私のバレンタインの思い出
いつからだろう、2月14日が特別な日じゃなくなったのは。
数年前までしていた友チョコ・義理チョコ配りもすっかり辞めてしまった。
もちろん「お返し期待してますよー」という男性陣へのジャブも。
気づけばアラサーと呼ばれる年齢になり、バレンタインは、いつも頑張る自分へのご褒美に!とデパ地下を散策するイベントになっていた。
そんなことを思いながらの帰り道、部活帰りの高校生とすれ違う。
2月なのにスカートをぎりぎりまで短くして、白い息を吐いている。
やっぱ10代は若いなー、と驚く私を横目に会話する2人。
「ねえねえ、土曜の買い出し何時集合にするー?」
「んーやっぱ2回は練習しときたいし、10時には集まらない?」
「おっけ、そうしよー!てかゆなは何作るか決めたの?」
「彼氏が甘いもの苦手だからチーズケーキにしよっかなーと」
「え、なにそれ(笑)。バレンタイン感なっ(笑)。」
そんな会話を聞きながら、渇いた笑い声が漏れる。
はは、私にもあんなひと時があったっけ。
ー
私の初恋は遅かった。
中学のテニス部は県内屈指の強豪で、男テニさながらの練習量を誇った。
おかげさまで春の訪れなど感じる間もなく、小麦色の肌とともに3年間を過ごした。
高校は少しのんびりしたいなーと思い、友達もいた緩めのバレー部に入ることにした。
想像以上の緩さに消化不良感を感じたのも一瞬で、夏を迎える頃にはすっかり順応した私がいた。
と同時に別の焦りも。
夏休みが終わると、ちらほらカップルが誕生していたのだ。
カップル自体は中学にもいたが、それはごく少数の美男美女の特権であって、いわゆる普通の生徒には縁がない世界のものだった。
しかし、高校生になると、付き合ったり好きな人がいる方が普通といった空気感になり、ガールズトークの中心も恋バナになっていった。
私にもいつかそんな日が来るのかな?と思っていた矢先、その瞬間は意外にもあっさり訪れた。
クリスマス何したー?と恋バナが盛り上がる、冬休み明けの調理実習。
「え、みさの作ったグラタンめちゃめちゃ美味しいんだけど?みさいるし俺らの班が1番じゃね?てかみさって絶対良い奥さんになるね!」
屈託のない笑顔、サッカー部の高橋くんだった。
「そんなことないよー」とぎこちない笑顔で返した次の瞬間には私の初恋が始まっていた。
今思えば、それまで運動一筋だった私にとって、女の子的要素を褒められたことが嬉しかったんだと思う。
でも当時は理由なんて分からず、日に日に高橋くんを好きになっていった。
「みさ、今年もバレンタイン大配布大会やろうねっ!」
「てか今年はみんな何作る?」
「んーたくさん配るしクッキーじゃね?」
「りな毎年そうじゃん(笑)。女子力、女子力(笑)。」
「いや、彼氏にはちゃんと作るしー」
そんな会話が飛び交う教室で、私も高橋くんに何か渡そうかなという気持ちが沸々と。
バレンタイン前日の日曜日、友達と約束してスーパーに集まった。
「あれ、みさってマドレーヌ作るんじゃなかったっけ?ケーキの型なんて買ってどうするの?」
「いやー、せっかく高校生になったし、今年は仲のいいサッカー部にも渡そうと思って、、」
そんな小さな嘘をついて、急いでみんなとバイバイした。
帰ってからはお母さんとの共同戦線。
友達伝いにチョコが好きだという話を聞いていたので、作るのはガトーショコラに決めていた。
調理実習で褒められた手前、ミスは許されない。
そう言ってエプロンの紐をきつく縛る。
男子諸君、知っているかな?
「美味しい!」
そのひとことのために、女の子は2回も3回も同じお菓子を作るんだよ?
味が微妙、、と作り直して、今度は形が微妙、、と作り直す。
お菓子作りという可愛い響きに反する作品作りを終えたときには、23時を回っていた。
ありがとうお母さん、そう言って、部屋に戻った私は、安心したのか一瞬で眠りについた。
バレンタイン当日。
何回もイメトレしてきたのに、やっぱり渡すときは恥ずかしくて、、
結局サッカー部全員に配る流れで、どさくさに紛れて渡す作戦にした。
昨日チキって他の男子用にも同じガトーショコラを作っていたのだ。
ううん、本当は違うの。
高橋くんにあげたケーキにだけ、いちごのトッピングを添えたの。
私が知っている恋心を表現する味はいちごだったから。
そんなことはつゆ知らず喜ぶ高橋くんを見て、嬉しいような寂しいような。
でもあの日みたいに、今日くらいはあなたの1番として記憶に残ってくれるといいなー、そんなことを思いながら、私のバレンタインは幕を閉じた。
水無月 双
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