なりたいけれどなりたくないコーチ像 「1兆ドルコーチ」

会社に所属しているのは、子どもではなく、自立した大人だ。中には子どものような振る舞いをする人もいるが、新卒なら数年は目を瞑るにしても、遅くても30歳くらいにはそんな振る舞いは許されなくなり、自立しなければならない。

さて、そんな大人たちには、何かを教えるのではなく、自ら学び、気づき、成長するきっかけを与えるコーチングという手法が、この十年くらい持て囃されている。コーチングには、相手を一人の対等な人間として尊重し、質問を中心とした対話が求められる。簡単そうに見えて、年功序列、上下関係が染み付いたいわゆる日本的企業の会社員にとっては、意外と難しいものだ。

この本は、GAFAにおいて大きな役割を果たした名コーチ、ビル・キャンベルのコーチング手法を描いている。彼は率直で粗雑な物言いをし、誰彼構わずハグをする、私にはとても真似できないし、したくない。しかし、彼自身が有能であったことは当然の前提として、親身になって相手のことを考え、愛情を持って行動するので、敬愛される人物だった。最近、ワーク・ライフ・バランスと言われ、仕事とプライベートを切り分ける風潮がある。リモートワークが進む中で、この流れは加速するのだろう。しかし、それは決して他者に関心を持たないということではないことを彼は教えてくれる。

グーグルがマネージャーを置くのをやめたが、その後、必要性を再認識して、すぐにマネージャーを復活させたのは有名な話だが、有能な人材が集まる組織ほど議論に決着をつけるマネージャーが必要であり、どんな人物にも成長を促すコーチが必要なのである。マネージャーの役割は、部下の成功と幸せを願うことであり、そのためには優れたコーチであることが求められる。

この他にも、組織で決めたことには、たとえ不満があっても全力で尽くすこと、困難な問題にはペアで対処させること、わからないことははぐらかさず、わからないと伝えること、フィードバックは素早く率直に伝えること、問題への対処よりも優れたチームビルディングが重要であること、チームファーストの姿勢など、会社員として胸に留めておきたいことが散りばめられている。

ビルのような振る舞いはできないし、やりたくないが、部下に対してはビルのように愛情を持ち、一人の人間として尊重する人物でありたい。

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