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ごく一部のトップ経営者しか知らない経営の裏ワザ ~キャプティブ保険~

「#私の仕事」というお題を見つけたので、僕のちょっと変わった仕事のお話をしたいと思います。

どのくらい変わっているかと言うと、日本で僕と同じ役職名をもっている人は一人もいないと断言できる。そのくらい変わっています。

公表されている資料によると、世界に同じ役職名の人は23名います。その中で日本人は、僕だけです。僕の仕事は、ハワイ州キャプティブ保険マネジャーです。

キャプティブ保険マネジャーの仕事

ハワイ州の保険局から認可を受けたキャプティブ保険マネジャーとして、ハワイ州で保険会社の設立と運営をサポートするのが、僕のお仕事です。

僕は米国会計士の資格と、ハワイ州キャプティブ保険マネジャーの認可を持っています。新卒で財務監査の仕事を8年やった後、6年前からキャプティブ保険に特化しました。

仕事内容は、コンサルティングが4割、会計が4割、コンプライアンスが2割くらいです。場合によっては、社外取締役や執行役員をお願いされることもあります。

僕のクライアントは、7割が日本企業、3割がアメリカの企業で、年商100億円から1000億円くらいの規模の企業です。業種は製造業やサービス業など様々です。僕のクライアントの中には、みなさんが普段使っている商品やサービスを提供しているような企業もあります。

ハワイに住んでいますが、仕事をする相手はアメリカ本土や日本です。普段は自宅で仕事をしています。ホノルルにオフィスはありますが、オフィスへ行くのは来客がある時だけです。クライアントが年次総会のために来たり、キャプティブ保険の導入を検討している企業が訪ねてきてくれます。日本への出張は、年3回くらいです。

そもそもキャプティブ保険て何?

みなさんも、自動車保険とか生命保険を買いますよね。毎月少しずつ保険会社にお金を払って、何か大きな事故があった時にまとまったお金を払い戻してもらいます。大勢の人からお金を集めておいて、大変な事故にあった人に分配してあげる。一人では抱えきれないリスクも、みんなで抱えれば怖くない。これが保険の考え方です。

個人や会社が保険を買うのは、自分で抱えられないリスクがあるからです。でも、もし会社がある程度大きくなって、ちょっとしたリスクではビクともしないとしたらどうですか? 社員数や子会社の数がある程度の規模になったら、その中でお金を持ち寄ってリスクを抱えられますよね。

キャプティブ保険というのは、保険を買って自社のリスクを保険会社に丸投げするのではなく、自社で主体的にリスクを管理したい企業が導入する仕組みです。

具体的には、キャプティブ保険の法律が整っている国や地域に、企業が保険会社を設立します。キャプティブ保険会社のお客さんは、自社グループ内の他の子会社や、従業員、自社の顧客などです。

キャプティブ保険会社の役割は大きく分けて3つあります。

1.保険料の削減

自社で抱えられるリスクをキャプティブ保険会社が管理することで、保険会社に支払う保険料を削減することができます。

例えば、今買っている火災保険の免責額が100万円だとします。100万円までの損害は免責なので、事故があっても保険の適用にはなりません。自腹負担になります。

でも場合によっては、1億円くらいの損害でも痛くも痒くもないという財務体質の企業もあります。こういう会社は、1億円までの火災リスクをキャプティブ保険会社に引受けさせます。

キャプティブ保険会社は子会社なので、グループ全体としてはの収支はプラマイゼロです。保険会社に払っていた保険料分の削減になります。

一方で、1億円以上の大きなリスクに関しては、保険会社の保険を買って対応します。これを再保険といいます。再保険の購入は、保険会社にしかできません。

海外には競争力の高い再保険会社がたくさんあります。自社で抱えられない大きなリスクに対しても、キャプティブ保険会社を通して質の高い保険を低コストで調達することができます。

2.特殊な保険の調達

海外に保険会社を保有することで、日本では手に入り難い保険を調達することができます。例えば、企業向け地震保険などは、日本では手に入り難いうえに高額になりがちです。キャプティブ保険会社は、これを海外の市場からリーズナブルに調達することができます。

企業が日本で地震保険を買った場合、工場やビルなどの不動産に対する損害は補填されますが、被災して営業停止中の固定費などは補填されないのが通常です。

海外から地震保険を調達すると、営業停止のリスクに関しても補填されます。日本国内よりも、質の高い保険が手に入るわけです。

さらに、日本国内では高額な地震保険が、海外では半値以下で調達できることもあります。

キャプティブ保険は、国内外で提供されている保険に質や値段の格差がある場合に、真価を発揮します。

3.売上への貢献

キャプティブ保険会社は保険会社ですので、所有している企業は限られた範囲の保険ビジネスに参入することができます。

普通の保険会社のように広告を打って不特定多数に保険を売ることはできませんが、既存の顧客へ保険関連のサービスを提供したり、任意の保証契約を売ることができます。

小売業や不動産業、サービス業などでは、本業の周辺に保険に関するお金のやり取りが発生していることが良くあります。例えば、小売業にとっての延長保証や、不動産業にとっての入居者保険などです。

