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散文

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説似一物即不中
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無辺

無辺

 先生が白板に「心」と書き「これは何でしょう」と生徒に問いかけた。寸分の間も無く、ある生徒が勢いよく手を上げ、元気よく「白板です」と答えた。一瞬沈黙に包まれた後、破れんばかりの笑い声が教室に響き渡った。

 しかし、先生は落ち着いて「正解」と言った。「それは『こころ』ではないでしょうか」と真面目そうな生徒が聞き返した。「確かにこの漢字は『こころ』または『しん』と読めるが聞いたのはそういうことではな

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「物語」

「物語」

 いつからか「ナラティブ」という言葉を見かけるようになった。「ストーリー」とは違うらしいことが書かれているので、英英辞典 (Cambridge Dictionary) を調べみると、前者は "a story or a description of a series of events"、後者は "a description, either true or imagined, of a connec

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「まっ裸」

「まっ裸」

 『講座 禅』の全八巻が千円で叩き売られていて、少し考えた挙げ句、破れる心配のない紙袋を用意してくださったので買って帰ることにした。もしかしたら、第一巻だけは過去に所有していたかもしれない。

 全巻ペラペラめくっていたら、上記の久松真一さんの「郷愁唄」が目に留まった。久松さんの本は対談本含め数冊読んだことがあるくらい。これは結びの唄だが、出だしには少し異なる唄が歌われている。

はたらき、いとなみ。

はたらき、いとなみ。

久しぶりに晴れた。
まだ暑い、夏だ。
「台風が過ぎた後には秋が待っている」
とすっかり思い込んでいた。

 *

本の整理をした。
「再読はないだろう」と思いつつも、
確信できない本だけが棚にある。
時に思い出したように「確信」を更新する。

 *

 「かなり長い間、読書にはまっていた」
ような気もするが、過ぎてみれば
一瞬、噛めば噛むほど
永遠。

 *

「読んだ」とは言え、再読すれば
深ま

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「わたし的」

「わたし的」

 自宅の隣にある古書店に引き取ってもらう予定だった、読了した串田孫一さんの本を、『山のパンセ』を絶賛していた先輩に譲った。随筆や山の本 (詩は無し) など合わせて四、五冊。ひとそれぞれの読書の時節。

 秋が深まるほど、私的には山シーズンとなる。降雪するくらいまでの数ヶ月ほど。晴れていれば、事前チェックし雪道でも。今年はもうひとりの先輩の初登山の同行がスタートになりそうだ。十月初旬を予定。

 高

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伝達

伝達

 愛らしいは、愛らしい? ある日突然、母国語のアクセントとごっちゃ混ぜになっている英語を「愛らしい」と思えるようになった。体裁よりも背後に広がる無二の世界へ目が開かれたのであろうか。気づきは常に一瞬だ。

 口頭のコミュニケーションは文法を超える? 文字以前のやりとりは依然として残っている? 書かれたものはどうか? 「雛形」の類は苦手だ。履歴書に「詩人」としか書けなかった中原中也のエピソードを思い

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共生

共生

 山の話になった。どの山も地続きであるように、あちらこちらへ話が飛んだ。途中「何を言っているのかわからないかもしれないな」と思い、「山にいくとスッキリする」とまとめた。理由を挙げればキリがない。実際に足を運ばれたところで、スッキリしないかもしれない。十人十色。

 話はいつも中途半端で終わる。時間をたっぷりとり向き合って話しても伝えきれない「何か」が残る。その「何か」は時に波紋のように広がり、思っ

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「独りでに」

「独りでに」

 「あ、言っちゃいけないことを言ってしまったかな」なんて感じる時があるが、どうしたって避けられない。「自分」でもそんな風に感じることがある。何かしらの気づきが「どこからか」生じる。「内か外かは永遠にわからないであろう『非局所』的なところから」、なんて言ったところでわからないものはわからない。

 有り難い、ゆえに「ありがとう」。どうしたって把握できないことがある、ゆえに「お陰様」。共に語源には諸説

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八重

八重

 「十年一昔」という表現が気になり「そういえばどこかに」と探して見つけた、山村暮鳥さんのスワンソングである『雲』の序文の言葉。詩集が出版されたのは1925年だから、今から百年前ということになる。むかしの、むかしの、そのまた昔の、さらにそのまた昔の昔の、むかしの事。

 さて、今はどうだろう。十年前なんて大昔のことになるのか、それとも、百年前と変わらずか。「前回金峰山に来たのはいつだったか」と尋ねる

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プライスレス

プライスレス

 株価が暴落した。過去最大だそうだ。「蚊帳の外」の話だが、蚊帳の外には出られない話でもある。そっちの方がずっと気になっている。手の施しようがないように見えるが「時すでに遅し」などといえば増上慢になるか。

 「ああ、株価が暴落しちまっておけらさ。わっはっはっー!」「そんな人、いるわけないだろ。そもそもあんた株やってないだろ」「ご存知だったか。「下がろうが上がろうがバンザイするのも悪くないかな、なん

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自発

自発

 演者の皆さんが「オリジナル曲です」と言うのを聞いていて、やはり俺は素直にそう言えないな、といつも思う。確かに「自作」である。が、「自分」も含め、「これまでに出会った全ての方のおかげでもある」などと思ってしまう。人に限らずの話。

 古今東西の沢山の音楽を聴いてきたが、「自作」に少しでも似たところがあるとボツにする。独特の解釈に目を開かされることもあるので「カバーがオリジナルを超えることはない」と

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印象

印象

 「へえ、酒飲めないんですか。がっつり飲んでそうなのに」とよく言われるが、どんな印象なのか、自分ではさっぱりわからない。逆に「飲まなそうな人」というイメージもあるのだろう。

 印象は常に更新されるが、本当のところは、当人も含め、誰にもわからないのではないか。わからないからこその妙味。一方、知り得ないところで感知しているものがある、そんな気もする。

破顔

破顔

 ゴーギャンのあの有名な『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』と題された絵の説明を聞いていた課外授業中の小学生の集団の中の一人がぽつりと "Qui sait? (だーれも知らないさ)" と呟いた。

 すると難しい顔をして絵を見ていた近くの大人が堰を切ったように笑い出した。それを見た子供達が面白がって "Qui sait, Qui sait…" と合唱し始めると何事かと思っ

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交感

交感

 「神聖な場所」と或る方が言った。「神聖」という言葉に引っかかり素直に同意できず、他の言葉を探して会話を続けた。「『精一杯やる場所』ではありますね」と言うと同意はされたがしっくりきていない様子。その方にとっては「神聖」という言葉がしっくりくるのだろう。

 歌う場所の話。いや、「いつどこにあっても」の話。オンオフ切り替えられない話。日常ありきの非日常の話 (逆も然りか)。始まりも終わりもなく、永遠

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