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「初めて大滝を落ちた勇敢な女性~『ナイアガラの女王』~」【YA80】

『ナイアガラの女王』 クリス・ヴァン オールズバーグ 絵と文 
江國 香織 訳 (河出書房新社 )
                           2015.11.18読了

今回は絵本の紹介です。
絵本『おじいさんの旅』の紹介文でも書いたのですが、

この絵本ももちろん子ども向けなのですけど、中高生や大人が読んでも「えっ!?初めて知ったんだけど…」というような内容のものなら、子ども向けという括りをあえてしなくてもいいのかなと、こちらでとりあえずYA本(子どもと大人の合間でもあることですし)として勝手に紹介することにしました。

カナダ東部にある有名な滝・ナイアガラを、樽の中に入って流れ落ちるという離れ業をやってのけた、最初の人物のおはなしです。
最初、「そんな馬鹿な…」と突飛で危険極まりないし、ありえないと思い読んでみたらそのまんまの事実でした。
 
その人物というのが屈強な男性というわけではなく、女性、それも62歳の老齢の女性だというのだから増々もって驚きです。
 
おまけに、とりわけスポーツをしていたというのでもなく、お作法とダンスの教室の指導をしていただけという女性なのです。
 
なぜこういう突飛なことを思いつき実行したのかというと、何の事はない、実に単純な理由でした。
 
その女性・アニーのお作法の教室の生徒が次第に誰もいなくなって、食べていくことに不安になってきました。
そしてどうしたらお金が手に入るのかを考えていくうちに、みんなが驚くようなことをすれば、いろんな人が集まってきてそこで商売になるんじゃないかしら?という結論に行き当たりました。
彼女はこの思い付きに本気になり、すっかり執着するようになったのでした。
 
みんなが見てあっと驚くようなことは何か?
あの雄大なナイアガラの滝の流れといっしょに落ちて行ったら、それはそれは注目の的でしょう。
だって誰一人として、そんなことをやってのけた人はいないのですから。
 
ではどうやって滝を下ったらいいか?
ひとが一人入る大きさの、スムーズに流れにのっていけるモノ、それは樽しかないと考えつきます。
そして樽の中の設計も考えて、職人に作ってもらったのでした。
 
そしてこの妙案を実際に見世物(興行)としてマネージメントしてくれる人物も募りました。
この辺りも、用意周到な彼女です。
お金儲けのためには、いろんな人物が集まってくるものなのです。
 
後に、彼女はそのため何度も失敗も重ねるのですが、肝心の本番の滝落ちは、なんと最初から成功してしまうのでした。
 
でもせっかくの大仕事も、彼女たちの思惑はそうそう当たらず、そんなに上手いこといくものではなかったらしいのです。
 
滝を流れ落ちた樽の中にいた偉大なる人物が、まさかのあまり見栄えのぱっとしない老女だと知ると、観客はみな期待はずれの表情を浮かべるのです。
 
そしてこの大仕事の事実を持って、各地を回り歩いても、興行的には全く成功しなかったのでした。
さらには、マネージメントしてくれた人物に、何度も、集めたお金と樽を持ち逃げされるという不運に見舞われてしまいます。
 
最初の計画(思惑)とは全く違った結果に終わった彼女の功績は、「ナイアガラを自力で流れ落ちた最初の人物」という、変えられない事実が伝説となって今も残っているというだけでした。

この絵本を描いたのは、あの『ジュマンジ』や「急行『北極号』」でも有名なオールズバーグです。
他にもたくさんの絵本を描いていますが、どの絵本もファンタジー色が強く、そしてやや独特の世界観のものが多いです。
 
しかし今回の絵本は珍しく実際に存在した女性の、実際にやった偉業を取り上げました。
でも、その内容は大々的な成功物語ではなく、「アレ?」という微妙な印象のオチで、やはり一筋縄ではいかない内容でもありますね。
 
それにしてもちょっぴりほろ苦いおはなしだったのでした。
桃の節句に女性を主人公にしたお話の割には、ややシニカルな感じで終ってしまいましたが、こういうのも人生。ただ相当勇気がある女性であることには間違いありません。
やはり子ども向けというよりも、YA世代くらいがちょうどいいかなと思ってしまいました。


急行「北極号」


ジュマンジ


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