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ヘドロの創作 2024/9/22

 【猫の喫茶店】

 きょうは「ショートケーキの日」だ。
 毎月22日はショートケーキの日である。なぜならカレンダーを見ると上に15、すなわちイチゴが乗っかっているからだ。
 喫茶「灰猫」ではショートケーキの日に、ケーキやパイを全て割引して提供している。マスターのユーモア……なのだが、これを狙ってケーキを食べにくるお客さんが少なくないので、ちょっと店の経済を圧迫している。
 マスターの手作りするケーキやパイはどれもおいしいので、まあ仕方のないことではある。

 今月のショートケーキの日は薄寒い日だった。もう太陽からのギラギラした光線もなく、しとしとと雨が降っており思わずくしゃみが出る。
 おかしいな、ついこの間までギラギラジリジリ暑かったのに、急に涼しくなってしまった。マスターは店ののぼり旗を出しながら、寒くなったマタタビ市を見つめる。
 きょうはホットコーヒーとかココアとか、常連しか知らない裏メニューのホットのミルクセーキも出るかもしれないなあ、とマスターは思う。あれはプリンにならないギリギリを攻めるのが難しいのだ。
 そして案の定、店を開けてみると、お客さんたちはみんな「うー寒い寒い」と入ってくる。しょうがないので古ぼけたエアコンを暖房にすると、お客さんがカイガラムシのように次々入り始めた。ホットコーヒーやココア、ロイヤルミルクティーが次々出る。
 猫は寒がりの生き物なのであった。

 喫茶「灰猫」のマスターは、とりあえず少し休もう……と、昼ごはんを食べるためにほんのわずかに設けている休み時間に、手製の弁当を開けた。
 玉子焼きとかゆで玉子とか、マスターの好物しか入っていない弁当だ。マスターは玉子ばっかりの弁当をつつきつつスマホの映像配信サービスである「アベニャ」でニュースを見つめる。

 マタタビ市は冷たい雨、くらいの感じだが、猫世界内では豪雨災害が起きているところもあるらしい。
 最近の雨はどうにも激しい。秋雨、であればほどほどの雨を想像するところだが、ここ何年か激しすぎる雨ばかり降る。
 弁当を食べ終えて営業を再開する。出版社の猫たちが打ち合わせに来て、ケーキと温かい飲み物を注文していく。
 ままならないなあ。
 マスターはそうぼやいて、ロイヤルミルクティーを煮出すのであった。(つづく)

「ぼく、うわめづかいがとくいなんですよ」


 ◇◇◇◇
  おまけ

 ナスのおいしい季節になった。
 父氏のリクエストで焼きナスの皮をむいて冷やしたやつをきのう食べたのだが、焼きナスにしょうゆをかけて食べて、その食器を置いておいたら聡太くんが後ろ足をズボォとしょうゆがナスの汁で薄まったものの入っている食器に突っ込んだのであった。
 なにをしているんだきみは。ふん捕まえて肉球をぎゅっぎゅっと拭いた。本猫はなんでこんなことになったのかさっぱりわからない顔をなさっていた。
 やることナスことすべて乱暴なんである。ナスだけに。山田くーん、座布団ぜんぶ持ってってー。やるかジジイ!!!!
 そしてきのうは歯磨きをしていると「いつものたのしいぼーるあそびをしましょう」という顔をして聡太くんは台所に向かった。通り道の割れ物を片付けてからボールを投げたら、それこそ「わーい!」という感じで飛んでいった。元気があってたいへんよろしい。
 なお、足の裏がしょうゆ味になってしまって心配していたのだが、今朝もけろっと起きてきた。人に心配をかけるのがうまい。

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