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痛いものや痒いものを書いています .https://www.instagram.com/soysoyworks/

最近の記事

やよい月明かりに、回想

卒論を提出した。 内容はスカスカで、 論理もぐちゃぐちゃなんだけれど、 とにかく提出した。 提出してしまったのだ、と思った。 その日は晴れていて、会場の7号館を出たのは16時半くらいのことだった。 午前中はプロジェクト室で、朝から卒論の参考文献欄をつくったり、文章を修正したりしていた。早く起きたのではない、寝ていないだけなのだ。 徹夜明けの霞んだ目に、朝日が眩しかったのを覚えている。 プロジェクト室で作業をしていると、昼くらいに、サブゼミの活動で後輩が集まってきた。トラ

    • 花降らす雨、近況

      四畳半の窓辺にふく風には、一日中、わかばの匂いがしていた。 春風がだんだん年老いていく、みじかいみじかい春が終わっていく。 新生活から、新の文字が薄れていくころ、どう過ごされていますか。 * とりたてて話すこともないのに、たまに日記を書きたくなる夜がある。 ボス戦の前に、ここでセーブしておこうみたいなノリである。 きょうはそんなふうに書いていけたらと思う。 新しい環境、変化の大きい季節という会話の枕詞も、 ここ一週間は、あまり聞かなくなった。そんな時期だ。 自分もあ

      • 堕落についての迷想

        ご容赦ください;この文章には一部不快な表現や話題を含みます 大学4年生をどう過ごすか、というのを、3年前の自分は想像できなかった。1年生のころに抱いていた感情、交友にも性にも、慎ましいこと清らかなことが正しいとする価値観が、ひっくり返されたこと。人間関係を広げていくなかで、今まで接してこなかったような人たち。貞操やら愛やらに対しておおらかな人種。大学生らしいといえばそうだが、当時は自分の世界にその価値観が入ってくることが苦しくて、この人はそういう考え方なんだと決めつけて距離

        • 教養と勉強について

          知識の外部化によって、教養とされるものが必要なくなっていくのではないか?という問いについて、考察したい。 「教養」はただ知識として得られれば良いものではないと感じる。「一般常識」とは多くの人々の脳内に存在する共通項で、その情報が双方に共通して存在することでコミュニケーションが円滑に行われるものだ。 教養もそれに似た性質をもつ。しかし、一般常識とやや異なる点として、知識の運用までもが「教養」に含まれるのではないか。 例えば、誰かと会話をしていてある状況を思い起こしたとき、

        やよい月明かりに、回想

          旅した夢

          一日目  この「旅」の行く末を僕は知らない。しかし出発場所にするなら、この国の首都を象徴する駅舎がいいと考えていた。この旅の、最初の見所である。 八重洲や大手町の高層オフィス群を背景に、令和の時代に似つかわしくない、それでいてレトロで重厚なレンガ造りの東京駅。その駅舎は20世紀初頭、創建時の姿を、近年復元したものだ。背景として遠くから見ても、また、その中を歩きながら、壁の温度を肌に感じる距離で見ても、細部まで練られたデザインの美しさと優雅さには舌を巻く。 朝の7時19分の

          旅した夢

          変化のおそいもの

           私は探検に身を添わしたい。  人類史で絶えず繰り返されてきたそれが、 時間と自意識を繋ぎとめるのだ。  自粛が叫ばれて一年。巣ごもりもとうに日常となり、世の中がオンライン化した。ネットの海のなかで、以前に増して、物質的な豊かさに囚われる。毎日、部屋に籠りながらも得ていた情報の何もかもが無価値に思えて、心のうちが何処までも空虚に感じた。  自分にとって、「探検」はこの一年で何度も考えさせられた現象である。自分の求める探検とは何なのか、そもそも探検することに意味があるのか

          変化のおそいもの

          Marginalia

          課題の供養 #1 まず自分の中で生じたのは柔らかさだった。ピアノの余韻がどこまでも響いていく中で新たに追加される音、繰り返されるフレーズ。低音域の揺らぎが安心感をもたらし、ゆったりとした曲調と不規則なようで均衡のとれたリズムに聞き入る。丘に寝そべり、そよ風に揺らぐ大樹の枝と木漏れ日、遠くに青い山並みが思い浮かぶ。 #2 ゆったりと時間が流れていく。挿入される声に歌詞はなく、人間かどうかさえ分からないほどに、動物的で、感情に訴えるような掠れた声音だった。落ちついた中・低音域

          Marginalia

          文明社会の水平線

          課題供養  大学一年の夏、八月の最終日。快晴の海原に、小型漁船は線を描いて進む。潮風に舞う波しぶきが、眩しく光っては、手の甲を濡らした。左舷側のブルワークに腰かけ、海の遠くの方をよぎる名前も知らない島々を眺めていると、漁船の唸りがしだいに低く穏やかになり、波が岩場にはじける音が近づいてきた。前方に見えるは、無人島。その名は太島。 「なにかひとつ無人島に持っていけるとしたら?」と聞かれた経験は、誰しもあるだろう。しかし、実際に行くとなると、サバイバル生活に躊躇してしまう。も

