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青春の後ろ姿のその先2 〜愛と幻想のファシズム②〜

 小説のストーリーとしては、主人公のトウジが死ぬようにゼロに言った後、ゼロは「自殺」するので、教唆強要されたと言えばそうかもしれません。ただゼロはたぶん死ぬつもりだったろうと思います。本人の意志による自殺なのか、主人公に言われたから死んだのかの議論はさておき、ゼロは自死します。
 ゼロは映画を撮るのが趣味で、政治性がいっさいない人物です。一方、主人公のトウジは直感的に政治判断するカリスマです。
 トウジとゼロが一緒に立ち上げた政治結社「狩猟社」の下にエリート官僚や天才ハッカーなど優秀な人材が集まり、たちまちテクノクラート集団が形成されます。彼らは「現体制を倒せ倒せウエーイ」とは叫ばず、政権奪取後すぐに施行するべき臨時政府の何百という法案を次々に策定し準備します。ゼロはそういうことにはいっさい携わりません。
 当然「狩猟社」の幹部たちは、ゼロに何の価値もないと思うばかりかリスクだと考え、無用の者として粛清して排除しようと動きますが、主人公トウジは彼らを止めます。これはどう見ても公私混同なわけで、それこそ内部分裂や謀反を生むきっかけになりかねない大変なリスクですが、それでもトウジはゼロをゼロのまま活かそうとし続け、宣伝部長に任命しました。ほぼ心中覚悟みたいな行為です。
 権謀術数を尽くして政治や政権奪取に明け暮れるトウジにとって、若い頃と何ひとつ変わらない隙だらけのゼロは、欠けてはならない半身のような存在だったのだろうと思います。要するにユングが言うところの「影」、「自分が生きてこなかった半面」です。おそらくトウジのアイデンティティはゼロそのものだったのだろうと思います。

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