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【前編】提言は、待遇改善のため?ナカソト人材と深掘対談!

 5月25日(水)に人事院の川本裕子総裁に手交した私たちの提言について、元経産省官僚で現在は官民共創を目指す株式会社Publink代表の栫井誠一郎さんをゲストにお迎えし、ソトナカプロジェクトの佐伯健太郎と西川朋子が対談。霞が関の「ナカ」の経験を活かして「ソト」との垣根をなくす活動を続ける立場から、ここのところ実際どうなの?という本音の深掘りをしていただきました! 

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栫井 誠一郎さん  株式会社Publink -パブリンク 代表取締役社長 2005〜2011年に経済産業省・内閣官房勤務の経験を通じ、次の社会を創るには官民オープンイノベーションが必要と痛感し退職。以降、2社の創業を経て、現在は官と民が連動〈Link〉し、共創していく社会を実現する(株)Publink を創業し、官民連携での新規事業創出、官民横断でのキャリア形成支援(メンタリング)を進めている。

ソトナカ:今日はソトナカプロジェクトの提言について対談させていただくのを楽しみにしていました。官民共創を志す事業を手掛けてこられた栫井さんから、率直な御意見や御質問を忌憚なくいただけたらと思います。 

栫井さん:こちらこそ、よろしくお願いします。人材の流動性は私自身のテーマでもあり、提言を拝読してとっても共感しましたので、ぜひ、詳しくプロジェクトの趣旨を深掘り出来たらと思います。

ソトナカ:栫井さんは、経産省を辞めて起業した後、「経産省OBOG会」「霞が関アラムナイ」を設立し、その後、民間からナカにカムバックした人が緩やかに繋がる「Revolver会」も立ち上げられましたね。どのような想いで立ち上げたのですか? 

栫井さん:まさに官民共創に資するべく、ソトとナカの垣根を壊して人の流動性を高めていく場を創ることを目指して設立しました。既に「経産省OBOG会」には150名以上、「霞が関アラムナイ」には約100名、「Revolver会」には約10名が参加しています。社会や霞が関を良くしたいという想いのあるポジティブな方が多いのが特徴です。癒着の誤解を受けないように「自己の利益のためではなく、人の緩やかな繋がりを保ち、社会に貢献するためにつながる」という点に配慮しながら運営しています。私自身も、ソトナカ、ナカソト、出戻り、そういう多様な視点をもった人の循環が大事だと思います。 今日は、色々な立場にいる人の声をよく聴く機会がある人間のひとりとして、ご質問しますね。 

ソトナカ:はい、ぜひお願いします! 

ソトナカは中途の待遇改善のため?

 栫井さん:ソトナカプロジェクトは、中途採用で入ってきた人たちの待遇改善を求めたりする活動というわけではないのですよね? というのも、新卒で霞が関に入った職員の中には、特に年配の方ほど、「自分たちは厳しい勤務条件の中で不満を言わず歯を食いしばって働いてきたのだから、中途採用が同じ条件で横入りするのはアンフェアだ。」「中途採用者に対するケアも大事だけれども、それよりもまず生え抜き職員が働き甲斐を感じられる環境整備を目指すべきでは」と考える人もいるかもしれないなと思ったのですが。

ソトナカ:大事なことは、中途採用者かどうかに関係なく、霞が関で働く誰もが働き甲斐を感じられるようにしていくことだと思っています。 今回、私たちは中途採用を切り口とした提言をしていますが、提言の内容の多くは、中途採用者のみならず、生え抜き職員も含めて、霞が関で働く全員が能力を十分に発揮するための方策でもあります。

 私たちの提言書では、各府省庁が中途採用者をどう位置づけるかによって、ステージを3段階に分けています。3段階のうち、ステージ1のオンボーディング支援などは、新卒の方が組織に馴染んでいく・馴染ませていくうえでも必要な観点です。 ステージ2の人材確保の方針というのは、中途採用者のみならず、生え抜きも含めた組織全体の人材確保の在り方を考えようという話です。 是非とも、「組織全体のためになること」という意識で、中途採用者と生え抜き職員とが一体となって、提言内容を推進していければと思います。

提言詳細_vF_公表資料

霞が関の給与の在り方をどう考える?