          文明社会の水平線

          江川海岸

          いつも通り課題の供養と黒歴史の漂白です。  「あっぢいなあ。」彼は言った。不快そうな声音だった。干潟は7月の青空を反射して、遠くのほうまで光っている。かんかん照りの夏が泳いでいた。 その日は、特に行きたい場所もなかったので、海を見たくなった。近くのローソンにレンタカーを停めたまま、防波堤に腰を下ろす。渚の潮風は温度がまばらで、湿った熱風に眉をしかめて束の間、突然に涼風がやってくる。腐ったわかめのような、磯のにおい。 別に嫌ではないが。 やけに配管が多いシルエットが海上

          江川海岸

          散歩

           眼球が張るような不快感が頭痛に伴う。  画面に相対しながら、自分の周りを覆っていた、思想や感情の淀み。それが、雨上がりの砂利道を踏みしめる音に、少しずつかき消されていく。  玄関を出て、人工的ではない光がやや強まった。当たり前として切り捨てていた情報の多さ、流れ込んでは消えていく視界に写る事物に驚かされる。  遊具のまわりに群生するシロツメクサ、こっそり寂れた玄関先に坐るシーサー。超常への畏怖や自主休講からの後ろめたさで包まれる意識が、事象に満ち溢れた世界に溶けこんでいく

          やる気のない課題

          窓にびっしりと張った露に、東雲の空が沈んでいた。玉のように光る雫が、稲妻を描いて、夜の底に溶けていった。触れた指先に残ったのは、冷たさだけだ。 はじめての一人暮らし。期待に胸を躍らせ、大学の近くに借りたアパート。新座という知らない街に二本足で立つ。春の頃は、毎日が新鮮で、明日のことを考えると心が躍った。あれから、もうすこしで一年。未知にあふれていた新生活も、待ち遠しかった明日も、どこかに置いてきてしまった。つつじ、紫陽花、朝顔、向日葵と、花の旬が移ろうのを眺めながら、日に日に

          やる気のない課題

          雨と馬鈴薯

          課題の供養(未完) (略) 大粒の雨が、アスファルトを叩いて、家路につく部活帰りのローファーに、染みる。大皿をひっくり返した、初夏の風物詩。雨が降ると、この味を思い出す。 軒先を滴る、六月いちばんの降水。傘もないまま、夕立にふられて、命からがらそこに逃げ込んだ。激しい雨音が、ガラス窓の向こうに聞こえる。 「ああ、もう。今日から夏服だったのに、びっしょりだ。」 「予報では降らないはずだったけどねえ。あーあ。」 「ほら、こんなに。」 「散々だね。」 彼は、押し入れから今

          雨と馬鈴薯

          立教新座チャペル

          課題の供養。 喘ぐように、蝶番がぎしりと鳴った。 光のはしごが、停滞した空間に射した。 歩く。足音を立ててはいけない。 整列した木製の長椅子たちの、ちょうど真ん中に目を付け、すわる。 前方の壇上には、質素な十字架。 頭上を見上げれば、がらんとして虚ろな空間。 ステンドグラスの窓から、うららかな陽の光が、しんしんと、うす暗い静寂を、鮮やかに染める。 時計が進むのを忘れてしまうほどの無音に、呼吸も楽ではない。 不意に、背後で扉が動く音がした。 ギィ…、コツコツ…。

          立教新座チャペル

          インドいきたい

          実は、インドに行ったことはありません。課題の供養。 成田を発って三日目。教科書のなかの、知らない国。 すべてが新鮮で、耳も目も、食傷気味だ。 サリーをまとった集団とすれ違う。 髪が濡れている。身を清めてきたのだろうか。 手元の洗濯物は、水気が多いらしい。 東京は、もう夜か。今日の夕焼けは何色だったかな。 ひとり、二本足でこの地面にたつ足元を見た。 俯いたまま、郷愁にふけっていると、カレーと人間の香りに交じって、 突然、水の匂いがした。やがて、喧噪がしだいに大

          インドいきたい

          秩父道中

          『この電車は、ワンマン運転です。』 ガタゴトと進む列車の影が、森の地面を泳ぐ。 深い谷底の渓流に移ったそれを眺めていると、急に真っ暗になった。 一年半ぶり。 ふと、原風景が脳裏にかすむ。 雨上がりの谷から立ち昇る、雲霧の柱。 視界いっぱいに広がる青々とした水田。 入道雲を見上げながら、まっさらな紙に引かれた直線に、貸出自転車を漕いでいく。 夏の日の冒険、懐かしさが心を満たす。 私は再び、桃源郷を訪れようとしていた。 コオオと音がして、闇の中を車窓の照明のみが駆ける。警笛

          秩父道中