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無辺

 先生が白板に「心」と書き「これは何でしょう」と生徒に問いかけた。寸分の間も無く、ある生徒が勢いよく手を上げ、元気よく「白板です」と答えた。一瞬沈黙に包まれた後、破れんばかりの笑い声が教室に響き渡った。

 しかし、先生は落ち着いて「正解」と言った。「それは『こころ』ではないでしょうか」と真面目そうな生徒が聞き返した。「確かにこの漢字は『こころ』または『しん』と読めるが聞いたのはそういうことではない」。

 「この漢字はどう読むでしょう」と質問すべきだったなと思いつつ、先生は生徒の答えを否定しない方向を選んだ。「では先生、答えは何ですか」との質問に先生は「先ほど言った通り『白板』だ」と答えた。

 続けて「先生の言うことを鵜呑みにせず『白板』に好きなように描けばいいのだ」と言った。笑いを取ろうとして「白板です」と答えた生徒は思いもよらぬ展開に戸惑いつつ、学ぶことに楽しさを見出していた。