にらいかない #1
大切な記憶に時の流れは関与しない。それはいつまでも原色のままに鮮やかに彩られ、相手の表情、声、雑踏を象る音、におい、そのときの気温や空気の湿り具合にいたるまで、まるで刹那に凍らせたみたいに、かつてのまま心に宿っている。
その場所に立ち返る限りにおいて、大切な風景はうたかたの幻ではなく、大切な人はにじんだ面影ではない。それは一つの現実でさえある。
無自覚に年をとった今でも、こうして目を閉じると、もう四十年あまりも昔のことが、たちまち「いま、ここ」に呼び起こされる。
四十年五十年なんてほんのひと吹きだ。
EXPO75「海──その望ましい未来」
──沖縄国際海洋博覧会。
母と姉との三人の、最後の旅行だった。
この記事が参加している募集
サポートあってもなくてもがんばりますが、サポート頂けたらめちゃくちゃ嬉しいです。