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音響効果ってどんな仕事?3(MA編)

こんにちは。サウンドブリックスの上野です。僕は音響効果(音効)という仕事をしています。何回かに分けて音効さんのお仕事内容を説明してきましたが今回は最終回の「MA編」です。ざっくりとした説明になりますのでご了承ください。音効さんについて少しでも関心を持ってもらえたらうれしいです。

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MAとは?

「Multi Audio(マルチオーディオ」の略です。たくさんの音を鳴らすという意味ではなく、昔に「マルチ」と呼ばれる多重録音できる機材があって、その機材名から名付けられたのだそうです。今ではその機材はほぼ使われることはなくなりましたがその名残りですね。
余談ですがテレビ開局当初はフィルム撮影していたらしくフィルムには音が入れられない、という理由から録音はせずに全て映像に合わせて生演奏で放送されていたそうです。今では信じられないやり方ですが、その頃はMAという概念そのものがなかったのです。

MAという言葉の意味するところはMAスタジオがある場所を指すことが多いです(「MA室」ともいいます)。そこでで映像に対する専門の音処理を行うのですが、その行為を指す場合もあります。また一連の流れをワンストップで行えた方が作業効率が良いため映像を加工する「編集所」と音の加工をする「MA室」が同じ建物内にあることが多く、連携をしながら業務を進めていきます。この編集所やMA室などを総じて「ポストプロダクション(ポスプロ)」と呼びます。

またMAには担当のエンジニアさんがいますが、その方を「MAミキサー」と呼びます。僕は「MAさん」のように略してしまうこともあります。テレビのクレジットも担当ミキサーの役職を「MA」と表記しますのでMAという言葉はMAミキサーを指す場合もあります。

広義の意味で解釈するならばMAとは「専門的な音の加工や処理を行う場所、またはその行為や人」ということになるでしょう。

東京では音効は専門職として存在するのですが、東京以外では分業制にならず地方などではディレクターが撮影・編集・音効・MAまで全て行うところも多く、大阪でも音効とMAは兼任していることが一般的です。僕は東京で活動していますので、ここでは東京での一般的なお話を中心にしていきたいと思います。

MAは何をするところ?

音効の多くの仕事はMAに向けて作業している、と言っても過言ではありません。ちなみに今回は本編のMAについてを軸に説明していきますが、その前にサブだしがある番組はその時にもMAを行っており、実際は一つの番組で2回MAを行っていることはよくあります。サブ出しについてわからない方は前々回の記事をご覧ください。
僕はあくまで音響効果でありミキサーではありませんので、あまりMAに関しての専門的なお話はできません。おおまかになんとなくの流れだけお伝えしていきます。音響効果は音楽や効果音で演出することが主であるのでに対してミキサーは音全体のバランスをとり、どちらかというとエンジニア的なアプローチが求められます。音楽制作でいう作曲家とミックスエンジニアのような関係といえばわかりやすいでしょうか。またMAに関することは「映像制作のための自宅で整音テクニック」など解説本もいくつか出ているので、独学でも学ぶことができます。

MAでは様々な音の処理を行いますが、以下のような流れで進みます。

映像立ち上げ(素材起こし)

整音

ナレーション収録

ミックス

納品(戻し)

だいたいこのような形で作業が行われています。MAは映像が出来上がる一番最後の工程になります。目の前で作品が形になる過程を見ることができるのがMAの醍醐味でもあり、多くのディレクターが好きだという理由の一つだと思います。

僕がMAに行く時はミックスの時だけでそれ以外はほとんどお任せ、という感じですので、ミックス以外の部分についてはさらっと説明します。

編集所から映像が送られてきたらMAではまずその映像の音を取り込み、整理します。その作業を整音といい、VTRの音のことを「同録」「本線」などのように言います。
例えば同録に入ってしまったノイズを軽減したり、聞こえにくい部分の音量を調整したり、必要に応じて加工をかけたりと内容は様々で、MAミキサーさんが細かく専門的な音の処理を施しています。

ナレーション収録は特に説明は不要と思いますが、ミキサーさんがマイクの調整をしたり、ナレーターさんにオペレートしたりするので、ミキサーさんが現場の空気を作っているような現場も多く、ナレーターさんのテンションも現場の空気次第で変わってくる印象があります。