これらは、受取ったお金を保険会社へ横流しにしているわけです。こういった本業の周辺に存在している保険的なお金を、キャプティブ保険会社で収益化します。

大企業だけが使える経営の裏ワザ

「キャプティブ保険」と聞いて、ピンと来た人はそうとう情報感度の高い人ですね。日本でキャプティブ保険を知っている人は、ほとんどいません。

損害保険の用語ですが、日本を代表する大手保険会社の社員でも、キャプティブ保険の概要をちゃんと説明できる人はほとんどいないのです。そのくらいマイナーな分野です。なぜそんなにマイナーなのかと言うと、理由は色々あります。

先ず、日本国内では活用することができない仕組みです。日本の法律が、キャプティブ保険のために整備されていないからです。日本企業でキャプティブ保険を活用したい企業は、ハワイ州などキャプティブ保険の法整備が整っている地域に行く必要があります。国内で活用することができないので、情報が極端に少ないというのが大きな理由です。

次に、対象となる企業の規模があります。キャプティブ保険は、ある程度規模の大きな企業しか活用することができません。必ずしもそうではありませんが、キャプティブ保険の導入を検討する企業のほとんどは、年商100億円以上の企業です。

最後に、キャプティブ保険会社はグループ内の他の子会社や従業員を相手にする会社なので、情報が社外に出にくいということがあります。みなさんが良く知っている企業でも、実はキャプティブ保険会社を所有している企業はたくさんあります。しかし、あまり社外に宣伝する類のビジネスではないので、社員ですら知らないなんてことが良くあります。

一般の人にはなじみの薄いキャプティブ保険ですが、実は間接的にキャプティブ保険会社のサービスを利用している人は結構多いと思います。例えば、みなさんが毎月支払っている携帯電話の保証サービスや、不動産会社を通して買っている家財保険、家電量販店で購入した延長保証などは、キャプティブ保険会社のビジネスかもしれませんよ。

日本の経営者だけが知らない世界の常識

日本ではマイナーなキャプティブ保険ですが、海外、特にアメリカの経営者の間では常識です。アメリカで対象となる規模の企業は、ほぼ確実にキャプティブ保険会社を持っているか、もしくはすでに導入を検討したことがある企業がほとんどだと思います。

米国企業が所有しているキャプティブ保険会社の数は、約4000社といわれています。フォーチュン500の企業の約9割がキャプティブ保険会社を所有しているという話もあるくらい、キャプティブ保険は浸透しているのです。

一方で、日本企業が所有しているキャプティブ保険会社の数は、150社程度です。僕は、日本でキャプティブ保険に関する講演会を行ったり、個別の企業にキャプティブ保険について説明する機会がありますが、世界に名だたる大企業の執行役員クラスの人でも、キャプティブ保険について何も知らないことに驚かされます。

最近では日本の企業が積極的に海外の企業を買収して経営の多角化を図っていますが、買収した企業がキャプティブ保険会社を所有していたなんて話がよくあります。本社の管理部が、キャプティブについて何も知らなくて取扱いに困っている、なんて相談もあります。買収先企業のリスク管理部の方が先進的で、本社の担当者が主導権をとれないわけです。

これは僕の個人的な意見ですが、日本企業によるキャプティブ保険の導入は、アメリカと比べて40年ほど遅れています。そのくらい差がある分野です。

日本のキャプティブ保険会社を2000社に

僕は以前、アメリカ企業のキャプティブ保険会社を中心にサービスを提供していました。グーグルやウーバーなどのアメリカ企業が、キャプティブ保険をあたりまえのように運営している状況を、この目で見てきました。

一方で、日本企業は執行役員レベルでもその存在さえ知らないという状況に、強い違和感を覚えました。日本の大企業は、世界と勝負しています。お国柄や情報格差では済まされない、大きな差だと思っています。日本企業が世界と渡り合える競争力を手に入れるためには、、先ずその差を埋めることが必要だと思います。

この分野で活躍している専門家たちの地道な活動のおかげで、日本でもキャプティブ保険の認知度が徐々に上がってきています。そして日本企業によるキャプティブ保険会社の設立は、年々増加しています。

日本企業が保有しているキャプティブ保険会社は、現在の150社程度だと言いました。僕は、いつか日本企業のキャプティブ保険会社は、2000社程度まで増えると考えています。そのお手伝いをするのが、僕の仕事です。

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