見出し画像

【読みもの】 だしを取るという日常

・だしを取ることを日常に取り入れる意味。
・だしの食材の特徴を知ること。
・家庭での基本的なだしの取り方とは。

はじめに

おいしいお料理に対して言われることのひとつに「出汁が利いていて美味しい」というものがあります。
一流の料亭のお料理や人気のうどん屋さんまで、出汁がお料理を美味しくする存在であることは、お料理をしない人でも知っている事実だと思います。

出汁の材料は様々です。和食における出汁で代表されるのは昆布・鰹節・いりこ・干椎茸などの食材です。そのほかにも鶏ガラや豚骨、貝や野菜からも出汁は取れます。
つまり出汁というのは、だいたいどの食材も持っている旨味成分であることがわかります。
それを上手く引き出してあげるのが、お料理をする人の仕事であると私は感じています。

丁寧な暮らしは、だしを取ることから生まれる

「丁寧な暮らし」「豊かな暮らし」に憧れを抱く人は多いと思います。
「豊かさ」というのは人それぞれの感覚ですから、ここで議論することはしません。

無印良品を展開する良品計画さんは、1980年操業当時の「わけあって、安い」から「感じ良い暮らし」を提案することで、人びとの「暮らし」への意識の変化を察知しながら、現在のスタイルに徐々に変化させていったといわれています。
このようにマーケティング戦略がしっかりした企業は、人びとが求めている暮らしに敏感です。

昨年の1月、良品計画さんと九州大学の学生団体にお話を頂き、「OPEN MUJI博多」にて、「おいしさ、ゆたかさ、ありがたさ。」と題してワークショップを行いました。

画像1

私が小さい頃から祖父母や母親に手を引かれて通っていた、福岡県飯塚市にある老舗乾物店「わた惣」の駒山晃さんとの対談を通して、だしが生活の中にあることの「豊かさ」やほっとする感覚について来場者の皆さんと共有しました。

その時に振る舞ったのが、わた惣さんの定番商品のひとつ「もちふ」を、上質なだしで炊いた一品です。

画像2

後ほど、手早く取れるだしについても書きますが、まずは「丁寧に」だしを取ることの意味を考えたいと思います。

私が【お料理】の記事としてアップしているものは、簡単に美味しくできるものを心がけています。私が普段から食べているお料理ばかりです。
しかし、「簡単」であることは「雑」であることとは違います
簡単であっても、雑に作ればそのお料理は美味しいものとはならないはずです。

私のお料理にはだしを使うものが多くあります。この【読みもの】の投稿をしてから、そういったお料理もアップしていくつもりです。
私の作るお料理には、調理時間は短くても、その裏にたくさんの時間がかかっています。
しかし、それは人間が何かを行う時間ではなく、それぞれの食材に「待ってもらう」時間です。

先日アップした「鯖の味噌煮」です。
準備する時間や煮込む時間はせいぜい15分程度ですが、読んで頂くと分かるように、鯖を半日〜1日漬け込んでいます。
これが食材に「待ってもらう」時間です。

家庭の美味しいだしも、「待ってもらう」時間により生まれます
水に昆布といりこを浸け、仕事をしている間や寝ている間に冷蔵庫に入れておく。
それをお料理するときに火にかけ、だしを取る。
人間が作業するのは、ものの数分ですが、食材にとっては何時間もかかっているのです。

「時短」が求められている現代の社会であるからこそ、人間が働いている間や休んでいる間に、だしの準備をしておくという「待つ時間」を持つことは、私たちの暮らしや心に小さな余裕を生むことにもつながるはずです。

そして、そのだしを使って、簡単に美味しいお料理を作ることは、自分だけでなく自分の大切な人をも喜ばせることができます。
決して自分が美味しくしているのではなく、十分に待ってくれただしと自然が育んだ食材のおかげだと感じることができるようになれば、それは間違いなく丁寧で豊かな暮らしのひとつだと思います。

美味しいだしのための食材とは

さて、堅苦しくてむつかしい話はここまでにして、お家での美味しいだしの取り方をお伝えしたいと思います。まずは、出汁となる食材のことを知りましょう。

「一番だし」「二番だし」という言葉はご存知かと思います。これはお料理屋さんのものです。(もちろんご家庭で特別な時に一番だしを取るというのも良いものです。)

特に「一番だし」には、少しずつ差はあれど、ちゃんとした決まりがあります。
「一番だし」は旬の食材を活かすために、漬け置き時間も短く、さらしを使って濾した、すっきりと綺麗に仕上げるだしです。したがって、旨味が強いというわけではありません
ある意味、綺麗さを重視した、贅沢な使い方です。しかし、これでないといけない場面がお料理屋さんには数多くあるのです。

家庭でのだしは、お好みに合わせて旨味の強さを調整することができます。
私が普段から使うのは以下の材料です。

画像3

・羅臼昆布
・いりこ
・鰹節

これを見ると、私が濃いだしを好んでいることが分かります。

例えば、昆布。羅臼昆布は、旨味が特に強く、濃厚でしっかりした味を出すことができます。ちなみに利尻昆布は、羅臼昆布よりあっさりしていて、上品で繊細な風味があります。
場面によって使い分けをしたりしますが、私は調味料をより少なく使いたいので、ベースとなるだしはいつも濃いめに取ります。

また、例えば鰹節。鰹節には、カツオの背中側とお腹側でだしの濃度が違います。
「本枯節」など、削る前の鰹節だとより分かりやすいです。
背中側はカツオの脂肪分がのっていない部分なので、あっさり上品で透き通った水色のだしが取れます。これを「雄節」(おぶし)といいます。
逆に、お腹側は、しっかりとカツオの脂肪分が含まれた部分なので、濃厚でコクのあるだしが取れます。こちらは「雌節」(めぶし)といいます。

