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【経営事典②】戦略とは(前編)

0.はじめに

突然ですが、
「あなたの会社の戦略を教えてください」
と言われたら何と答えますか?

A社「わが社の戦略は差別化集中戦略です」

B社「PPMにより、花形事業にリソースを集中して
  投下するポートフォリオ戦略をとっています」

C社「トヨタ生産方式をベースに生産能力を向上し
  規模の利益によりコスト低減を図ります」

いずれも模範解答のように見えますが、
『戦略』という言葉の定義はA,B,C社で異なります。

これから、『戦略』とは何を指しているのかを
明確にしたうえで、企業経営との関係性を
考えてみたいと思います。

1.戦略の定義

戦略のレイヤー

中小企業診断士1次試験の科目である
「企業経営理論」のテキストでは、
戦略について以下の記載があります。

経営戦略は、階層別に
企業戦略、事業戦略、機能戦略に分かれる。

・企業戦略:
 新規企業の参入や既存企業の撤退の決定、
 経営資源の配分などを決める全社的戦略

・事業戦略:
 各事業での具体的な事業活動を行うための戦略

・機能戦略:
 各機能の生産性を高めるための戦略

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以上の定義に従うと、
冒頭で記載した3社はそれぞれ
『戦略』と聞いて以下を
思い浮かべたようです。

A社:事業戦略
B社:企業戦略
C社:機能戦略/事業戦略

一橋大学教授 楠木健氏の著書
『ストーリーとしての競争戦略』
の中での戦略に関する記載も見てみます。

戦略には異なる二つのレベルがあります。
一つは競争戦略、もう一つは全社戦略です。
ここでのポイントは両社を区別して考える
ということです。
競争戦略とは、特定の業界、つまり競争の土台が
決まっていて、ある企業の特定の事業がその競争の
土台で他社とどのように向き合うのかにかかわる
戦略です。
〔中略〕
特定事業の競争戦略と別の次元にあるのが
全社戦略です。
多くの企業は複数の事業分野を持っています。
われわれはどのような事業集合であるべきか。
複数の事業のバランスをどのように構築して、
全社的に最適な事業ポートフォリオにするか。
そのために、どの事業に最も優先的に経営資源を
振り向けるべきか。
こうしたことを考えるのが全社戦略です。

第2章 競争戦略の基本論理/ストーリーとしての競争戦略/楠木健

こちらでは、機能戦略についての記載は
ありませんが、
全社戦略=企業戦略、
事業戦略=競争戦略
に該当します。
図で整理するとこんな感じです。

戦略の定義

事業が多角化した大企業では
どの事業に優先的に経営資源を配分すべきか
という企業戦略を立てる必要がありますが、
中小企業においては1つの事業のみを
営んでいる場合が多く、
その場合は
『戦略』 = 事業戦略・機能戦略
ということになります。

戦略立案の目的

これまでに見てきた
企業戦略、事業戦略、機能戦略の
いずれも、戦略立案の目的は
「利益を獲得する」ことです。

株式会社である以上、利益の
獲得を目指すことは疑いようも
なく当然のことです。

ですが、企業の目的は
利益を獲得することだけなの
でしょうか。

個人に置き換えて考えると、
人生の目的はお金を稼ぐことではない
はずです。
お金を使って、実現したいことが
あるからみんな頑張って働いているのでは
ないでしょうか。

人生の目的が人それぞれあるように
企業にもそれぞれの目的があります。

目的を達成するための手段が
『戦略』なのだとしたら、
これまで見てきた3つの戦略だけでは
何かが欠けているように思います。

経営戦略コンサルティングファーム
コーポレイトディレクションの代表を務めた
石井光太郎氏の著書『会社という迷宮』の
中に、企業の目的に関する記載がありますので、
少し長いですが紹介します。

人間にとって身体の健康は大変重要に違いないが、
しかし、健康が人の人生ではない。
人の人生から見れば、健康は一つの要件に
過ぎないであろう。
「会社」も同じである。
人が「何のために生きるのか」
「人生において何をなすか」を考えるように、
それぞれの「会社」にも
「何のために生まれたのか」
「何をめざしているのか」という
存在理由がある。
〔中略〕
昨今のコロナ禍の日本でも明白になったが、
目の前の命を延ばす医者の論理が社会を
動かしたとき、ゾウの尻尾を掴んで胴体を
振り回すような、とんでもない本末転倒が起きる。
その根本的原因は、医者やコンサルタントの
論理では、「人」にも「会社」にもそれぞれ
「命より大事なものがある」のだ、
という当たり前のことが理解できないことにある。
〔中略〕
そして、その思考回路が転移してしまった
「経営者」の脳内では、
「自らが志と信念を以て取り組む事業を、
儲かるようにすること」
ではなく、「なんでもよいので儲かる事業を
選んできて取り組むこと」
こそが経営なのだと思い込むことになり、
それに疑問を持つことさえ、
今や理解の範疇外となってしまったようである。

序説 「迷宮」の扉/会社という迷宮/石井幸太郎

企業にとって、利益を獲得することは
一つの要件に過ぎません。

であれば、これまで見てきた『戦略』より
上のレイヤーに、
企業の目的を達成するための構想
が必要ではないかと思います。
自分なりに、『企業構想』という言葉を使って
これまでの考えを整理してみたのが
以下の図です。

戦略の定義(筆者の考え)

『パーパス』についての
記事は以下を参照ください。


自分なりの整理

『戦略』についての一般的な定義から
はじまり、『企業構想』という
オリジナルな言葉まで持ち出してしまい
ましたが、やはり、言葉の定義よりも

「企業の目的は何なのか」、
「目的を達成するためにはどうすればよいか」
「長期的に企業を存続させる=利益を
 獲得するためには何をすればよいか」

と、ブレークダウンして考えることが
大切なのだと思います。

目的の整理もなしに、いきなり
事業ポートフォリオをどうすべきか、
競合他社と差別化して競争に勝つ
にはどうすべきか
と考えてみても、いい戦略はでてこない
と思います。

企業の目的を達成するための構想から
機能戦略のレイヤーまでが
一つのストーリーとして結びついている
ことが、『いい戦略』の条件に
なるのではないでしょうか。

2.おわりに

この後、独立診断士となるための自分の
戦略、及び実際の企業の事例を取り上げ
ようと思ったのですが、またボリュームが
多くなってしまったので続きは後編で
記載したいと思います。

また、競争戦略については
別の回で取り上げるつもりです。

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