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第0章#06 おばあちゃん家のあった「下山地域」(スマイリングの畑のことも!)

くるまのセールスマンだったガスパッチョ隊長は脱サラして、小・中学校同級生だったローリエ女史を右腕に介護福祉業界で起業。豊田市の幸穂台(さちほだい)にあった自宅をリフォームし、2013年2月、デイサービス1号店をオープン。とはいえ、前回までのおはなしの通り、利用者ゼロの時代が続くなか、彼らが自発的に運動や料理、畑仕事や手仕事を楽しむさまざまなアイデアを投入し、半年後には平均8割強の稼働率を達成。約1年後には下山地区に2号店をオープン、1号店を松平に引越したり、リハビリに特化した施設リハニティをつくったり、数年間でいっきに店舗数を増やしました。
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 2013年2月 デイサービス スマイリングを豊田市幸穂台にOPEN
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 2014年6月 デイサービス スマイリング下山 下山地区にOPEN
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 2015年7月 デイサービス スマイリング1号店、松平に引越し
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 2016年7月 リハニティ(リハビリデイ) 下山地区にOPEN
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ガスパッチョ隊長(以下、隊長)
――これは経営的なはなしになるんですが、起業当初から稼働率が8割を超えたら、次の店舗を出す、と決めていたんです。ぼくの意地ですが、前の会社を辞めるとき、「途中で離脱したやつ」と思われるのがしゃくで、当時の年収を超えることがひとつの「成功」だと考えていました(笑)。ただ、それを実現するには1店舗だけでは立ち行かない。経営者としても、職員やパートさんたちが笑顔で働ける会社にしたいと思っていたので、店舗数を増やすことは必須だったんです。

田園風景がひろがるのどかな下山地区。
デイサービス スマイリング下山のエントランス。

下山地域にオープンした理由は? かなり山深いエリアですよね。

隊長
――下山には、おばあちゃんの家があったんですよ。現在も、ガスパッチョ一族が住んでいます。子どものころのぼくは、豊田市内でも都市部に住んでいて、両親が共働きだったので鍵っ子でした。夏休みになると1か月まるまる妹といっしょに下山のおばあちゃん家(父方)に預けられていました。同世代の男の子がたくさんいたので、川をプール代わりにして遊んでいましたね。妹が生まれる時も、長期で下山に預けられていたこともあり、おばあちゃんや叔父家族にはずっと面倒を見てもらっていて、つながりが濃いんです。
 
まあ、そんな背景もあるので、下山は行き慣れた場所。土地勘があったのも大きかったですね。当時、下山から幸穂台(最初のデイサービス)まで通ってきている利用者さんもいました。だいたい車で30分ぐらいの距離です。でも、利用者さんを1軒1軒まわりながら送迎すると1時間ぐらいかかってしまいます。下山にはデイサービスも少なかったので、ここに開けば、利用者さんもすぐに来てくれるとも思ったんです。あと、土地が安いというのも大きな理由で、親せきのおじさんが「わりと平地でいい場所があるぞ」と教えてくれました。

お昼ごはんも、利用者さんといっしょに用意。

ローリエ
当時の私には、不安要素しかありませんでしたけどね。

隊長
そうそう。ローリエ女史に「下山店は任すから、ひとりで行って!」と任せたんです。ほかに任せられる人いないし。

ローリエ
隊長と違って、私は、下山地区はまったく土地勘がありません。いまの下山店がある場所は、下山全域のなかでも松平に近い場所なんですけど、これ以上奥は「里山すぎる」!!行きたくない!!と思っていました。隊長は幸穂台に残るというし、新しい事業所をまるごと任されて、自分がリーダーとなって運営していく自信なんてなかったです。

もうひとつ。やっと幸穂台に来てくださっている利用者さんといい関係が築けてきたところなのに、そこから引き離されるのがとってもさみしいな〜って思ったことも大きいです。

隊長
下山店がスタートしてからも、しばらくは情緒不安定でしたよね。今となっては、スマイリング全体にわたる現場の統括者としていつも落ち着いているローリエさんですけど(笑)。

ローリエ
まあ、隊長はどんどん前を走る人なので。ある程度は慣れました。

――里山の一軒家、という感じでステキですね。デッキも広い。


下山店のデッキ。お隣りに畑があるので
作業をしたい人も、眺めていたい人も楽しめる。
たまねぎ畑。手早く作業していく。

隊長
そうですね。まわりの自然環境を有効利用しようと思って、ウッドデッキから直接、畑(スマイリング・ファーム)に出られるように設計しました。ローリエ女史のいう「こたつでみかんを食べながら笑っていたいな」という言葉は、これまで暮らしてきた家とおなじような環境で日常生活をおくることができると読み替えることもできます。ですから、あまり施設っぽくないデザインにして、和室をつくったり、キッチンを対面にしたり。わざわざ室内に手すりを設けなくても、必要だったら職員がサポートにいこう、というというスタンスで造りました。


