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『ツバキ文具店』 『キラキラ共和国』

『ツバキ文具店』 『キラキラ共和国』 小川 糸 著 (幻冬舎)

ああ~…あったかいお話だったなあ…。
こういうお話、やっぱり好きだなあ。
というのが、読んでいる時も読後も心に浮かんだ率直な感想。


鎌倉にある文具店。
ポッポちゃん(名前が鳩子なので、そう呼ばれている)は、厳しく育てられ若い時に反抗もしたが亡くなった祖母と同じ道を歩むことになった。
でもなりわいのほとんどは、文房具を売った収入よりも先代(祖母)から受け継がれている“代書屋”という、客の代わりに手紙を書く仕事による。
そしてその仕事にさまざまな依頼が飛び込んでくる。
 
「知り合いが飼っていた、亡くなったお猿さんへのお悔やみの手紙」を頼んできた“マダムカルピス”や、
「遠くに嫁いだ昔の彼女に、筆無精だった自戒を込めて、何気ない内容を女文字で」という相手の伴侶に疑われることのない“薫という名の男性”、
「借金を請う無礼な相手に、断りの手紙」を頼んだ“男爵”などなど…。
 
聞けばなるほど、自分で書くにはややハードルが高いものばかり。
 
プロの代書屋(ポッポちゃん)は、依頼人の雰囲気や差出人のイメージ、手紙の内容などに応じて使用する紙の質やボールペンや筆ペンなど筆記具を変えたり、インクの色や、文字のフォントや筆致、切手の絵柄、時には封筒に忍ばせる香りにまで気を配る。
 
もちろん依頼人の代わりと言っても、「代わりに書きました」というようなものではなく本当に依頼人が書いたように仕上げるのがプロなのだ。
文章の内容もいい加減なものではなく気が利いてて、丁寧なときもあれば、わざとぶっきらぼうに書いてみせたり。
 
なんだか読んでいるうちに、自分も紙とペンとインクを選んで手紙を書きたくなる。
 
それから、ポッポちゃんの周りの人々がまたいい味を出している。
依頼人の中にも代書を請け負ったことで親しくなった人もいれば、お隣さんのバーバラ婦人などどこにでもいそうで、でもなかなかそういう人とは出会えないなあと羨ましくなる。
その周りの人たちとの会話もほっこりするもののひとつ。
 
また四季を通じて鎌倉の街での日常を営む様子が描かれていて、そこには初詣や七草粥、夏越の祓など丁寧に暮らしの中に取り入れられている。
それを鎌倉が持つ独特の空気感とともに綴られるので、ゆるり感が半端ない。
私はその土地勘がないので詳しく知らないが、おそらく鎌倉の街に実際にあると思われる飲食店やそこの名物なども出てきて、ほっこり・まったりを助長する。
 
それだけでなくポッポちゃんが毎日行う、一日の始まりにやる掃除やお茶を入れるなどの普通すぎる作業が、忙しくしているはずなのに優雅に思えて真似したくなる。
 
そんなゆったりした情景に水を差すのが、実の母親らしき人物の登場である。
身勝手で子育てを放棄し、ポッポちゃんの祖母に任せっきりで姿を消してしまっていたのに、突然登場してきて不穏な空気を感じさせるのだ。
しかしそれは逆に嫌いだった祖母のことを見直し、大切な存在になっていく感情を強調するためなのかなと思われた。
 

とにかく手書きの手紙の大切さを再認識させられた。
最近は手紙を書くという行為があまりできていない。
それでも便せんや封筒などの素敵なものを見つけると、つい買ってしまうほど手紙自体は好きだから、親しい人へ気軽にそして丁寧に書きたいと思った。
 
ここからかなりのネタバレあり、続編のことを少しではあるが要注意である。
 


『キラキラ共和国』は『ツバキ文具店』の続編。
『ツバキ文具店』の後半に出てくるミツローさんという男性と結婚したあとの物語。
ミツローさんも素敵な人で、とても優しく思いやりがある。
全てはミツローさんの娘、QPちゃんがいたための結婚だ。
まさしくキューピッドなのだ。
家族が三人になった続編も、ほっこりして変わらず楽しめる。

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