音効にとってMAミキサーは音のパートナー

MAでの音効作業はミックス時

様々な工程があるMAですが、音効の実質的な作業が必要なのはミックスの時です。最近ではナレーションを録るときに音効がMAに立ち会うことはあまりなく、MAの数ある工程のうち、音効の出番はほんの一部(ミックス時)なのです。またリモートワークの環境が整ってきた昨今、MAに音効不在というケースもよくあります。修正がある時だけ連絡がきてデータで渡し返す、ということも増えてきています。僕はMAに立ち会うケースと立ち会わないケースどちらの場合もありますが、初めて仕事をするディレクターの場合は挨拶も兼ねて立ち会うことが多いです。ただこれはテレビ番組の場合がほとんどです。昔から「MAは音効が立ち会うもの」みたいな慣習があることが理由ですが、テレビスタッフの方がMA室で修正や細かいリクエストが出るケースが多く、対面で話を聞かないと細かいニュアンスなどがわからないケースがあるためです。その反面企業VPやYoutube等テレビ以外のコンテンツだとMAに立ち会わないことが多いです。その場合はあらかじめ「MAには立ち会わないでもいいですか?」と確認をしておきます。リモート対応だと場所を選ばず取引ができるので、対面と非対面でそれぞれの効果やメリットがあると感じています。
仕事が重なったりしてどうしてもMAに行く時間がない時は「今日のMAはリモート対応にさせていただけませんか?」とこちらから相談することもありますし、逆に先方から「どうしてもMAに来てほしい」と言われる場合もありますので、その辺りは制作スタッフと相談をしながら決めることになります。
ちなみにMAにまで予算がを出せない、などの理由からMAをかけずに納品するコンテンツもありますが、テレビ番組ではほとんどの場合がMAを行なって納品しています。

MAではミックス時が音効の出番

ミックス時にやること

ここではMAに音効として立ち会った場合を想定して話を進めていきます。
ミックスが始まる前にあらかじめ選曲をしたデータをMAに送っておき、そのデータを元にミキサーさんが大まかなバランスをとります。
音を渡すタイミングはミックス前というのは大前提なのですが、時間に余裕がある場合はナレーション録り前の段階で一度データを渡しておきます。その時は仮のものでも構いません。ナレーターさんが音楽があった方が読みやすくなる、というのが主な理由です。
MA室で導入しているものは「PRO TOOLS」というソフトが大体導入されているので、そのデータをギガファイル便などのクラウドストレージを使って送っています。
MAにはミキサー、音効のほか、サブ出しの担当ディレクター、総合演出、プロデューサー、各アシスタントなど様々な人が集まります。
いざ準備が整い、関係各所集まったところでミックスが始まります。
慎重に内容を確認をしながら、それぞれの意見を出しつつブラッシュアップしていくのが主な作業内容となります。多くの人が集まるのであらかじめミックス開始時間を相談して決めておきます。

僕の中では半分以上は「制作スタッフのリクエストに応える時間(場所)」という風に捉えています。MAに行くと高性能なスピーカーで音声が再生されるため、ミックスの時に初めて気がつく音のバランスやノイズなどがあります。そうしたことは自分だけしか感じていないことが多く、一旦自分のことは後回しにして、まずは制作チームのリクエストを第一優先に考えます。そのあと時間があれば自分の修正したいところを修正していきます。リクエストは様々で、音楽やSEを変えたり、タイミングを変えたりすることもあります。そこは音効の役目なのですが、それ以外にも出演者やお客さんやナレーターさんの声のバランスだったり、同録に対するリクエストなどもあり、音楽やSE以外の音に関するところはミキサーさんが作業をします。
またその他にもコンプライアンスに関わることや、テロップの配置、ワイプの出るタイミング、スポンサーへの配慮など放送に出す作品として問題ないか、総合的にチェックしています。

ミックスと同時に納品するメディアにコピーする時とミックスを一度全部作り終えてからコピーする時があり、番組によりケースバイケースです。このコピーのことを「戻し」と言います。

僕は戻しの時はミックス時点で全員が確認をして問題が無いようであれば撤収する場合もありますが、気になる部分があったり、戻しのタイミングで初めて映像の確認をするスタッフがいる場合はそのまま戻しが終わるまで立ち会うケースもあり、これも各音効さんでスタイルが分かれることになります。

戻しが終わった後はメディアを制作スタッフに渡して放送局等に納品することになりますが、この辺りは音効としての出番は特にありません。


MAは映像が出来上がる最終工程

まとめ


以上でMA編は終了となります。もっと詳しいことを知りたい方は専門の書籍など購入されることをお勧めします。今回は音効の立場からMAとの関わり方についてご紹介させていただきました。

全3回にわたり音響効果についてざっと説明してきましたが、いかがでしたでしょうか?まだまだ説明しきれていないところが多々ありますが、そのあたりは気が向いたら補足としてまた別の機会に記事にしたいと思います。

音効に関心がある方やこれから音効を目指す方にとって少しでも参考になっていたら嬉しいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。





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