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10歳でハムスターのお母さんになった娘の話。<出会い編>

3年生の終わり頃、死への恐怖と強い不安感を訴えるようになった娘。
4年生になってからも、自分に起こった異変と消えぬ不安を解消できないまま学校へ行き続けた。
娘の手洗いが頻発したことで、私はこの時初めて強迫性障害という病気を知る。
娘は、菌だと思ったものを察知すると、瞬時に死ぬかもしれないという恐怖に直結させ、パニックを起こすという不潔恐怖に襲われていたのだ。
私も何が何だか分からないまま、やっとのことで病院にかかれたのは7月の初旬だった。
その頃には、頻繁な手洗いと確認行為で疲弊していた娘。
当然日常生活に支障が出まくり、鉛筆や消しゴムすら菌まみれだと触れなくなり、汚れだらけの学校にも行けなくなっていた。

そんな中、娘は7月の誕生日プレゼントにハムスターを欲しがった。
強迫観念に怯え、学校に行けない不安を癒してくれていたのが、当時YouTubeで見ていたハムスターの動画だった。
娘の心が満たされるものなら何でもプレゼントしたいと思っていたけど、まずそれが「命」でいいのかと戸惑っていた。
死を恐れる娘に、長くはない命のプレゼントでいいのか・・・。
すぐに諦めると思い、「あなたがお母さんになって、毎日ちゃんとお世話できるならいいよ。」と言ってみた。
娘は思っていた以上にあっさりと、「いいよ!お世話は自分でちゃんとする!」と言った。


ハムスターとはいえ、動物のお世話をするのは簡単ではない。
・毎日のトイレ掃除と餌、水の交換、1週間に1回の砂場の砂と床材の交換等、可愛がるだけではない「やること」の方が圧倒的に多い。
・そして、ハムスターには平均2年前後という、あまりにも短い寿命がある。
ということをしっかり伝える。
娘は、お世話の事も寿命のこともYouTubeで見ていたから覚悟はできていると言った。
何よりも、癒しが欲しいんだ、ハムスターがいれば、心が満たされる気がするんだと必死に訴えてきた。

娘の場合、毎日のように不潔恐怖に支配され、日常生活を満足に送れていないどころか、今までできてたことができなくなって、やってたこともやれなくなって、守ってたことは守れなくなっていた。
そんな娘の覚悟を私は信用しきれなかったし、ハムスターのお世話なんてできる気がしなかったが、ハムスターが娘の希望の光になっていることだけは伝わった。
思い通りに行かない娘の日々に少しでも癒しと光がさせばと思いなおし、最終的に私がお世話することになってもいいと私も覚悟を決めた。
最後のお約束として、お別れの時は「後悔ではなく感謝の気持ち」で送り出せるように愛情を持って毎日を過ごそうと話をした。


初めて病院で薬を処方された帰り道のペットショップで、ハムスターを購入した。
今思うと、まだ薬も服用していない一番不安定なタイミングでよく買ったなと思う。
でも娘だけでなく私自身も精神状態がギリギリだったからこそ、すがるものがそれしか無かったように思う。

ペットショップの店員さんに、ハムスターをお迎えするためのお話を改めて聞く。
・餌は毎日変えないと腐ってしまうので、変えてあげましょう。
・ハムスターは綺麗好きなので、トイレと寝床は常にきれいにしてあげましょう。
・床材は毎日じゃなくてもいいけど、時々変えてあげたほうが清潔を保てます。
・ハムスターの命は短いということを心得て迎えてあげましょう。
「腐る」「綺麗好き」「清潔」「命は短い」
娘の強迫観念にすぐに紐づいてしまいそうなワードがいくつもあって、私はドキドキした。
いっぽうの娘は私が話して聞かせた時よりも、真剣に店員さんの話を聞いていた。

その日から、娘はハムスターのお母さんになった。
ただ、強迫観念による手洗いも頻発していた時期なので、ハムスターを触る前に手を洗い、触った後も手を洗う。
私への巻き込み行為もあったので、私が触りたいと言った時も同じルーティーンをふまされた。
当初は毎日のお世話タイムは夜の8時と決まっていた。
この頃の私は、娘の昼夜逆転を阻止するべく、これまで通り9時半までには寝るということをしっかり守らせていた。
娘はむしろお世話がしたい時期だったから、8時にはゲームやYouTubeをきっちり切り上げ、お世話をする。
手を洗う→餌と水を交換する→手を洗う→トイレを掃除する→手を洗う→寝床を整える→手を洗う。
普通にお世話するよりもやることが増え、30分近くかかっていたけど、ハムスターに話しかけながら楽しそうに取り組み、強迫行為自体は苦痛ではなさそうだった。
時々、前日の餌が残っていたことに気づき、腐ってないかと強迫観念に襲われることもあったが、自分に「大丈夫」と言い聞かせ、頑張って気持ちを持ち直していた。
週に一回の床材と砂場の砂の交換は、私がサポートするとなっていたので一緒に取り組んだ。
それ以外は、毎日1人で同じ時間に取り組み、たくさん可愛がり、私の想像を上回るほどのお母さんになっていた。


#創作大賞2022

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