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「お酢は健康によい」 を紐解く

お酢は健康によい、という話はよく聞きますが、なぜ健康によいのか、どんなお酢が良いのか、そんな裏付けを説明された経験は少ないのではないでしょうか。

私も先日説明しきれないことがあり、ちょうどよい機会と思い、こちらにまとめ直してみました。

どんなお酢を選べば体に良いのか、そんなカジュアルな疑問に応えたかったのですが調べるうちに詳細化されてしまいました。
今回はマニアックに特化して、カジュアルなお話は回をわけて送りたいと思います。


お酢の基本

お酢は古くから世界中で親しまれている調味料で、その利用はアルコールとともに始まったと言われています。
それもそのはずで、お酢はお酒から作られます。
世界には様々なタイプのお酢がありますが、どのお酢もまずアルコール発酵を行ってエタノールを作り、そのエタノールを酢酸発酵させてお酢にします。
例えば柿酢のようなフルーツビネガーも、まず酵母によるアルコール発酵が行われ、そのアルコールを餌に酢酸発酵が行われてお酢ができあがります。

日本でよく使われるのは米酢、黒酢、りんご酢など。
他にも様々なお酢があり、変わったところではコンブチャもお酢に分類できるでしょう。

お酢は酸度で強さが表され、4-5% のものが食酢として親しまれています。
酸度は液体に含まれる水素イオンによって決まります。
お酢の主成分は酢酸ですが、それ以外にもグルコン酸、クエン酸、琥珀酸など様々な酸がお酢を作り上げています。

お酢の製法も語りだすと面白いのですが、長くなるので別の機会に譲りますが、ひとつだけ。
もしお酢をあまり選んで買ったことがないという方は、静置発酵のお酢を試してみてください。
お酢の元となるお酒の出来、酢酸菌のタイプ、様々な要素がお酢の味を決めますが、旨いお酢は大体が静置発酵で作られています。
静置発酵のお酢は品揃えのよいスーパー、デパートなどで比較的安価に手に入ります。
おすすめの味わい方は餃子です。静置発酵のお酢に胡椒。それだけで餃子の格が爆上がりします。

我が家のお酢。数えると 10本以上のお酢があった

お酢の健康効果

さて本題です。
お酢の健康効果を確かめてみましょう。

ざっと調べると、ダイエットによい、疲労回復効果がある、血糖値の上昇を穏やかにする、胃腸の働きを整える等々、色々なものが見つけられます。

論拠としては動物実験や被験者を集めた実験が多いようですが、酢酸の生理機能などより具体的に言及した論文も見かけます。
以下に個々の健康効果をまとめてみたいと思います。

脂肪蓄積を抑制する

お酢の主成分である酢酸には脂肪の蓄積を抑制する効果があります。
少し深堀りしてみましょう。

脂肪は人間にとって重要なエネルギーを保存する重要な役割を果たしています。
人間の歴史を振り返ればほんの 100, 200年前までは太り過ぎより食料がないことが課題であったというのは想像に難くないと思います。
そのため糖が十分に接種できたときに脂肪合成酵素が働いて脂肪が生成、蓄積され、不足したときは脂肪を分解して糖に戻す機構が人間には備わっています。

酢酸はそのエネルギー消費モードと蓄積モードのオンオフを行う AMP キナーゼという調整因子に作用します。
酢酸を摂ることで酢酸の代謝に応じて AMP キナーゼが活性化され、脂肪合成酵素の生成を抑えてくれます。
また酢酸は脂肪分解酵素の活動を促進して、結果として脂肪蓄積の抑制を行います。

このあたりは動物実験でも効果が観測されています。
またタイミングよく血中の酢酸濃度を上げないといけないかというとそうではなく、酢酸を恒常的に接種する実験でも脂肪蓄積が抑制される結果が出ており、生活の中に無理なく酢酸を取り入れることで効果は得られそうです。

但し肝臓が糖を脂肪に変換する代謝能力は大きなものではないとする論文もあり、代謝機能に上限があるのは確かです。
脂肪が気になる場合は脂質自体の接種を抑えるのが最短ではあります。

ちなみに私は料理でお酢もよく使いますが、コンブチャも愛用しています。
飲むお酢を取り入れるのもおすすめで、興味ある方はこちらもご参照ください。

疲労回復効果がある

お酢の疲労回復についてメカニズムを解明したような話にはあまり出会えません。
それもそのはずで疲労という言葉は広く、筋疲労、慢性的疲労、精神的疲労、様々なものが含まれます。

筋疲労に関しては、筋肉に蓄積されたグリコーゲンが解糖系で代謝され乳酸になるメカニズムがあり、この乳酸の蓄積した状態が筋疲労だと一説に言われています。
クエン酸は乳酸の代謝に効果があり、お酢はクエン酸を含みます。
また筋肉の回復にはアミノ酸が有効とされ、お酢はアミノ酸も含んでいます。

さて慢性疲労や精神疲労ではどうでしょうか。
そもそもこの疲労って何でしょう。

動物実験では疲労を蓄積させる、睡眠を阻害し続けると死に至ります。
その動物の脳内を調べてみるとセロトニンやドーパミン、ミトコンドリア異常、大脳皮質の代謝異常など様々な生体機能の障害が観測できます。
この差し掛かりの状態がいわゆる慢性疲労なのではないでしょうか。

