハチミツの香りのピークを牛乳と合わせて使う。

次は〝コアントローのスフレとハチミツのアイスクリーム〟をつくりました。

コアントローのスフレはカスタードを炊いてそこに液体のコアントローを加えるのですが、「香りが欲しいから。」とたくさん入れると焼いた後に強いアルコール感が残ります。

その点「コアントローパウダー(オランネージュ28)」は圧倒的に香りが残りますから、たくさん入れなくても香ります。「コアントローパウダー」と同じ香りになるまで液体のコアントローを加えたら生地を緩めてしまいます。

このコアントローのスフレに合わせる名脇役がハチミツのアイスクリームです。使ったハチミツは「ハチミツ フルールプランタニエール」で、キャラメルかと思うほど濃厚な味に詰まっていて、蜜の持っている花の香りがあって本当においしいです。

鍋でハチミツを沸かすと泡立ってきて香りが出てきますから、一番香りが立った時に牛乳を加えてハチミツの香りのピークをアイスクリームに取り込みます。アイスクリームマシンにかける前にハチミツを加えてもいいですが、それでは香りが一体化しません。ですからハチミツが強すぎていがらっぽさを感じるか、牛乳の方が強すぎてハチミツが負けてしまうのです。

圧倒的なコアントローの風味をまとったスフレ対濃厚なハチミツアイス、お互いの香り同士をぶつけるデセールです。

新しい材料との出会いがアイデアの引き出しを増やしてくれる

【組み立てのヒント】
ふわりとしたエスプーマとシャリッとしたグラニテ。食感の違うココナッツをパッションフルーツが脇を固める。

このデセールの季節感は夏、主役はココナッツ、名脇役はパッションフルーツです。ココナッツは「フルッタデコール」のフルーツフィリングを使いました。これに生クリーム、グラニュー糖、ゼラチンを合わせてエスプーマにしました。

名脇役に使う「フルッタデコール」のパッションフルーツは、しっかりと種が入っていますからパリッとした食感を感じることができます。糖分が30%ほどと甘すぎず、適度に粘性があって乳化しやすい。しかもこれほど果肉感が残っているフルーツフィリングはなかなかありません。少し水でのばして粘度を調整して使いました。

ココナッツ、パッションフルーツときて、さらに同じ地域で育つものとしてコーヒーをピックアップ。エスプレッソに寒天系のゲル化剤で粘度をつけました。

全体的にやわらかいテクスチャーのものばかりなので、何かが足りない。そこで油脂分をのせたいと思ってココナッツミルクをチョイスします。ココナッツミルクは味気ないものなので、そこに香りを出すのに「フルッタデコール」のココナッツを入れてアイスクリームにします。このデザートの中に、スプーンで抜いた塊は存在感が大きすぎるので、グラニテのようなそぼろ状にほぐして上からかけました。

それにしてもまだ知らない材料がこんなにあるなんて、もっともっと挑戦したいですね。


協力/お問い合わせ:日仏商事株式会社

(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)

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