 栫井さん:全く同感です。さらに、給与面についてはどう思いますか? 私は、能力や成果に応じた給与・報酬の仕組みが霞が関で不足していると感じています。 また、霞が関の業務に給与水準が見合っていない、ないし不当に安い給料なんだと感じている人が多いことが、職員のモチベーションアップや若手の離職防止へのボトルネックになっているという意見もあります。 

 ソトナカ:給与の多い、少ない、というのは人によって捉え方も異なりますし、原資は国民の皆様からいただいている税金なので簡単に言えることではありません。ですが、国家公務員の給与制度は差が大きくつきにくい仕組みであり、一人一人の経歴や能力、職務の成果に逐一対応したものになっていないのは事実です。少なくとも、複雑・高度化する行政課題に対応するため、これまでの政策の課題を指摘し、新しい解決策を示してくれる有為な人材を呼び込むには、現状で十分とは言えないと思います。 

 今回の提言でも、ステージ3の段階では、「能力本位で昇格・降格し、職務を基本とする報酬を設定」といった内容を盛り込んでおり、入省年次を基準とする横並びの給与体系から脱却することを視野に入れています。ただ、これには給与制度の改正が必要となるため、ステージ3を目指す府省庁が多数になってきた段階で、国家公務員制度全体の話として議論を行っていく必要があると考えています。また、不当に安い給与と感じていた大きな原因の一つに、残業代が十分に払われていなかったことがありますが、昨今の改革で改善された部分も大きいのではないでしょうか。

ソトの知見を活かし活躍する人材は増えている?

栫井さん:多様な中途採用の人たちをせっかく採用しても、ソトの価値観を生かせるポテンシャルがあるのに、言葉を選ばずにいえば、あまり生産性の高くない慣習やガラパゴス的な霞が関の常識(本来は非常識)にフィットしないと活躍しているとみなされないケースもあると聞きます。 実際、霞が関に必要な適応はしつつ、ソトならではの知見を活かすかたちで定着して、実績をあげられている方は増えていると思いますか? 

 ソトナカ:中途採用者による新たな価値の創出は、少しずつ各省で生まれていっています。 具体的にはなかなかお伝えしにくいですが、例えば、企業支援の政策を考える際に、金融出身者がファイナンスの考え方や実際の中小企業の財務諸表を踏まえて政策に落とし込んだり、補助金の制度設計に当たって、コンサル出身者が現場のヒアリングを踏まえ成果に応じたインセンティブのある制度にしたり、といった例があります。 係長職で入省してから様々な経験を積み、今は局の総務課長を務めていたり、働きぶりを評価されて在外公館に赴任したりと、中途採用者の活躍の場も広がっています。 

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 活躍するソトナカ人材を増やすために何が必要?

栫井さん:そういう方々を、今後より増やすために必要なことは何だとお考えですか?

ソトナカ: 私たちの間でよく話題になるのは、「最初の配属先の上司や同僚に恵まれたよね」ということです。一人一人の適性を見て、早く戦力になるよう目をかけてもらいました。 一方で、そうした対応がなされるかどうかは、やや属人的なところもあり、組織全体としての定着支援はまだ不十分です。霞が関に特有の知識やスキルを効率的に学んだり、必要なネットワークを築いたりするための支援がなく、数年で惜しまれつつ辞めていく方もいます。こうした面での組織一丸となった支援があれば、中途人材がさらに活躍できる余地はあると思っています。

 また、霞が関全体で中途採用職員が増えることにより、霞が関の仕事の仕方が、標準化・効率化されていく側面もあるかと思います。この標準化・効率化が進むことで、将来的には中途採用者が定着までに要する期間が短くなり、数年の在籍でも成果を出しやすい環境へと発展する可能性もあると感じています。 

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中途採用者アンケートから浮き上がった、オンボーディングの課題

 【後編に続く】 

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