慢性疲労も精神疲労も、バランスよく美味しいものを食べ、しっかりと運動と睡眠を取るのが一番で、それ以外にはないと考えられます。

食事は精神的かつ肉体的なもので、栄養素の高い食事を取ると高い満足度が得られ、自然と総摂取量を下げることができます。
この観点では酸の生理的機能より、アルコール発酵と酢酸発酵によって作られる多様な酸を豊富に含むのがお酢であるという、お酢の持つ成分の多さ、多様さに着目できます。
美味しいと感じることも満足度を高めてくれます。
良いお酢を選ぶ大事さが思い出せます。

美味いは正義。お酢の美味を実感できる鮨はスーパーフードですね

アルコール、血糖値の上昇を穏やかにする

酸を摂ることで糖やアルコールがより長いあいだ胃に留まるようになり、結果として血糖値やアルコール濃度の上昇が穏やかになります。
グルコース、並びにエタノールに対して行われた実験があり、どちらも一定時間を経過したあとの胃内の残留量に有意な差が認められています。

たまに胃内でエタノールの分解が進むといった説を見ますが、食酢は基本的に加熱殺菌されており、仮に酢酸菌を摂っても胃酸で溶け、胃内で酢酸発酵が起こることはありません。
この辺りは回を換えてお酢の選び方でもまた触れたいと思います。

殺菌、保存効果がある

長らくの間、人類にとって安全な食べ物を確保することは一大テーマでしたが、お酢はその強い味方です。

お酢の裏ラベルを見ると酸度が記されています。

お酢の酸度。食酢は 4-5%

食酢の酸度は 100ml 中に含まれる有機酸成分のグラム数を表したものです。
酢酸以外にもコハク酸やクエン酸など様々な有機酸がカウントされます。
似たような数値として pH があり、こちらは水素イオン濃度を表したものです。
有機酸が解離することで水素イオンが増えるため、基本的に酸度が上がると水素イオン濃度も高くなる(pH が下がる)関係にあります。

お酢はこの pH の低下と酢酸の作用の二つで防腐効果を発揮します。

腐敗と発酵は同じ微生物による働きです。
人間にとって役立つものは発酵と呼ばれ、そうでないものが腐敗になります。

防腐効果というのはつまり、微生物の働きを阻害することと言えます。
細菌、カビなどの微生物は代謝、増殖が行える pH が決まっています。
お酢は製造過程でエタノールを代謝して酢酸を生成することで pH を下げ、他の菌の侵入を阻むようになります。
いわば微生物たちが縄張り争いをしているようなもので、この仕組みは乳酸菌発酵など様々な発酵過程で見られるものです。

また酢酸自体も他の菌の活動を阻害する作用を持ちます。
菌類の細胞は脂質二重層に覆われ外部と内部を隔離して水素イオンの侵入を阻んでいますが、解離前の酢酸はその膜を通り抜けることができます。
細胞内は中性ですが、この酢酸が侵入して内部で解離することで水素イオン濃度が上がり、細胞が内部から崩壊します。
この二つの作用が酢酸の高い防腐効果として知られています。

プレバイオティクスになる

お酢は胃腸の働きをよくする、と言います。
これは酸を取り入れることで胃腸の蠕動効果があるという話と、プレバイオティクス効果があるという話の二つがあります。
ここでは後者に絞ってお話したいと思います。

前提として人間は微生物と共生しています。
この微生物たちが暮らす圏を微生物叢、マイクロバイオータと言います。
人間の体の様々な場所にマイクロバイオータは存在しますが、近頃よく名前を聞くのは腸内マイクロバイオータ、腸内フローラでしょう。

あるレストランで出されたコンブチャとビールのカクテル
コンブチャはプレバイオティクスで人気が高い

この腸内フローラに菌を取り入れることをプロバイオティクスといい、菌類の餌になるものを取り入れて微生物叢を整えることをプレバイオティクスと言います。

お酢で効果があるのはプレバイオティクスの方です。
生きている菌を取り入れればプロバイオティクスになるという誤解がありますが、生きている菌の大体は胃酸で分解され人間の体がブロックしてくれます。
また小腸で吸収され、大腸のマイクロバイオータまで届かないものもあります。
全てを通してしまうとドアのない家に住むようなもので無防備に食中毒や様々なリスクにさらされていることになり困りますね。
一部の乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌などは腸に届く、プロバイオティクス効果のある菌として知られています。

そもそもここまでお話してきたのは酢酸やクエン酸といった微生物の代謝物であり、微生物そのものではありません。
酢酸菌がエタノールを代謝して作り出すのが酢酸。お酢をお酢たらしめているのは酢酸の方で、酢酸菌ではありません。
製造者と製造物の関係ですね。

お酢に含まれる酸で面白いのはグルコン酸です。
グルコン酸は様々な発酵食品に含まれており、お酢にも含まれています。
コンブチャもグルコン酸の成分が多いようです。

グルコン酸は小腸で吸収されず大腸まで届くことが確認されており、乳酸菌やビフィズス菌のの増殖を促し、プレバイオティクスに役立ちます。

リファレンス

食酢は酸を含む液体です。
酸の割合は酸度で表されます。
ラジオただいま発酵中で「お酢は酸の水割り」と言っていましたがわかりやすい表現です。
酸は食酢の中心となる酢酸のほか、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸など様々なものが含まれており、その結果からお酢には様々な効果が期待できます。その起因は pH コントロールとそれぞれの酸の働きによります。
そのためお酢の効果は多彩で様々です。
次に参考になった論文、サイトを挙げておきます。
皆様の美味しいお酢生活の参考となりますよう。

ラジオただいま発酵中: すしと酢

書籍: 酢ができるまで