日本で外国人起業ビザが定着しない本当の理由

最近、日本経済新聞に掲載されたこちらの記事が注目を集めました。この記事では、外国人起業家に対するビザの条件緩和が画期的な取り組みとして紹介されています。


しかし、実際には既に外国人起業家を支援するための類似した制度が存在しており、最長1.5年間、学生であれば2年間の起業準備のためのビザが発行されていることをご存じでしょうか?

実は、この類の外国人起業促進、経営・管理ビザ取得緩和に関するニュースは、これまでも時折発表されては、定着することなく忘れられてきた経緯があります。

既存の制度については、残念ながら、これまでのところ目立った成果は見られていません。上記の日経新聞記事でも触れられていますが、国家戦略特区の創業外国人材事業は2015年の開始以来、2023年4月まで380人の利用実績にとどまっていると記載されています。各自治体が専門家を常駐させた相談窓口を設けていること等を考えると、非常に残念な状況と言わざるを得ません。

参考までに、既存の制度の概要は以下の通りです。
①「外国人起業活動促進事業」
外国人 起業家が「企業準備活動計画書」を経済産業省の認定を受けた自治体に提出する(現時点で18の自治体)。当該 自治体による審査の結果、1年以内に経営管理ビザの要件を満たす 見込みがあると判断した外国人起業家に対して、「確認証明書」を交付する。
 外国人起業家は入管に自治体から発行された「確認証明書」を添えて 必要書類を提出し 審査を受けることで 最長 1年間 (6ヶ月後に更新 必要 )の在留資格 「特定活動」(特定活動告示第44号)の許可を受ける。 外国人 起業家は特定活動の在留期間中に経営管理の申請に必要な要件(事業所の設置や、会社の設立登記等)を満たし、経営・管理の在留資格を入管に申請することで日本での経営活動が可能となる。

②「国家戦略特区の創業外国人材事業」
外国人 起業家が「創業活動確認」の申請(ビジネスプランの提出)を国家戦略特区に指定された自治体に行う。当該 自治体による審査の結果、事業計画の内容が制度主旨と合致しており、6か月以内に経営管理ビザの要件を満たす 見込みがあると判断した外国人起業家に対して、「創業活動確認証明書」を交付する。外国人起業家は入管に自治体から発行された「確認証明書」を添えて 必要書類を提出し 審査を受けることで6か月間の在留資格 「経営・管理」の許可を受ける。
外国人 起業家は「経営・管理」(6月)の在留期間中に経営管理の申請に必要な要件(事業所の設置や、会社の設立登記等)を満たした後、経営・管理の在留資格を入管に申請することで日本での経営活動が可能となる。

③未来創造人材制度(J-find)
優秀な海外大学等を卒業等した方が、本邦において「就職活動」又は「起業準備活動」を行う場合、在留資格「特定活動」(未来創造人材)を付与され、最長2年間の在留が可能となる

今回の政府の取り組みでは、①と②の事業が統合されることになると記事では書かれています。


起業家誘致の成果が伸び悩んでいる背景
当該制度の根本的な目的は、単純に経営・管理ビザの取得を容易にすることではなく、日本の産業の国際的な競争力を向上させ、国際経済活動の拠点としての地位を確立することにあります。

従って、どのような業種であっても良いわけではなく、日本経済の成長に寄与する事業である必要があります。このため、起業準備ビザを申請する際には、「具体的にどのような事業を展開しようとしているのか」に関する事前評価が不可欠です。

このプロセスには、詳細な事業計画の提出や、起業準備期間中の自治体への進捗報告が求められ、結果として、事業計画の承認(自治体による認定)を得る過程が複雑で時間を要し、外国人にとっては大きな障壁となっています。

さらに、提出先が自治体と入国管理局の2つの異なる機関であるため、外国人にとっては理解しにくい要因ともなっています。これが、起業準備ビザがこれまで広く利用されてこなかった背景にある理由です。

今年6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針 2023 について(「骨太の方針」)では、「経済外国人起業活動促進事業(スタートアップビザ)について自 治体に代わって国認定のベンチャーキャピタル等が起業準備活動計画についての確認手続を行う仕組みの本年内の創設」が行われることが記載されています。

起業準備ビザは経営・管理ビザの取得を容易にするために設けられたものの、起業準備ビザ自体の取得ハードルが非常に高いという矛盾が存在します。ただでさえ言語の壁や商慣習の違いがある日本において、外国人起業家が夢見るビジネスの開始を、最小限の負担で実現できるようなビザ取得の制度を検討することが望まれます。
単なる現行スキームのリパッケージに留まらない本質的な制度見直しが行われることを期待します。


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