鰹節には、部位によってこのような差がありますが、普段使う場合は市販の「花かつお」などでも十分美味しいだしは取れます。

この2つの食材さえあれば、基本的には美味しいだしが取れます。
ただ私は九州に住んでいて、比較的上質ないりこが手に入りやすいので、いりこも加えます。

いりこはだしを取るときに、頭と腹わたを取り除くと言われますが、新鮮ないりこであればその必要はないと思っています。(家庭での出汁ですから、それで大丈夫です。)
では、新鮮ないりことはどういういりこか。以下の写真を見てください。

画像4

左が新鮮ないりこ、右が新鮮ではないいりこです。
新鮮ないりこは、全体的に銀色なのに対し、新鮮でないいりこは特にお腹の部分が黄色く変色しています。さらに、もっと新鮮でないものは、この部分が茶色くなります。

新鮮ないりこを扱うお店では、冷蔵ケースに入って売られています。
できるだけ、そういういりこを選ぶとよいでしょう。
いりこに関しては、本当に新鮮なものを使わないと、せっかくのだしが臭くてまずいものになってしまいます

最後に価格のお話です。
確かに美味しいだしを取ろうと思えば、高価な材料を使った方が美味しいこともあります。
だけど、だしの材料にばかり高いお金をかけるわけにはいかないという気持ちもあります。

そこで私はどうしているのか。
できるだけいいものを使うようにしています。特に昆布に関しては一般的なスーパーで売っているものよりは高価なものを使っていると思います。

しかし、それには理由があります。
上質な材料は、少量で美味しいだしが取れるからです。
つまり、日割りにすると、そこまで食費が嵩まないということがわかります。
せっかくだしを取ろうと思ったのに、美味しいだしが取れなかったという残念なことにならないために、上質なものを見つけて使ってみてください。

家庭でのだしの取り方

だしとなる食材のお話をしましたので、基本的なだしの取り方をお伝えします。

画像5

まずは水にだしの材料を入れて、前述のように冷蔵庫で寝かせます。

だいたい1Lのお水に対して、だしの材料は20gという目安はありますが、私は厳密に測ったりしません。だしの材料の質によって、出てくる旨味成分の量は違うからです。
私は特に昆布の利いただしが好きなので、少し多めに入れます。
昆布は表面より断面から旨味成分が出てくるので、少量で濃いだしを取るために、昆布を裂いてつけておきます。そうすることで、昆布の量を節約することができます。

画像6

これが寝かせたものです。
昆布がふっくらと膨らみ、少し色みがかった水色に変わっています。
そしたら中火にかけます。

画像7

ふつふつとしてきたら、昆布の断面に注目してみてください。
写真では少し分かりにくいですが、断面から小さな泡が出てきます。
昆布からしっかりだしが出ている証拠です。

沸騰する一歩手前ぐらいで、昆布を取り出します。

画像8

昆布を取り出したら、だしが沸騰してきます。
そしたら火を止めて、鰹節をひとつかみほど入れましょう。


画像9

鰹節を入れると、ゆらゆらとゆれて、鰹節からも小さな気泡がたくさん出てきます。
鰹節が踊るのをやめて、十分にだしに馴染んできたら、ざるで濾しましょう。

画像10

綺麗なだしが取れました。
つけ置く時間を差し引いて、実際に火にかける時間は1Lの水でせいぜい5分程度です。
手順さえ覚えれば、これだけ簡単に美味しいだしが取れるのです。

「取っただしは保存できますか?」
これもよくある質問です。冷蔵庫で保存はできます。
ですが、どんどん風味は落ちていくことを知っておいてください。出来るだけ次の日までには使い切ること、そして保存した出汁は、お澄ましや薄口の煮物ではなく、濃口の煮物や味噌汁に使う方がいいでしょう。
だしも生きた食材のひとつなので、鮮度のいい状態が美味しいに決まっているのです。

簡易的なだしの取り方

ここまで書いてきて、「あ、漬けておくの忘れた!」というときのための、すぐにだしが取れる方法を最後に書いておきます。

昆布は旨味が強い食材ですが、吸水することや他の材料と合わせることでその美味しさが引き立ちます。ですから、昆布単体の出汁はそこまで風味がよくなりません。

だしとなる材料のそれぞれの簡単な特徴を知っておくとよいと思います。

・昆布・・・・旨味
・いりこ・・・旨味
・鰹節・・・・香り
・干椎茸・・・香り

まず、そのままでも旨味が強く、水から煮出してもだしが出やすいのはいりこです。
すぐにお味噌汁を作りたいときや、だしの量が少し足りないときは、水を足していりこを数匹いれて煮出すことで、美味しいだしが取れます。

さらに、簡易的に鰹節の風味が欲しいという時には、鰹節ドリップ(勝手に名付けました)がおすすめです。

ザルにいれた鰹節に、やかんやポットでお湯をかけ、数分浸しておけば、すぐに鰹だしを取ることができます。

画像11

画像12

さきほどのように、鰹節が踊るのをやめたら、引き上げます。ものの5分ほどです。

画像13

おわりに

今回は、だしのお話でした。
だしは料理によっては土台になるものです。その土台がしっかりしていることで、食材も調味料も活きてくるのではないかと思います。

だしを取って美味しいお料理を作ること、だしを使わずとも美味しく仕上がる料理が両方存在することで、日々のお食事が楽しくなるはずです。
「だしを取ったことないよ」という方は、ぜひ一度ご自身でやってみて、まずはお味噌汁からでも作ってみてください。

ちょっとだけ、豊かな気持ちになれるはずです。

最後にだしのしっかり利いた、季節のよろこび。「若竹煮」の投稿です。
こちらも併せてどうぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?