もう二度と食べたくないコロッケ

母が死ぬほど嫌いだ。物心ついたころには近づいてほしくなかったし、手をつながれようものなら振り払っていた。友人たちの“お母さん”とは全く違うモンスターがなぜ自分の母親なんだろうと思ったが、不運でハズレくじを引いてしまったのだと思うようにしている。

母を言い表すとすれば、「人の心が全くわからない」「正当性のない自分の異常なこだわりを他人に強要する」「顔で優遇されてきたことを自分の性格が良いからだと思い込んでいる」「“嫌なもの”に対する嫌悪感が強すぎて何年でも同じことを主張し続ける」「恩着せがましてく恨みがましい」「こちらが意図したことが正しく伝わらず突然激高する」「1年で怒らない日がない」「自分ができること=他人ができて当たり前なので、ミスすると発狂したように怒り狂う」「子どもに対して気に入らないことがあると、それとは別の件でペナルティを科して罰を与える」「いうことを聞かない子どもを父に殴らせる」「ありとあらゆる言葉の暴力で自尊心を踏みにじる」「虐待当時のことを問いただしても『分からない』と答えて責任逃れする」。

そんな性格だから、あちこちでトラブルを起こしてかなり嫌われているけれど、本人はまず前提として「自分は好かれるタイプの人間」だと強固に思い込んでいるため全く気付かない。

加えて恐怖を感じたのは、母から見た世界が母以外の人間から見た世界とは180度違うこと。

母は楽しく飲み会に参加したつもりだったが、周りからすると延々と文句をまくしたてて他人が嫌がるような指摘や話題で喜んだりするため、非常に迷惑な人だと認識されていたことが多かった。酒癖も良くはなく、酔うと発言が小学生のようになり声の音も眉をひそめられるほど大きくなる。普通の人なら「あ、これは控えたほうがいいな」と自省するところ、自分を全く客観視できないため延々と醜態を晒し続ける。

今までおかしな人にはさんざん遭遇してきたが、母が人生のベスト・オブ・狂人だ。人格がおかしいだけでなく、性格も非常に悪い。でも本人はそんなこと微塵たりとも思っていない。

母はたぶん天罰なのだろうけど(スピリチュアルは好きではないが、そうとしか思えない)ほぼ治らない慢性的な病にかかっている。家族からも周りからも嫌われているため当初、母には誰も協力しなかった。しかし病気を盾に周りを強制的に従わせることに成功しているが、孤立するのは時間の問題だと思う。

そんな母とようやく縁が切れそうになって、穏やかに暮らせている。正直、会わなくなって自分の時間がゆっくり過ぎていくことを実感している。切れやすい歪んだ性格は遺伝するのではなく感染するのだな、と痛感した。

かわいらしく裕福な家に生まれ、両親から溺愛されて成績も優秀で難関の資格もいくつも得て、稼ぎの良い男と結婚した母。そして出産して思うようにいかない子育てで元来の切れやすく深く考えることができない性格が露呈され毒親となり、子どもを延々と虐待したあげく1ミリたりとも反省する心はなく、破滅に向かって贅沢な暮らしを続けている母。たぶん終わりはもうそこまで近づいている。

持ち前の性格が悪すぎたのだと思う。普通なら穏やかで他人を思いやる優しい人に育つような生育環境で、あそこまでおかしな人間に育ったのはたぶん、元来の性格がねじ曲がっているから。弱者を見下しせせら笑す姿をたまに見せる母。それを悪しきことだとも思っていない。彼らは「そう言われて当然」だと言い放つ母。自分が仕事で接する人たちの中にもそういう人がいるはずなのに、彼らを侮蔑して見下して同じ人間だと扱わない母。

母に反論したら「頭がおかしい」と何万回も叫ばれ罵倒され続けたので、めでたく頭がおかしい人間に育ちました。嬉しい?

そんな母の得意料理であるコロッケは、すごく美味しかったけれどもう二度と食べたくないのです。母に対する思いでまず沸き起こるのは気持ちの悪さで、次に憎しみ。本で読む凶悪な犯罪者の母たちが母に本当にそっくりで、どうして自分が犯罪に走らなかったのかすごく不思議に思うけど、たぶんそれは無差別で人を殺したくないからだし、誰かを殺めて自分の自由が奪われるのが嫌なだけだからだと思う。

そろそろ母が痛い目を見る日が近いと思う。別に自分が何かを仕掛けたわけでもないし、何かを知っているわけでもない。でも何となく、あのひとが生きてきた人生を見るにそろそろなんだろうなと思っている。

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