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ヘドロの創作

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フィクションの創作です。
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#猫世界

ヘドロの創作 2024/8/4

ヘドロの創作 2024/8/4

 (承前)
 猫に近い姿をした魔族は、キジ太郎一行をなにやら薄暗い森のなかに案内した。魔族は、チャチビと同じく、しっぽの先だけが蛇のような形をしていて、どうやらこの形質を持った魔族はエリート魔族であるようだった。
 ミケ子がしきりにキョロキョロして怯えている。キジ太郎は「大丈夫だよ」と言って手を握ろうとしたが、鋭い爪で反撃されてしまった。
 さきほどからミケ子は鼻筋にシワをよせて、ずっと「フゥー…

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ヘドロの創作 2024/10/6

ヘドロの創作 2024/10/6

 【猫の喫茶店】

 たまには喫茶「灰猫」のマスターも休まねばならぬ。
 ある日、客が途切れた間に、マスターは近くにできたインド料理店「タージ・ミャハル」に行ってみることにした。評判がよくてお客がひっきりなしに入っている店だが、そろそろランチ営業のラストオーダーらしく、お客は主に吐き出される一方だ。
 インド料理店に入ってみると、さわやかなスパイスの香りが鼻をくすぐり、壁に貼られた極彩色のタージ・

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ヘドロの創作 2024/9/29

ヘドロの創作 2024/9/29

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」のマスターは珍しくにんまりしていた。
 そう、ずっと欲しかったエスプレッソマシンを手に入れたのだ。
 なぜずっと欲しかったのかというと、喫茶「灰猫」のマスターは昔イタリニャに旅行して、本場のエスプレッソを飲んだのであるが、それがなかなかおいしくて忘れられなかったのである。
 圧力をかけて抽出するコーヒーは、試しに飲んでみるとキリッと濃い。イタリニャの喫茶店で教わっ

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ヘドロの創作 2024/9/22

ヘドロの創作 2024/9/22

 【猫の喫茶店】

 きょうは「ショートケーキの日」だ。
 毎月22日はショートケーキの日である。なぜならカレンダーを見ると上に15、すなわちイチゴが乗っかっているからだ。
 喫茶「灰猫」ではショートケーキの日に、ケーキやパイを全て割引して提供している。マスターのユーモア……なのだが、これを狙ってケーキを食べにくるお客さんが少なくないので、ちょっと店の経済を圧迫している。
 マスターの手作りするケ

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ヘドロの創作 2024/9/15

ヘドロの創作 2024/9/15

 【猫の喫茶店】

 マタタビ市はすっかり秋の風情だ。
 ちょっとした街路樹の根本なんかで、鈴虫やコオロギが鳴いている。秋っぽい風も吹き、空は明らかに夏のそれとは違う雲が浮かんでいる。日が暮れるのも早くなった。
 そんな中、喫茶「灰猫」のマスターは、お菓子を試作していた。マタタビ市のはずれにある農園の直売所で、リンゴや洋ナシやサツマイモやカボチャをどっさり買い込み、それをお菓子にしてメニューに加え

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ヘドロの創作 2024/9/8

ヘドロの創作 2024/9/8

 【猫の喫茶店】

 きょうはマタタビ中央通りにある「十二支入らなくてよかった神社」の秋祭りの日である。
 この神社は、猫が十二支に所属せずに済み、12年に1回の当番をやらないで済んだことを記念する神社である。猫的にはそれはすごくすごくめでたいことだ。
 まあそのかわり猫族は招き猫なるキャラクターにされ、金運だ千客万来だときわめて世俗的なご利益を求められているのだが。

 お祭りでは大きな山車が何

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ヘドロの創作 2024/9/1

ヘドロの創作 2024/9/1

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」の建物を覆っているツタが、実をつけ始めた。次第に、季節は秋へと傾いている。
 マスターは「そろそろアップルパイの季節だな」とつぶやき、店のドアを開けた。まだ強い日差しを感じるが、それでももう真夏の太陽ではない。
 となりにある大きな出版社のビルの影になりがちな喫茶「灰猫」であるが、朝だけは太陽が当たる。マスターはきょうも、スーツの上からエプロンをしめて、コーヒーを

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ヘドロの創作 2024/8/25

ヘドロの創作 2024/8/25

 【猫の喫茶店】

 きょうも「喫茶 灰猫」のマスターはいつも通り店を開けた。一歩店の外に出ると容赦ない日差しがじりじりと照り付けて、マスターはあわてて「喫茶 灰猫」の建物に逃げ込む。
 こんな天気じゃろくにお客さんがこないことを想定したほうがいい。来たならアイスコーヒーが売れるだろう。冷凍庫に、凍らせたコーヒー(これならアイスコーヒーに入れたあと、溶けてしまってもコーヒーが薄まらない)が入ってい

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ヘドロの創作 2024/8/18

ヘドロの創作 2024/8/18

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」は、大きなビルのふもとにある。大きなビルには出版社が入っていて、出版社は毎日たくさんの本を作っており、コーヒーを飲んで一休みしよう、とか、お昼においしいパンケーキを食べよう、といった出版社で働く猫たちや、出版社で編集者と話し合ってきた作家猫たちがぞろぞろと「灰猫」にやってくる。
 喫茶「灰猫」は大きな出版社のビルができるずっと前からそこにあって、いまではビルのせい

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