63. 検査よりも大切なこと
ミュージカル好き救急医の独白 vol.63
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -
はじめに
みなさん具合が悪くて病院を受診した際に, このようなことを言われたことはないでしょうか. 「検査では異常ないですね. 」と. 熱があるのに, お腹が痛いのに, 元気がでないのに…
このようなことは救急外来でもよくあります. 検査はもちろん有用なことが多いですが, 使い方を間違えると大変なことになりかねません.
最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するPCR検査もそうですね. 1回目陰性, 2回目陰性, 3回目で陽性になった. 陽性であったけれども実は陰性(偽陽性)であったなどなど.
今日は, 検査をすることよりも, 検査の前にらしさを見積もることの方がよっぽど大事なのですというお話を.
今回のミュージカル話
新型コロナウイルス感染症の影響で, 帝国劇場や日生劇場など多くの劇場での公演が中止や延期となっています. オンラインでの配信や座席の間隔を空けて再開するなどが徐々に行われつつありますが, そのような対策以前に重要なこととはなんでしょうか.
非接触型の体温計やセンサーなどを利用して, 入口で発熱がある方の入場制限をするところもあるようですが, これは絶対的なものとはなり得ません. COVID-19は初期は風邪と変わらず熱を認めないことも多く, また無症状の方もいますからね.
大事なこと, それは一人一人の感染対策であり節度ある振る舞いでしょう. ちょっと具合悪いけど, やっと買ったチケットだから観に行きたい, 自分は若いから罹ったとしても大丈夫だろう, 熱があったけれども解熱薬飲んで下がったから大丈夫だろう, これらは全てNGです.
私だって観に行きたいけど我慢してるんです. 『星の大地に降る涙』, 『アナスタシア』, 『サンセット大通り』, 『エリザベート』, 『アラジン』, 『ミス・サイゴン』etc. くぅっっ!
救急外来あるある
72歳の女性(AHさん)が, 倦怠感を認め救急外来を受診しました. 受診時体温を測定すると38℃あり, 担当した研修医は, 高齢の女性で発熱を認めているため, 尿路感染症を疑い尿検査を行ったところ, 細菌を認めたため尿路感染症と診断しましたが...
無症候性細菌尿とは?
突然なに?と思うかもしれませんが, この無症候性細菌尿というのが, 検査で異常だけれども治療の対象とならない疾患の代表なので説明させてください. 簡単に言うと, 尿検査をすると細菌がいて, あたかも膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症の様な検査結果だけれども, 本人は無症状の状態ということです. 菌がたまたまいるだけなのか, もしくは尿の検体をとるときにどこからか入ってしまったのか, とにかく今の状態にはなんら影響していない細菌尿ということです.
この無症候性細菌尿は妊婦など限られたセッティングでない限りは治療の対象とはなりません. 尿路感染症であれば, 頻尿(トイレに何度も行きたくなる), 排尿時痛(尿をするときに痛みがある), 残尿感(尿を出した後も違和感が残る)などの自覚症状があるはずです. 症状がないときに検査だけ陽性という場合には, それが真の原因かは見極めなくてはなりません.
また, 発熱などの症状があっても, 尿に菌がいることを理由にそれのみで尿路感染症と診断してはいけないことを意味しています.
AHさんは尿検査で異常がみつかったものの, 前述の様な尿路感染症らしい所見は一切認めず, 原因は熱中症でした. 病歴を聞くと, 部屋を換気しているからという理由でクーラーをつけず過ごしていたところ倦怠感が出現し, その後から熱を認めたようでした. 点滴をしてしばらく様子をみたところ自然と解熱し症状も改善しました.
検査結果よりも検査前の見積もりが大切
みなさん病院を受診して, 検査もせずに「大丈夫です」と医者から言われ不安に思ったことはありますか?「検査してくれないの?」, 「検査しないで大丈夫って判断できるの?」, そのように思ったことはないでしょうか.
例えば毎年流行するインフルエンザ, 鼻に棒を突っ込まれて検査されたことはあるのではないでしょうか. 検査陽性とでれば, その時点でインフルエンザでほぼ間違いないと言える検査ですが, 陰性の場合には否定できるものではありません. インフルエンザの迅速検査というのは大凡70%のインフルエンザの患者さんを拾いあげる程度のものですので, インフルエンザでも30%の人は検査で陰性と出てしまうのです. そのため, インフルエンザらしい所見を認めるか否かという方がよっぽど検査結果よりも重要であり, 例えば, 家族の中にインフルエンザと診断された人がいて, その方と同様の症状であれば, まずインフルエンザでしょう. なんとなく検査で陽性とならなければインフルエンザと診断できないように勘違いしている人がいますがそうではありません. 検査はあくまで診断の補助です.
もちろん, らしくないと思っても検査で陽性となり, 救われることはあります. 検査をしない方がよいというわけではなく, 検査は必要なときに行われることを知っておきましょう. 検査しないで判断できたら, 費用も安くすむし, 時間も短くて済むしいいでしょ?
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