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62. 風邪に総合感冒薬?

ミュージカル好き救急医の独白 vol.62
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

風邪を引いたときに病院でPL配合顆粒®を処方してもらったことがあるでしょうか. 外来では患者さんの方から, 「先生, PL出して」と訴えられることもあります. しかしこのPL, きちんと組成を知らなければ思わぬ副作用を引き起こしてしまいます. ちなみに, 咳を止める薬は入っていないため, 咳は治まりません.

今回のミュージカル

演劇を観に行くと咳をしたくてもしづらいですよね. なんとか出ないように, 出そうになっても静まりかえったシーンではなく, 大きな音や音楽に合わせてゴホンとしようとするものです. 特に最近は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響からますます咳をしづらくなっていることと思います. 体調が悪いときには観劇は控えるのは当然のこととして(苦労して手に入れたチケットだとしても, そこはぐっとこらえて), 咳を何とかしたいのであれば, 効果のある適切な薬を選択することも重要です.

救急外来あるある

80歳の男性(AGさん)が, 昨日から咳, 鼻水を認め外来を受診しました.

Dr.S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.AG:「なんだか風邪っぽくてさ. PL出してよ, 先生.」
Dr.S:「どのような症状があるのですか?」
Pt.AG:「咳がどうしようもなくて, 鼻水はまぁたいしたことないけどね.」
Dr.S:「PLが欲しいのはなにか理由がありますか?」
Pt.AG:「いや, 前に近くの医者からよくもらってからさ. 風邪にはPLがいいのかとさ.」
Dr.S:「…」

風邪とは

風邪は自然寛解するウイルス性の上気道感染症と定義されますが, 風邪を引き起こすウイルスは200種類以上存在するとされ, その多くは病院で同定することはできません. そのため, 症状から風邪を定義し, 風邪を風邪と正しく判断することが大切となります.
私が尊敬する感染症医の岸田直樹先生は, 著書「誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた(医学書院)」で, 以下の様に定義しています.

【風邪の症状に基づく定義】
咳・鼻汁・喉の3症状が急性に同時期に同程度存在する.

よくありますよね. なんだか喉が痛くて, その後鼻水, そして咳がでるようになったという経過. その他, 頭痛や節々の痛みがなんてことが. 咳だけや喉の痛みだけというのはウイルス感染症らしくはなく, 細菌感染症らしい所見です.

PL配合顆粒®に含まれるもの

PL配合顆粒®1g中には以下のものが含まれます.
・サリチルアミド 270mg
・アセトアミノフェン 150mg
・無水カフェイン 60mg
・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩 13.5mg

咳止めは入っていないため, 咳症状は改善しません. また, アセトアミノフェンは解熱鎮痛薬ですが, 量が非常に少なく効果は乏しいでしょう. さらに, プロメタジンメチレンジサリチル酸塩には, 抗コリン作用があり, 前立腺肥大症を悪化させる可能性があります. 簡単に言うと尿閉といって尿が出づらくなることがあるのです. 高齢男性では特に注意が必要です.
私は, これらの理由からPLを処方することは原則ありません.
サラザック配合顆粒®, セラピナ配合顆粒®, トーワチーム配合顆粒®, マリキナ配合顆粒®, これら全てPL配合顆粒®と同様の成分です.

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