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北フランスの海・ノスタルジー

 フランス。特にノスタルジーという意味において、フランスについて書くことは、私にとっていつかやらなければならないことにも思える。その膨大な想いは、まだ言葉にもされずに私の中に亡霊のように漂っている。だから少しずつ思い出すままに、順不同に、書いていくつもりだ。

 初めてあの北フランスの街に行ったのは冬の始まり。暗い海だった。波の音とカモメの鳴き声、いつも曇天か小雨の降る海辺の町だった。この海が、かのクロード・モネの手になる名画を生み出したのにも頷ける。
 そして私にとっては、自分が人生の中でもっとも暗い時期だと思っていた頃に暮らすのにはもしかしたらふさわしい場所ではあった。

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ゆっくりと人が往く。俯いたままに・・・

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 通り過ぎる船。無機質な船体がグレーの空と海にぴったりだ。
 この海岸はかつて、「ノルマンディー上陸作戦」として知られる激しい戦場となった場所でもある。その戦災のために街は壊滅的になり、近代建築ではそこそこ知られるものもあるが、古い建物はおよそ残ってはいない。それ故か、ある知り合いのフランス人の写真家は、この街はフランスでもっとも醜い街だと言った。そして文化の希薄な街であると言われることもある。


 あるとき、宮崎駿の「借り暮らしのアリエッティ」のコマーシャルを見た。当時映画の前宣伝だった。その映像からミンミンゼミの声が聞こえた。

 蝉の声。それを聞いた瞬間、あのうだるような日本の夏の暑さ、汗の感覚、煌めくような夏のイメージが突然襲ってきて、あまりにも懐かしく、あまりにも恋しくなった。帰りたい。
しかし、そこにはカモメの声、曇った空、冷たい海に押し寄せる白波があるだけだった。

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(撮影2009年)

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