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晴斗くんへ

お久しぶりです、お元気ですか。突然連絡してごめんね。驚いたでしょう。

貴方とは、私が大学1年生の時に出会いましたね。サークルの先輩、というよくある関係で、出会って2ヶ月で付き合いだしましたね。まさか大学に入って、こんなにすぐ恋人ができると思っていなかったのでとても驚きました。明るくてリーダー気質で騒がしくて、みんなの中心にいる貴方に惹かれました。でも1番惹かれたのは、貴方が小柄でかわいい顔をしていたからです。私は当時小柄でかわいい顔をしている人が好きでした。ごくせんなら、小池徹平が好きでした。

貴方とは、結局4年近くお付き合いが続きましたね。付き合おうと言われたとき、承諾しながら私は、この人とはどうやって別れることになるんだろう、と思ったことを覚えています。18歳の恋愛が、結婚まで結びつく可能性は著しく低いと思っていました。まさか、あんなに酷い別れ方になるとは思いませんでしたけどね。私たちが最後に交わした会話、覚えていますか。

貴方は洋服が好きでしたね。私も洋服が好きでしたが、どうも貴方とは趣味が合いませんでした。貴方は高価で奇抜なものが好きでしたが、私は安価でレトロな古着が好きでした。時々、それが理由でも喧嘩しましたね。青いタイツってかわいいねって言われたけど、奇抜すぎると私が否定したのをきっかけにね。今思うととても下らない笑い話ですが。

貴方と小さな事で沢山沢山喧嘩しました。お互いに幼くて、感情をぶつける方法しか知りませんでしたね。本当に幼い恋愛だったと思います。いつも喧嘩していたけど、お互いに決して別れようとは言いませんでしたね。今考えると、根本的に気は合っていなかったように思います。考えも似ていなかったし、共感することもあまりありませんでした。4年も続いたことを不思議に思うくらいです。

私の恋愛の初めては、全部貴方と共にありました。お泊まりもキスも徹夜も飲酒も全部貴方と一緒でした。もう2度と行くことのない、あのアパートの一階の部屋が懐かしいですね。4年続いた恋愛は、いわば私の大学生活恋愛編の殆ど全てです。あの頃の私を知ってる人は、多分当時の私の恋人というと貴方を思い浮かべるでしょう。それくらい私にとっては長く深い付き合いでした。

別れたことを後悔したことは一度もありません。あのまま2人でいても、傷つけ合って罵り合って、ボロボロになるだけだったと思います。別れて暫くは、貴方に4年費やしたことを勿体なく思ったこともありました。2年くらいで切り上げとけば良かったなと。短い青春時代の4年はあまりにも長いものですからね。

でも、不思議と付き合ったことを後悔したこともありません。殆ど趣味は合わなかったけど、唯一歴史好きという点は気が合いましたね。あの歳にしては、色んなところに行って、色んなことを観た方だと思います。経験は財産となり、今の私にも息づいています。多感な時期に一緒にいてくれたこと、心から感謝しています。

貴方と別れて、何人かの人とお付き合いしました。貴方との別れ方が酷かったからか、その直後は自分を傷つけるような遊び方をしてしまったこともありました。でもまあ、それも経験だなと今になっては思います。

貴方も貴方でしたが、私も私でした。人に言うべきことと心に留めておくべきことの分別が付かない子供でした。毎日飽きもせず、相手の心を抉ることに一生懸命でしたね。

そのあともいい恋愛をさせてもらいましたが、やっぱり貴方は特別です。貴方と4年間傷つけあったから、人には優しくするべきである、という人間の初歩を学びました。あの時の私たちは知りませんでしたけど、恋愛は楽しいだけでも良いみたいです。トマトみたいに、水をあげない方が甘くなる、みたいなそんなことは恋愛でしなくて良いらしいです。知らなかったよね。見様見真似で剪定して、要らない枝葉を刈り取って、綺麗な木にしようと足掻いたような恋愛でした。日当たりなんて分かってないから、頑張ったのに枯れてしまったね。

講義が終わって貴方の家に行ってゲームをしたり、夜中に連れ立ってコンビニにいったり、深夜にDVDを借りに行ったり。貴方はもう覚えてないかもしれないけれど、とても楽しかったよ。でも良い思い出にしたいから、貴方と会いたいとは思いません。多分貴方も思ってないだろうな。

私は別れても貰ったものは捨てないから、あれから何年も経ったけど、貰ったキーケースを使っています。貴方は高価で長く使える物が好きだったから確かこのキーケースも高い物だったしね。未練があるとかそういうわけではなく、あの頃を楽しんでいた私を大切にしていたいという気持ちで持っています。でも、あまり理解されないから人には言っていません。

私たちが最後に交わした言葉、「死ね」「お前が死ねよ」でしたね。人に死ねと言ったのは、大人になってからは貴方が最初で最後です。私たち、喧嘩は沢山したけどこんなに酷い言葉は言ったことがなかったのにね。でもこの言葉の醜さのおかげで、私達は会わなかったし、もう二度と会うことはないでしょう。私のことは死んだと思って、出来れば良い思い出として消化してほしい。私もそうして生きています。