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「こんな物語、読んだことなかった!ここまで切ないエンディングが他にあるかしら~『エヴリデイ』~」【YA⑯】

『エヴリデイ』 デイヴィッド・レヴィサン 著 (小峰書店)
                          2018.10.26読了
 
とても不思議だけれど心に深く残る物語でした。
気に入りすぎて、職場でお勧めをかなりしていました。
(元の職場・職業についてはまた、いずれ…)


主人公は実態がない人物・A。
男性なのか女性なのかさえよくわかりません。
Aは毎日朝目が覚めると、違う人物の中にいるのです。
魂がその人体を乗っ取る形で、一日を過ごします。
そして明日はまた別の人物となるのです。
 
そこには一定のルールがあって、乗っ取る体は同じ16歳の人間ばかりです。
住んでいる地域もある程度狭い中での、人体移動。
そして男女は問いませんし、同じ人体に二回以上入り込むことはいっさいありません。
 
記憶と事実は変えられず、その人物の脳から引っ張ってくることはできますが、感情までは支配できません。
しかし乗っ取られた方の人間は、乗っ取られた日の行動はほとんど記憶していないのです。
Aが記憶していて欲しい事柄だけは、なんとなく覚えているらしいという都合のよさも…。
 
…というルールの中で、Aは物心ついたときからずっと誰かの体を借りて生き続けていました。
幼い頃は、毎日両親や友人が違ったり、住む場所も違うなんてことをあまり気にしていませんでした。
他のみんなも自分と同じだとAは思っていたのですが、さすがに成長していくにつれ、まわりのみんなが次の日も同じ人物で過ごせることに気づいたのです。
 
そこに気づいたときは苦悩の連続でしたが、次第にそんな生活にも慣れてきたAでした。
 
 
ところがジャスティンという男の子に憑依したときから、Aに新たな苦悩が生まれてしまうのです。
彼が付き合っている女の子・リアノンにAは恋をしてしまったのです。
 
Aは一度見ただけで、ジャスティンがリアノンのことを大事にしていないことに気づきました。
そして授業をエスケープしたふたりは、海岸へ行き、素敵な時間を過ごします。
いつもよりやさしいジャスティンのことをいぶかしがるリアノンでしたが、大好きという感情のほうが勝り、ずっとこういう関係でありたいと願うのみでした。
 
しかしAは知っているのです。
明日になったら、ジャスティンの体は自分のものではなくなり、そしてまたジャスティンはいつものやさしくない彼に戻ることを。
 
リアノンに悲しい思いをさせたくないAは、他の人物に憑依してからも、ネットのアドレスを使ってリアノンと連絡を交わすようになります。
 
会いたい気持ちは毎日募り、ややオタクな男の子・ネイサンの体のときに、夜のパーティにリアノンを呼び出し、楽しい時間を過ごしますが、この一つの企てが後々騒動を巻き起こすことになるのです。
 
 
 
ときには弟を亡くし悲しくて飲酒に走り事故を起こした女の子、精神が参ってても親に助けを求められない女の子、双子の男の子たち、巨大肥満の男の子、ヘビメタ好きのワイルドな男の子、LGBTの女の子や男の子…
などなど。
様々な境遇の同い年の子たちの体に入り、その境遇を体験せざるを得ないA。
 
それでも大好きなリアノンのために、誰とも知らない人物の一日を勝手に借りて、本来宿主の当人は行かないような場所に行ったりします。
 
時間をかけてAの存在を教えて慣れてもらうために、リアノンの元へとひた走るA。
時には遠く住む場所から2時間でも4時間でもかけてでも、リアノンと会うことを楽しみにする中、次第にリアノン自身もAの存在と状況をのみ込んでいき、ついにはこころを通わせるまでになります。
 
しかしAの実体が一日しかもたず、毎日誰かの体と入れ替わることにやはり心が折れていくリアノン。
でも心はAを求めるというもどかしい状態の中、ふたりが、そしてAが出した結論は、とても切ないけど温かい思いやりのある決断でした。
 
自己犠牲にも通じる、こういう愛情もあるのかなぁ。
 
 
しかしながら、現実的に考えればものすごい強靭な精神の持ち主じゃないと、特に幼い頃に両親が毎日違うってすごく衝撃的なことだと思うのです。
心の拠り所となる親が、毎日違うだなんて、かなりきついのではないかしら。
本人は、体は違っても心は同じ魂の人物だから…。
まあ、ある程度の時期が来るまでそれが当たり前のことと認識していたから、結局大丈夫なのでしょうけど。
 
Aはリアノンと、どうにかして続きたいという思いが強いです。
そんな気持ちになったのは生涯初めてだから。
でもリアノンにしたら、毎日好きな人の見た目が違うって、そうそう慣れそうにないと思います。
自分がストレートの女子だったら、男性だけならまだしも、たまに女の子になって現れるAを、すんなり受け入れられないのが本音ですよね。
 
さすがに巨体130Kgある男の子には、ちょっと引いちゃったリアノンには同情します。
差別するわけではないけど、生理的に無理っていう人はだれにでもあるだろうし…。
 
ただこんな設定の物語は初めてでした。
ありえない状況の主人公とその彼女に、同情と共感と切なさを覚えた、ある意味人間の究極の愛を感じた物語です。みなさんもドキドキを感じてみてください。
 
それから単行本の表紙に描かれた人々の絵。
その顔がどの登場人物なのか、読んでいくうちに判別できるから面白いです。
それを当てるのも楽しいですよ。


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