畑作業にスタッフが付きそう場合もあるが、
結局は利用者さんの方が上手。
立派に収穫されたさつまいも。
さて、どんなスイーツをつくろうか。

たとえば下山周辺で暮らしてきたおばあちゃん。今から10年前ぐらいの利用者さんの例でいうと、外に働きにいっている人はほとんどいません。家を守る人で、料理もつくる、服も縫う、野菜や米もつくる。しかも、戦争の経験者がほとんど。働きものなのでなにかやっていないと落ち着かない人が多いんです。だけど、高齢になってくると、足腰が悪くなるので、お嫁さんとかに「転ぶと危ないから」とか「泥で汚れるからやめて」などと言われてしまう。でも、スマイリングに行くと、サポートがついているのでそこが解消されます。

――下山地区は現在でも同居の家が多いんですか? 

隊長
減ったとは思いますが、まだ同居されている家もありますね。おじいちゃんおばあちゃんだけでなく、介護する家族の負担を軽くするのもデイサービスの大きな役割です。家では、「危ないから畑に行っちゃダメ」「焦がすから料理もダメ」と言われて、結局、じっとテレビを見ているしかやることがない。挙句の果て、「うちのおばあちゃん、テレビばっかり見てるからボケるのよ」・・・といわれる始末。ぼくに言わせれば、おばあちゃんから役割をとりあげていながら、文句をいうのは違うよね?となる。もちろん、お世話をしているお嫁さんの立場もわかりますよ。だから、デイサービスにいる間はちゃんと職員のサポートをつけるから、好きなように畑仕事もやってもらうし、縫物や料理もやってもらう。それが、スマイリングのスタンスです。

――下山のスマイリング・ファームは、どれぐらいの広さがあるんですか?ケアマネさんも、利用者さんのための畑があることは、すごく魅力だと話されていました。

下山のスマイリングファームは約30坪。
季節ごとに、いろんな作物にチャレンジしています。
鳥や、虫が、次々に遊びにくる。
もちろん、ものすごい勢いで雑草も育ちます。

隊長
下山では30坪ぐらいです。幸穂台のときはもっと小さく、家庭菜園レベルでした。ずっと里山で暮らして生きた人たちはいろんな経験値がありますから、畑仕事においても、手早いし、クオリティが高い。ぼくは虫も触れないような人ですが、ある時、ジャガイモの葉っぱが枯れていくんですよね・・・で、ある利用者さんに相談したら、すぐに葉っぱの裏をみて、「こりゃダメだ」といいながら、葉っぱの裏にびっしりついたテントウムシみたいな害虫を、進撃の巨人みたいな勢いでブチブチつぶしていくんです。すごいな、このおばあちゃん!!と思いました。もちろん、ジャガイモも元気に復活しました(笑)。
 
あと、草取りにしても。飽きずにずっとやってくださいます。畑は足元が不安定だから危ない、と思うかもしれませんが、おじいちゃんもおばあちゃんも膝をついて、地面にはいつくばってやるので、危なくはない。ぼくたちスタッフは、施設内から畑まで安全にいけるようにサポートしたり、水分補給ができているか、トイレに行きたい人はいないか?と見守る程度で、それぞれの自主性に任せています。

泥だらけ、汗だらけになっても平気。
楽しい方が絶対いい!!スマイリングですから!!

下山という里山をフィールドに加えたことで、子どものころに育ててもらった地域に恩返しするような気持ちもありますか?

隊長
うーん、だといいんですけど、ぼくの場合はそんなきれいな話はないです(笑)。下山の実祖母は、90歳ぐらいで亡くなっていますが、ただ、親せきは今も暮らしていますし、幼少期の思い出もたくさんあるので、ぼくにはとても大切な地域です。

ただ、下山店に限らず、スマイリングのすべての事業所に言えることですが、目の前にいる〇〇さんが、もっと楽しく1日を過ごせるためには何をすればよいか?うちの職員たちにも、利用者さん一人ひとりのバックグラウンドを知り、もっと笑顔に導いていけるアイデアを試してほしい。デイサービスという形態のなかでも、もっと自由にやれることがまだまだあるはずです。


やわらかいボールをつかったリハビリ体操。
輪になるとみんなの表情が見えてくる。

いま、スープタウンに向けてさまざまな準備をはじめていますが、規模が大きくなることで逆に居心地のよくない場所になるのは絶対に違います。ローリエ女史は、規模を大きくしたくない人、だけど、経営者としたらそうもいかない。だから、利用者さんが3~5人ぐらいで1つのグループ、というのが基本で、規模が大きくなってもそのグループ数が増えていくだけだよね、という姿勢は大事にしたいと考えています。


つづく。


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